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「そして、バトンは渡された」永野芽郁を女優として大きくした作品となるかもしれない映画

本屋大賞受賞の原作の映画化。原作を私は読んでいないが、多分、この構成は小説の順序通りの描き方なのではないかと感じる(実際はそうでないかもしれないが)。簡単に言えば、時間を壊して描いていって、それが繋がるときに大きなドラマが生まれるみたいな話なのだ。

そういうこともあり、映画は、最初に四人の登場人物の紹介から始まるが、その基本的な人間関係など説明せずに、彼らの性格だけをまずは紹介する。かなり不親切な始まりだからこそ、話を追ううちにその関係性がわかってくるパズルを楽しむようなイメージだ。多分、小説でもそういう部分を狙って先を読ませるということなのだろうと思う。まあ、リニアに時間軸も狂わずに見せられるより数段面白く、最後の結末に観客の涙を誘うような作りになっている。映画の構造としては、卒なく組み込まれている感じ。

しかし、監督の前田哲氏、「老後の資金がありません」と2作品、同じ日に公開だったのですね。パンデミックの影響でそうなったのでしょうが、舞台挨拶とか大変ですね。そして、シネコンで自分の2作品が競い合うってどうなの?って思いますよね。監督はそれほど重要視されていないのかもしれませんが?

それはともかく、作品の話に戻ります。ある意味、見ていない人、話を知らない人にはネタバレするとダメな映画なわけで、その辺は極力隠して行きましょう。主演の永野芽郁は血のつながっていない親、田中圭と暮らしている。この辺りも説明がない。永野が田中をお父さんと呼んでいないことがそのヒントとして与えられているだけだ。そして、彼女が親に愛されているのはわかる、だが、学校ではいじめられていたりする。そういう、一つ一つを観客に提示するだけであり、あまり親切ではない映画だ。最近の若者は、こういう流れをどう感じるのだろうか?と思ってしまう。

そして、もう一つの話がパラレルに語られる。こちらの主人公は、石原さとみだ。普通に見れば自己中心的な壊れた人間という描き方。でも、この役は石原さとみがぴったりだったりする。石原が、自分の役の世界を素直に演じられているからこそ、この話は最後に泣かせる話になる。そう、石原の明るい笑顔がたまらなく後に残っていたりする。

その二つの話が最後に結びつく、そう、時空がくっつくと、話が一気に二倍に濃厚になる感じはとても映画的な時間であった。まあ、原作の面白さをしっかり映画にトレースできたということなのだろう。少し、気になったのは、音楽をもう少し上手く使うべきだったのではないか?というところ。ピアノという道具も出てくるわけで、もう少し、リズムを感じるような絵作りがあれば、もっと盛り上がったろうにと思った。

そして、主演、永野芽郁の演技がかなりよい。今年は「キネマの神様」でも彼女がとても印象的だったし、この間まで放送していたテレビドラマ「ハコヅメ」でも初々しい警察官役をなかなかスマートにこなしていた。これから、まだまだ成長をしていく女優さんだと思っている。彼女は今、22歳。高校生役ができるのもそろそろ最後という感じだろう。女子高生の心のありかを探しているみたいな感じが、彼女のさまざまな振り幅のある演技で有機的にここに提示されている。最後のウェディングドレス姿、美しかったです。

そして、本当の親が近くにいなくても、周囲の愛に囲まれていれば、こんなに幸せになれるんだという役に、彼女はぴったりだった。だから、彼女は女優としても愛される人になるのだろうと思ったりもする。そして、結構、日本的な雰囲気を奥底に持っている人にも感じる。永野だけが演じられるような世界がいっぱいあるように感じるのはとても頼もしいところ。

この映画に提示されるドラマは、一時代前だったら、かなり珍しい絵図だったと思うが、今は、こういう境遇の人は多くいると思う。そういう親がどうしたこうしたの問題よりも、皆が幸せに生きられ共存できる社会が必要な時代だったりもする。そして、人が共存できる幸せな空間を求めて、人は次の世代にバトンと渡していくのだと思う。このタイトル、映画を見終わった後に見返すと、すごくしっくりいくタイトルである。


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