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空に波を見たひと

今日は街中に用事があり、朝早くにでかけました。

風は少しひんやりとするけれど、陽射しの温もりを感じる春らしいお天気。
線路沿いに並ぶ桜も咲き始めていて、歩いているだけで心地よさを感じました。

用事を済ませたのがちょうどお昼どきで、お腹もすいており、「お昼ごはん、どうしようかな…」と考えながら歩いていたところ、公園の前を通りかかりました。
その公園には大きな桜の木があって、ベンチもいくつか置かれていたので、「そうだ、この近くのパン屋さんでサンドイッチを買って、桜を眺めながら食べよう」と思いつき、お花見をすることにしたのです。

公園のベンチには、会社員とおぼしき方や、学生さん達が腰掛けてお弁当を広げており、わたしもその一員に加わりました。
桜とその向こうに広がる青空をみながら食事を楽しんでいたところ、ふと、一首の和歌を思い出したのです。

「櫻花 散りぬる風の なごりには
        水なき空に 波ぞ立ちける」
                                                                    紀貫之

実際には、散るどころかまだ満開にもなっていないのに、なぜか咲き誇っている桜をみると、散る場面を頭の中に無意識に思いえがいてしまう癖があります。

桜を詠んだ和歌は星の数ほどありますが、その中でも
この貫之の一首は特に好きな歌です。

この一首に出会うまでは、「紀貫之=土佐日記の作者、古今和歌集の撰者」という"歴史上の人物"としての認識しかしていなかったのです。
けれど、この歌の表現を目にした瞬間、この人は生身の体を持って生きていて、空に波を見たのだな、と思い、急にこの歌人が身近な存在に感じられました。

あらためて、千年以上の時なんて軽やかに飛びこえてしまう、言葉による表現の凄さを感じます。

今度は落花のときに、またここを訪れようと思いました。

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