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掌編小説【薔薇喪失】

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美貌の公爵こと麗人薔薇柩による美と幻想への耽溺。 最も美しいものを失い、自らの美貌に処刑された貴公子の、優美な日常と殺伐の物語。 掌編小説。耽美小説。幻想文学。幻想小説。
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#怪奇小説

掌編小説【薔薇喪失】04.海

掌編小説【薔薇喪失】04.海

 潮の満ちた暗い海を、麗人はひたひたと歩いていた。砂浜から続いていた長い桟橋を、もうどれくらいの時間が過ぎたのか分からないほどに歩き続けていた。高潮で桟橋は波を被って沈んでいた。麗人はその道を、足を濡らしながら何処までも歩いていた。潮風と、波の音を杳然と聴きながら、塩分を含んだ風に長い髪を軋らせて。振り返ってみると、リボンで結わいた黒緑の長い髪が麗人の横顔を素っ気なく撫でた。岸は、もう、見えなかっ

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掌編小説【薔薇喪失】03.『渇き』

掌編小説【薔薇喪失】03.『渇き』

 薄ぼんやりと煤を上げて、めらめらと燃える蝋燭が宙に浮きながら血を滴らせていた。赤い蝋燭の血が、祭壇に近づくものを焼き払いながら、そこに横たわる薔薇の香りを守り鎖していた。力ない軀を祭壇に横たえているのは、麗人だった。凛々しい柳眉を物憂げに、鋭い険のある眦の明眸を明滅させ、長い睫毛が傲慢に瞳に影を塗る、美貌。至高と崇高を兼ね備える高貴は、誰の目に映ろうと美を顕然かつ客観的事実として焼き付ける。緩く

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掌編小説【薔薇喪失】01.『深海に溺れる星』

掌編小説【薔薇喪失】01.『深海に溺れる星』

 麗人は『薔薇庭園(ゴレスターン)』の入口から、真っ白な階段を上っていた。骨を精製してつくった白い土を、薔薇の蔓がモルタルとなって繋ぎ、強固にして存在を続ける要塞都市は、乾ききった死によって構成されている。麗人は庭園の支配者として階段を上っていた。薔薇を編み込んだ黒緑の長い髪を横に流し、豪奢で長いマントの端を薫る死の風に翻しながら、踵が高い編み上げのブーツで屍を越えるような厳かな歩みを続けていた。

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