没小説#1 『勇者がクローンを倒す話』

この世界には二百人の勇者が存在している。

厳密にはそれはクローンと呼ばれる、ある人物を模した複製体で三十年前に魔王が討伐されたのをきっかけにとある預言者が残した数十年後に魔王が復活するという予言を聞いた国王が"今後復活するであろう魔王に対策して勇者のクローンを作る"という提案を出した。

勇者は二つ返事し、クローン計画は推し進められた。

しかし、それが世界に大きな爪痕を残した。

勇者の肉体は長きに渡って冷凍された。そして世界を護る新たな勇者のクローンが二百人も生み出され、世界から魔物が消え去ったと思えた。

だが魔王討伐から三十年経ち、ちょうど数ヶ月前に空に大きな亀裂が入り禍々しい煙が大陸に流れ込んだ。

その亀裂は後に魔界からこの世界へと渡る為に開かれた門であり、煙と共に流れ込んできた魔物達によって世界に再び血が流れた。

「クローンは一体どうなっている」

「誰か助けてくれ」

そんな声が何度も聞こえてきたがクローンは応えるどころか人を殺した。

心を持たないクローンを瞬く間に新たな魔王は脳を植え付け、魔物ではなく人を殺す兵器へと作り変えた。

殺戮の兵器と化した世界から人々は片隅へと追い詰められ、始まりの王国と呼ばれし辺境の国へと大勢の人が身を寄せた。


日々対策を講じる中で宮廷魔導師であるアミルは国王からある鍵を託された。

「この鍵はある研究所の扉を開ける事が出来る物だ。しかし、その扉には今は番人が住み着いているに違いない。そいつを倒して真の勇者を目覚めさせてくれ」

その命令を受けてアミルは国の地下にある研究所へと向かった。

十年前に充分な数を作れた事からクローン計画が終わりを迎えてから誰も研究所には行ってなかったようだ。

本当に勇者は無事なのか、それすら怪しい状況だというのに向かわされたアミルは錆びて開かなくなった扉の前に立ち尽くした。

「これは……」

非力な女性では到底、開けれそうにもない扉を前にアミルは立ち往生していた。

一体どうやって開けようか。魔法は通じるだろうか、そう考えていると背後からドシッ、ドシッと音を立てて巨漢の男が歩いてきた。

「……あ?なんだ、テメェ。勇者様の寝床になんか用でもあんのかよ」

恰幅のいい男性が荷物を担いで歩いてきた。

五十代だろうか。戦士のように見えるが衣服にかなりの劣化が見受けられると彼が番人なんだと直ぐにアミルは察した。

「あ、あのっ、私は宮廷魔導師のアミルという者です。国王の命令で勇者ユア=トリニカを目覚めさせる為にやってきました」

そう言うと男は眉間に皺を寄せ、嫌だという事を露骨に表した。

「ははぁ、国王サマがねぇ?あの脳みそが腐ったような奴が今更になって勇者様を叩き起すってどうせろくでもない話だろ。お前さん、何も知らずに起こしに来たんだろ?」

「い、いえっ、三十年前に勇者様の意思によってクローン計画が推し進められたのは存じていますが……」

「クローン計画なぁ……ハハッ、笑わせんなガキ!勇者は……ユアはこんな事がしたくてやったわけじゃねぇッ!!クソ国王に嵌められた、ただそれだけだ!!なんも知らねぇ馬鹿を寄越してくるって事はさぞ顔も見たくねぇんだろ、あの国王……」

人に嫌な顔をされる事はよくある。しかし、ここまで露骨で何もかもを否定するような言い方をされたのは初めてだ。

どうしてそこまで言われるのか、アミルは理解できなかった。

クローン計画を推し進めたのは我が王国の現国王だ。そしてそれに同意したのもまた勇者だと聞く。

しかし、見知らぬこの男は何やら知っている様子で語るその姿には嘘をついていない事がひしひしと伝わってくる。

意味が理解できないでいると「お前と話しても埒があかん」と言い捨てると手を差し出してきた。

「開けるんだろう?お前の目的なんざ興味ないが俺は勇者に会わなくちゃならん。さっさと鍵をよこせ」

「え、あっ……は、はい……っ」

恐ろしくなってあっさりと鍵を渡してしまった。

これで良かったのか、と後になって後悔してしまったが目の前で鳴り響く鈍い音、とても開きそうにはなかった扉が鍵をかざしただけでいとも簡単に開かれていくのを見てアミルは呆然としていた。

そんな彼女を放って男は先に乗り込んだ。担ぐ荷物から漂う芳ばしい香りにアミルはクンクンと匂いを嗅ぎながら後ろを追いかけるように走る。

「あ、あのっ」

「なんだ?」

大きなその背中に声をかけると彼は決して脚を止めることなく、しかし無視する事もなく答えてくれた。

「……毎日、こちらへ?」

「ああ、お見舞いみたいなもんだ。持ってきた飯は奴への捧げ物なんだが結局俺が食うんだ」

「……貴方なら扉、開けれそうな気がするんですけど……なぜ開けなかったんですか?」

「宮廷魔導師なら分かるだろ?この施設はただ単純な研究所ではない、魔法仕掛けの特殊な施設だ。俺がいくら殴ろうがこの鍵がねぇと開かない仕様なんだよ」

「……なるほど」

案外、馬鹿な人ではないんだと理解しつつ、それほど勇者に信頼を寄せているのかと理解を示した矢先に例の部屋へと訪れた。

鍵をかざして中に入るとそこはこれまでの空気とは異なり、かなり肌寒く身震いする部屋へと訪れた。

「おい、宮廷魔導師さんよ。このカプセルがそうじゃないか?これの解除、頼むわ」

「あ、はい!」

部屋の中心に置かれたカプセル状の生体保存機器を見てからアミルは室内をくまなく探索し、生体保存機器のロックを解除する事が出来そうな端末を見つけた。

男から鍵を受け取り、解除を試みると音声が流れた。

『宮廷魔導師クリフト・ケヴィンの認証を求めます』

その音声にアミルは「えっ」と声を漏らしながら眉を顰めた。

クリフト・ケヴィンとは先代の宮廷魔導師の中でも主導者であった人物だ。何らかの理由で行方不明になり、その後死亡が確認された。

もはや三十年前の事であり、彼の認証を求められても生まれる前の事であり、そして何よりも主導者であった彼の者の事をあまりにも知らないアミルには応えれるものではなかった。

しかし、背後で見守っていた男は大きなため息を吐いて端末に近付いた。

「……つくづく、どこまでも死者を冒涜する国だな」

そう言った彼は端末に手をかざし、文字を入力した。すると解除され、背後にあった機械からパカンと蓋が開くような音が聞こえてきた。

「わっ、開きました!ありがとうございます!」

「いんや、構わねぇ。クリフト先生にはお世話になったからなぁ」

「……先生?」

どうやら主導者クリフトと彼は浅はかならぬ関係があるようだ。それを聞きながらカプセルに近寄ると生体を保存する為に作られた機器には似合わぬ小柄な少年が眠っていた。

コールドスリープと呼ばれる人体を急速冷凍し、保存する技術。その影響を受けてか、はたまた元からなのか雪景色を見るかのように真っ白な髪に透き通るような白い肌が目に入る。

生命活動が始まった事により、少しずつ重たい瞼が開かれ視界の先に入ったであろうアミルを瞳が捉えた。

「……誰……」

ぽつりと呟いた小さな声。それを聞いてアミルは名乗った。

「あ、あのっ、宮廷魔導師のアミルです!勇者様を起こしに参りました!」

少女の声を聞いて少年は少し視線を泳がせ、辺りを確認してから上体を起こす。

そして少女の背後に立つ恰幅のいい、かつての仲間を見て少年は目を閉ざした。

「……どうして僕は目覚めさせた?世界の安全が守られているのなら起きるはずはないと国王は言っていた」

「今、世界は危機に瀕しているのです!勇者様のクローンが魔王に操られ……その討伐の任を勇者様に与えたいと国王様が仰っておりました」

アミルの説明に勇者は項垂れながら聞いていた。

どこか絶望しているように感じた。それは背後にいる彼からも伝わってくる。

どうして絶望しているのか、理解できなかったアミルを前に勇者はゆっくりと立ち上がり機器から出ると覚束無い足取りで部屋を歩き始めた。

「……そう、また……旅に出ないといけないのか。また僕は騙されたのか」

「だ、騙してません!国王様は騙してなんかいません!何かあれば必ず勇者様を目覚めさせる、勇者様は世界を救う唯一の希望の光だと……!!」

一言、アミルが発するだけでガシャンッと激しく音を立ててガラスが割れる音が背後からした。

振り返ると男が近くのガラスで出来た戸棚を叩き割るほどの抑えきれない怒りの衝動を見せていた。

「国王国王って、聞いてりゃくだらねぇ御託ばっか言いやがってッ!!勇者は、ユアはそんな腐った世界救いたくて旅に出たんじゃねぇ!!大体お前に何が分かるんだよ、お前にユアの何が……!!」

「ガットス、いけないよ」

破片が刺さり、血が滴る拳でアミルの胸倉を掴んで怒鳴りつける彼。

それを静止したのは勇者だった。

「……この人は何も知らない、ただの宮廷魔導師さん。怒りの矛先を向けるのなら国王に向けた方がいい」

「……ケッ、ユアがそう言うのならそれでいい」

怒りの矛先を見失い、大きなため息を吐くガットスと呼ばれた男は勇者ユアを挟んでアミルを睨んでいた。

突然、胸倉を掴まれて状況を理解できずにいたアミルだが勇者が出ていこうとするのを見て、必死に手を伸ばした。

「まっ、て……!!世界は、どうしたら……!!」

その言葉を聞いて勇者ユアは振り返ると微かに微笑んだ。

「一応、世界を見て回るつもりだ。しかし、世界を救うかどうかは見て回ってから考えるさ」

世界を救うも何も全てにおいて彼の匙加減。それを聞いたアミルは「そんなぁ〜!」と肩を大きく落とすと項垂れた。


勇者とその連れであろう戦士が施設を出てからアミルは扉に鍵をかけて施設を離れた。

国王にはそれとなく嘘を混じえて報告すると大層満足気に笑い飛ばしていた。これで世界は安泰だ、と。

しかし、あの勇者の様子では世界を救ってくれる可能性は少ないだろう。念の為にアミルは同行する事を伝え、宮廷魔導師としての任を一時休職扱いした。

身支度を整えて街に出ると勇者はどこに行ったのか。捜そうとすると早速巷では勇者のクローンがあちらこちらで暴れていると不穏な話をしているのが聞こえてきた。

「街を出たすぐそこで勇者のクローンが張り込んでいて殺されそうになった」

「うちなんかクローンに作物を盗まれたわ!」

「なんと街の中まで!?宮廷魔導師は何をしているんだ!クローンなんか作りやがって!」

不満の声に耳を傾けて頭が痛くなり始めた。





ここで飽きてしまった。
どうして飽きたのか。纏めてみると
・ヒロイン(アミル)が可愛くない
・勇者ユアと戦士ガットスのBLしか考えられない。
・そもそもヒロインの存在意義がわからん。

元々、応募用に書いていたので
ファンタジーならヒロインは必須だろうと思ってたけど自分は昔からヒロインっているのか?って思って書いていた為、ヒロインを主人公に持ってくるこの作品はかなり厳しかった。
この作品のテーマは勇者ユアがかつて仲間達と共に魔王を討伐するに至った過程を回想しながら、現在の新しい旅路に繋げていく回顧録みたいなものなので
ぶっちゃけ、ユアとガットスだけでも充分だったかもしれない。
一応、アミルは読者のような感覚で『どうしてユアがコールドスリープにあっていたのか。どうしてユアがそこまで嫌悪しているのか』を探るための重要ポストだったはず。
そして一応、それとなくユアに対して恋愛感情持つようになる……までは構想していたはずが
これでは作者の意図でガットス×ユアの構図が出来上がるので無理すぎる。

ヒロインっているのか……?

女性キャラが出ないってわけじゃないけど
ヒロイン枠ではなくて、こう敵対する人物とかの方が使い勝手が良く感じたりする……。

うーん、まとまらない。
書くという意欲に繋がらない……厳しい…。

といった感じで没行きになった小説でした。
お読み頂き、ありがとうございました!

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