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「分かりやすい」こと、「分かりやすくする」こと

私の名刺には肩書がありません。
フリーランスになって以降、一度も入れたことがありません。

自己紹介をしなければならない場面では「イラストレーターです」と名乗るようにしていますが、他人に紹介される時はたいてい「ウチのデザイナー」と紹介されることのほうが多いです。会話の流れで「デザインする立場からするとここはこう……」という表現を使うことはあっても、自身を「デザイナー」と称することもないですね。

昔はそれなりに描いてましたが、最近は絵なんてとんと描いてないし、たまに描いたとしても面倒なのでちゃちゃっと描けるものだけって感じです。じゃあなんで描いてもいないのに「イラストレーター」を名乗るのかというと「分かりやすい」からです。

デザインの場合は、案件によって仕上がりは全然変わりますし、そもそもサンプルを見ても分かるのは「最低限のテクニックがあるか」程度のことでしかありません。でも「イラストレーター」の場合は、サンプルを見せれば「ああ……こんな絵を描く人なのね」というのが一発で分かります。字は体を表すといいますから、絵も多少はそうなんじゃないでしようかね。

「分かりやすい」より「分かりにくい」方がイイって人は滅多にいるモンじゃないと思うんですが、どうもわざと「分かりにくく」してるんじゃないかってケースも多々ありますよね。

役所なんかで主査と係長の名刺出されると、どっちがエラい人なのか全然分からないし、対外呼称と待遇呼称が違う名刺ってのもカンベンしていただきたい。

一方で「分かりやすい」に寄っかかって、手抜きなんじゃないのかと思わせられるケースもありますよ。

石川県は新聞の地方紙比率がものすごく高いんですが(地方紙比率95.36%・全国2位/adv.yomiuri 2017)、読んでると「分かりやすく伝える」を通り越して、「分かりやすいことだけ伝える」ことしかしてないんじゃないかと思わせられます。国際情勢や経済情報なんかホンの触りだけ。地方の情報を伝えるのが矜持なんでしようから、学校新聞の延長みたいな記事ばっかりでもいいんでしょうが、もうちょっと深堀りしていただきたい。

この「分かりやすさ」というやつは実は曲者です。そこに「情報量の少なさ」が隠れている可能性がありますからね。

よく「規約が分かりにくい」というトラブル事例が伝わりますが、あれは「全体として提供されている情報のうち限られた量しか伝わっていない(伝える意志がない)」っていう状態です。

話をもとに戻しますが、私が「イラストレーター」を名乗るのは、それが「分かりやすい」肩書だからです。「イラストレーター」を名乗ることで「絵を描く人」という分かりやすい情報を伝えることができますから。

ただ、それは私個人の情報を正しく伝えていません。

私個人のプロフィールには、デザイナーやプロモーションディレクターといった実績が並びますし、クライアントも出版、商業印刷、はては政党支部と多種多様。しかもフリーになる前は外勤の営業マンです。その上、絵も描きます。

ものすごく「分かりにくい」。
なにをする人なんだか全然分からない。

なので肩書のない名刺をお渡しして「イラストレーターですが、ほかにもいろいろやります」とお伝えしています。

「歌手」という肩書は「歌う+人=Sing+er」ですよね。イラストレーターもディレクターも「+er」です。最近は「インフルエンサー」という肩書もあるらしいので影響力にも「er」が付くらしいですが、そういう意味では、私は私自身に「er」を付けてます。「なにか私に出来そうなことがあったらお声かけください」「連絡先はこちら」という名刺なので、肩書はないという訳です。

モノは作りますが、なにか新しいものを Createしている訳ではありません。従って「クリエーター」ではないです。依頼がなければ作りませんし、主張したいこともないので「アーティスト」でもありません。自信を持っていえるのは「器用貧乏」だってことぐらいです。

私の場合ありがたいことに、お付き合いが先で後追い的にお仕事をいただくことが多かったので、自然と「できそうなので、やってみましょうか」という形でスタートすることが多々ありました。当然、いくつかは失敗しています。ゲーム仕事は向かなかったですね。できたけれど、負荷が大きすぎてヤメた仕事もあります。断るべき時にちゃんと断わるのもフリーランスの大切なスキルです。

情報は多いほうが判断はしやすいです。でも多すぎる情報もしくは「分かりにくい」情報はかえって判断の邪魔をします。

重要なのは「分かりにくい」情報を「分かりやすく」することであって、「分かりやすい」ものだけに飛びつくと結局大もとの目的を見失いかねません。

仕事をする上において「このチラシをこんなふうに作りたいんだけど」というのは「分かりやすい」オーダーですが、「なにを訴求するのが目的なんですか?」から話を始めないと、そもそもクライアントが求めているものを見誤ります。

「それならこうした方が……。そもそもチラシじゃないほうが……。元々の問題はどこにあるんですか?」とどんどん話が拡張していきます。

デザインするということは、橋の装飾を考えることではなく、向こうに渡る橋をかけることです。かけ方がわからないなら一緒に考えればいいし、かける人がすでにいるならその人の意向を形にすればいい。その人がイラストが必要だというなら「ああ、私はイラストレーターですよ」という分かりやすい形に落ち着きます。実際、こちらが描き手に徹することで長く続いた仕事もあります。

もし、あなたがフリーランスで、仕事がなかなかうまくいかずに悩んでいるいるなら「分かりやすい」ことをただ形にしてるだけなんじゃないかと自問してみるといいかもしれません。「分かりやすい」ことと「分かりやすくする」ことは違います。

最終的に顧客の満足を得なくては仕事になりません。

プロである以上100%は当たり前で、それにどれだけ上乗せできるかが勝負です。「分かりやすい」ことは顧客にも分かりやすいので、上乗せ分は「分かりやすくすること」でカバーするのが得策です。

長い文章でしたね。
では「分かりにくい話」を「分かりやすく」要約してお終いにしましょう。

『客が欲しいのはドリルじゃなくて、穴だ』

じゃ、またね。


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