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和の心がよみがえる。山種美術館

銀杏並木の坂を登る。

東京都・広尾。恵比寿駅の西口を出て、山種美術館に向かう道すがら。街路樹に晩秋を見た。秋風、いやすでに木枯らしだろうか。凛とした寒さが心地よい。

初めてこの美術館に来た日はよく覚えている。
いつかの8月、それもとんでもない猛暑日。「駅から10分? たいして遠くないし、バスに乗らなくてもいいかな」と気軽に出かけた私は、坂道を歩きながらダラダラと汗を流した。エントランスに着いた頃には顔面も赤く、展示室へ入る前にロビーのソファで涼んだっけ。

けれども、そんな四季の移ろいすら風流なものだと思い直したくなる。ここは日本で初めてできた、日本画専門の美術館。季節に対する日本人の繊細な感性を味わえる。

山種美術館の入り口。
夏は銀杏並木も青々としていた。

山﨑種二(やまさきたねじ)が設立したから山種、らしい。

彼は青年期に「いつか自分も美術品を購入してみたい」と夢を抱いていたものの、初めて手にしたそれが偽物だったというショッキングな経験をした人物。以来、彼は同時代を生きている画家からしか作品を買わなくなったそうだ。しかし、こうした活動があったがゆえに今、私たちは珠玉のコレクションとお目にかかれる。

横山大観に上村松園といった錚々たるメンツ。日本画界隈を牽引するアーティストと直接面識があったなんて、なんだか夢がある。
色々と胸が熱くなるエピソードは、1階の映像コーナーで繰り返し流れる『山種コレクションの魅力』で深く知ることができる。

さぁ、展示室へ行ってみよう。


特別展『日本の風景を描く —歌川広重から田渕俊夫まで—』


展示室

地下にある展示室へ行くのは、楽しい。階段を降りていくとき、言いようのないワクワク感が湧き上がる。
ガラガラと自動ドアが開くと、目の前にタイトルバナーが現れた。

そして広がるのは、さまざまな風景。

1枚の絵を前にして、想像の世界に入ってみる。たとえば今目の前に「どこでもドア」があって、開けた先にこの絵の光景が広がっていたら。旅人になったみたいに初めての風景を見渡してみる。風の感触、水の音、人々の話し声をイメージする。そうやって次々、いろんなドアを開けてみる。

桜、紅葉、三日月、森の中、街角そして——心の中のどこでもない世界。

風景画は、世界にまだ知らない場所が溢れていることを教えてくれる。知っている場所だけで生きている日常に、イマジネーションの余白が生まれた気がした。

米谷清和《暮れてゆく街》昭和60年 山種美術館所蔵

ミュージアムショップ

メインの第1会場を1巡すると、ミュージアムショップの入り口が迎えてくれる。図録やポストカードのほか、和グッズが豊富で見ていて楽しい。

ショップの先には小さな第2会場がある。ワンフロアの小さな美術館、そのこぢんまりとした居心地の良さを時々求めてしまう。

ミュージアムカフェ

ここに来た日のとっておきの楽しみが1つある。和菓子。

館内にある「cafe 椿」は通りに面した日当たりの良いカフェで、にゅう麺やスイーツを提供している。名物のオリジナル和菓子は展覧会ごとに5種類ほど販売され、どれも展示作品にちなんだ美しいデザイン。

きれいな鶯色の抹茶はほろ苦く、心を和の世界へ連れて行ってくれる。

山元春挙《火口の水》をイメージした和菓子「みなもの色」
「美肌梅にゅう麺(写真上)」や「ヘルシーにゅう麺」など
健康志向の方にもおすすめのメニュー。

おわりに

「私は、将来性がある人の絵しか買わない」

種二はそう言って無名の画家を励まし、親身になって支援した。米俵を送ったり、家を貸したり。それくらい彼は「美」に関心があり、徳の高い一面を持っていたのだろう。

山種美術館は今でもその精神を守り、公募展の開催をして日本画家たちを支えている。

四季のある国、日本。
都心の片隅で、心の豊かさを思い出す。

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山種美術館
〒150-0012 東京都渋谷区広尾3丁目12−36
TEL:050-5541-8600
公式ホームページ

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