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「デッド・ドント・ダイ」ジムの台本通りの結末に哲学を感じるゾンビ映画

ジム・ジャームッシュ監督のゾンビ映画である。思った以上に面白かった。ゾンビ映画というものは、所詮メイクアップ以外はそんなに金のかかるものではない。ゾンビの出る異空間をどう作り上げるか?あとは、結末をどうするかというところであろう。

監督は、至ってスタンダードな作り方をしているので、安心して見られるゾンビ映画である。ゾンビが出てくるまでの時間が結構長いのも、観客心理を読んでいる。そして、ゾンビ退治に最後は出ざるを得なくなる、警察の三人(ビル・マーレイ、アダム・ドライバー、クロエ・セヴィニー)のキャラは抜群。そして、死に化粧屋?なのかよくわからないが日本刀を振り回し、意外すぎる結末になるティルダ・スウィントンは切れ味が良い。他の市民たちも印象的で、映画の中に引き込まれるように作ってあるのはなかなか。しかし、森の中に住む老人はトム・ウェイツだったのね、驚き!というか、こんな仕事やってんだ!

そして、最初から何回も流れるカントリー風の主題歌が、ほんわかしすぎていて、映画の世界と合わないのが、すごく良い。こういう抜けた感覚が、結果的には、なんかすごく大きな哲学的世界に広がっていく感じが、この映画の凄みではありますね。

そう、最初見ているうちは、よくあるゾンビ映画であり、ビル・マーレイが出ていることで、これは「ゴースト・バスター」なのかと思いながら見ていたのだが、よく見ると相棒は「スター・ウォーズ」のカイロ・レン役のアダム・ドライバーだと思い(鼻で気がついた)、監督はゾンビと戦わせる気十分ということはよくわかったのだが、ゾンビがどんどん増えていって、どう収集つけるのかがなかなか見えてこない。そこで、アダムが思わぬ一言。(ネタバレになるので書かない)もう、それで、異空の町と現実が繋がっていき、世の中そんなこともあるよねと思わせていく感じがすごい好きである。

その後に、誰も見ないことにしたいようなことも起こり、ゾンビが出るきっかけになった、地軸が歪んだという話もよく理解できる感じになり、最悪のラスト!そして、またまた、ほんわかした主題歌が流れてくる。ある意味、監督は映画っていうものがよくわかっているので、ゾンビ映画というものに観客が何を期待しているのかもわかった上で、自分風の味付けをして、一見、哲学的なものを感じるようにまとめている。お見事である。

だいたい、地軸が歪んで、夜がなかなかやってこない街が、暗くなってゾンビが現れてずーっと夜なんだよね。そして、夜の公園でゾンビが野球だ、フットボールだテニスだとかやってる感じはすごい好きだった。テニスルックのゾンビに「可愛い」という一言も!(そういう映画です)。

そして、日本刀を振り回すお姉ちゃんを見てると、タランティーノのパロディーかとかさえ思えてくる。多分、この役、梶芽衣子にしたらぴったりである。しかし、この人だけ、ゾンビに動じないと思ったら、オチは思った以上の人だった(ネタバレできないところです)。

まあ、人間、死ぬことで完結してる人なんていないわけですよ。夜、外に出ると死んでしまうような、このゾンビ騒ぎが今のコロナ禍の世界のパロディーにも見えたりして、そういう意味ではタイムリーな映画でしたね。

ジム・ジャームッシュ監督、かなり楽しんで撮ってますよね。そういう映画は、観ている方も楽しいです。首が飛んだりする部分が全然残虐に見えない作りも最高でした!

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