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2月3日——豆撒いて邪を払う

【鬼は外】【福は内】

2月3日は【立春】の前日、節に分かれると書いて【節分】
もともとは四季それぞれの分かれ目を意味する言葉だったらしい。然し、現在は冬と春の境を指す。春を迎える間近、一年を健康に過ごすために邪気を追い払おうと【豆撒】をするのだ。

東京で一人、その日を迎えた夜。私は実家の行事を思い出していた。

私と3つ下の弟がまだ小さい頃の話。夕食を済ませて居間で寛いでいると、ふとさっきまで居た父の姿が見えなくなっている。

それから急にインターホンが鳴る。ドアを開けると、そこに立っているのは赤いお面をつけた上裸の鬼だ。おもちゃの棍棒を持って玄関から入ってくる鬼に、小さな私と弟はキャーキャー言いながら豆を投げて、鬼が頭を抱えながらすごすごと退散していくのを見て大笑いした。

暫くすると服を着た父が戻ってきて「ちょっとトイレに行ってたんだけど、何かあったのかな?」と小芝居をするところまでワンセット。今思うと凄い。2月の極寒の中、私たちの“おとうさん”は体を張っていた。

母はバラエティ豊かな恵方巻きを買って来ては、全部輪切りにして出していた。太くて長い恵方巻きを1本食べるよりも、いろんな種類を食べたいでしょう?と。これも懐かしい。

今も思い出す、恵方巻きの記憶。

昨今で話題になるコンビニ商戦には辟易するけれど、それでも文化や風習が残り続けるなら悪くはないだろう。

私は近所のスーパーで売っている恵方巻きがここ数年気に入って、毎年予約するようになった。今日は受け取りの日。店員さんが予約票を見ながら恵方巻きを持ってきて、「私も全く同じの買ったんです!」と明るく笑った。この人にはよく話しかけられるから、きっと顔を覚えられている。

最もスタンダードな具材。それが良い。

南南東を向いて一口。2本買ったうちの1本は伝統的な具材のもの。卵焼きにどんこ椎茸、干瓢、きゅうり、高野豆腐。鰻と海老も入ってる。

もう1本はアボカドやマヨネーズが入った海鮮巻き。こういうのも良い。

節分の日は、いわし。

魔除けのために【柊挿す】——柊(ひいらぎ)の葉が付いた枝に、焼いた鰯の頭を刺して飾ることもあるらしい。あいにくこの物件に魚焼きグリルはない。オーブントースターで焼いても良いけれど、ものぐさな私は缶詰で済ませてしまう。

夕暮れ時、飲み物を買いに気分転換がてら外へ出たら、どこかの家から鰯を焼く香ばしい匂いがした。いいなぁ。

煙たい匂いのする路地を抜けて自宅近くまで戻る。一転して、甘い香り。白梅がたわわに咲いているのを見た。

近所の軒先、白梅の枝

【梅早し】、

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——【春遠からじ】

参考文献
『俳句歳時記 冬 第五版 角川書店編』
(角川ソフィア文庫)

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