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それは色鮮やかに


昨日の夜、ネイルポリッシュを丹念に選んだ。選びとったのは澄んだ青色とちらちらラメが輝く緑色で、ふたつを丁寧に重ねて塗ると、指の先がたちまち海の底のような深緑色になっていた。アラームが鳴る前に目覚めたあと青色の洋服を選び、緑色の時計を身につけて、いつもよりすこしだけ時間を掛けて髪の毛を巻いた。おきにいりのレモンの香りをからだになじませる。さくさくのアップルパイを食べた。ミルクたっぷりのコーヒー片手に、天気予報を見る。今日は晴れだ。

いまわたしは、精一杯の平常心を装って、がたがたと電車に揺られている。

きっと周りの人からすれば今日はただの土曜日、ただの休日、ただの6月26日。何ら変わらない日常の中の1日に過ぎない。わたしがこんなにも、「浮かれている」ということも「そわそわしている」ということも「胸の高鳴りを抑えられない」ということも、もちろん、誰も知らない。だからこそ、私しか知り得ないこの「特別」と「秘密」を胸に閉じ込めては頬を緩めてしまうことを、やめられない。

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「"小説を書くこと"によってグループに還元したい」と話していた加藤シゲアキさんと、「"もっとお芝居をしていって"グループに還元したい」と話していた正門良規さんが、こういうかたちで交わるのは運命だったのかもしれないね。 お互いが携えた武器を併せてつくっていく舞台、最高に違いない。

勝手に運命だと舞い上がってしまったのは、大好きな人が原作者であり脚本家である作品を演じるのが、これまた大好きな人であったからだ。ひとつひとつの点が繋がって星座のようにおおきなかたちになった瞬間を勝手に目撃したみたいでどきどきしていたし、好きな人と好きな人が導かれるようにこんなかたちで共演するのはとんでもなく、やっぱり嬉しかった。

幕が上がらなかった2020年、絶対に絶対に「加藤シゲアキ脚本 /正門良規主演」の舞台が観たいと願っていた。いつの日か、必ず。そのときは、必ず。結ばれた糸がつよくつよくなりますように、ほどけていきませんようにとずっとずっと、心待ちにしていた。

だからこそ、グローブ座の幕が上がったその日から、毎日バトンが繋がれていったこと、何事もなく東京千秋楽を迎えられたこと。カンパニーの信頼関係が日に日に強くなり、空気感が鮮やかになっていくことが手に取れて分かること。そして、こうやって私が観劇出来る日が訪れたこと。なんらかの縁があり、何事もなく劇場に向かうことが出来ること― が、本当に嬉しくて、嬉しくて。抱きしめていた特別にさらに色がついていく。

今日も、舞台の幕が上がる。わたしの特別がまたひとつ増える。


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