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薔薇がこぼれた原稿用紙

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以前公開していたエッセイの再掲。
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#コラム

エッセイ【満月がいっぱい】

エッセイ【満月がいっぱい】

何処か、この月が見ていない場所へ、逃げたいと思った。
そんな書き出しから始めた掌編がありました。雑誌に投稿した話なので公開はしていないのですが、よく思い出す一文です。
月の光さえ眩しくて、優しい夜にだけ泣いていた帰り道がありました。月の明るい夜で、誰も私を見ていないのに、月だけが白っぽくて。泣いている私を照らすので、『君も酷いことをするんだね』と、思ったところで何にもならないことを思いました。

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エッセイ【読めなかった本の話】

エッセイ【読めなかった本の話】

住んでいる場所の区役所に用事があった時に、区役所併設の図書館を覗きます。
何か面白そうな本はないだろうかと、特に目的はなくふらふらと本棚の間を彷徨う。区役所に行った時の、私の暇つぶし。
私は国内の作家さんの本を読まないので(何故か読むのが苦手、海外の翻訳文学や古典ばかり読みます)いつも海外の翻訳された小説のあたりをうろうろします。
その日、いつもは見ないくせに、海外のエッセイの棚を見ていました。エ

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エッセイ【白の階調】

エッセイ【白の階調】

眼球の、白目の部分の描写をするのが好きです。
そこばかりを詳しく書く機会は無いのですが、物語の展開上で目の描写をする時、白目の表現が楽しい。
絵師さんが目に光を入れるときの感覚と似ているのだろうか。絵が描けないので全く同じかどうかは私には言えないけれども、目の描写は、身体のどの部分を書くときよりも命を吹き込む作業に感じます。
白目の白が、どんな白なのか。
目の話を続けると、登場人物一人一人の虹彩の

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エッセイ【心に薔薇を植える】

エッセイ【心に薔薇を植える】

以前、私がよく行く場所の近くにあるケーキ屋さんに併設されたカフェで、学友の文豪とお茶をしていたとき、ランチセットで選べたお茶の名前を、私はきっとずっと覚えていると思うのです。

「南仏のお花畑」

そういう名前のハーブティーでした。
私と学友は、
「私たちの頭の中みたいな名前だね」
といって、笑って南仏のお花畑を召喚したわけです。

頭の中が、お花畑。
私の頭の中は、薔薇庭園でしたし、今も薔薇庭園

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エッセイ【心が減るという表現】

エッセイ【心が減るという表現】

以前、掌編を書いていたときに、

『心が減る』

という表現をしたことがありました。確か、小説投稿サイトに連載している掌編オムニバスに収録されているどれかの話に書いたのです。

「心が減る」感覚は、きっとたくさんの方が経験したことがある気持ちだと思って、書いたのを覚えています。勿論、その言葉が表現として出てきた以上、私もその感情を抱いたことがあったのでしょう。この気持ちをもっと掘り下げて、伝えられ

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