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「いとみち」心地よい着地点を示す青春少女映画!

あまり情報を入れずに見た。情報といえば映画館で見た予告編だけだ。三味線が出てくる映画であることは知っていたので、どう扱うのだろうと思ったりしたが、ここで演奏される三味線はロックである。なかなか世間に馴染めない少女の前向きに生きようとする叫びがそこにある。女性である、横浜聡子監督が、少女達への応援歌の如く紡いだ映画だ。だから、観た後は至って爽快であった!

舞台は青森津軽。林檎畑が印象的に映る絵。そこで、津軽弁が飛び交う。しかし、この主人公のように大きく訛る女の子というのは本当に存在するのか?メイド喫茶で、「標準語の方が簡単」と言われるが、まあ、皆がテレビを見なくなった昨今では、また訛りという文化が育まれることも多いのかもしれない。そう、映画の多くのシーンで、何を言っているのか理解できないまま映画は流れていくのだ。でも、話は理解できる。字幕なしに挑む姿勢は好きである。(多分、テレビドラマなら字幕を入れる)

主人公、いと、を演じる駒井蓮が、とても良い。主人公のキャラを見事に演じきっている。久しぶりに三味線を弾く時と、親に怒るときの顔の表情が一気に変化する感じが良かった。

そして、奥手な高校生と青森のメイド喫茶という組み合わせの妙。全ては、新しい体験の中で、主人公は成長していくのだ。それをアシストする周囲の女性たちとの会話が生きている。普通の高校生の映画なら、男の子が出てきて恋愛を語ったりするのだろうが、親である豊川悦司以外との会話は全てがガールズトークだ。そう、あたたかく見守るおばあちゃんの西川洋子の存在も暖かく光っていた。この人、高橋竹山の一番弟子だということで、そんな人にこういう映画に出てもらえて素晴らしいと思ったりもした。

結果的には、自分の生きる上での武器は三味線だということになるわけで、そこへの導線がメイド喫茶だったわけだ。それを決めさせる同級生のジョナゴールドの家に行って語るシーンはなかなか良かった。その後で、喧嘩した豊川がメイド喫茶に来て、一言「けっぱれ!」と言う。昔からよく見るシーンですがとても心地よかったですな。

とにかく、いとの周辺に悪い人が出てこないからここちいいのだろう。途中で捕まるオーナー役の古坂大魔王でさえ、良い男に描かれている。東北の暖かさがこの映画にあるのかもしれない。

そして、ラスト、三味線の音で観客を乗せておいて、その先は豊川との山登りシーン。そこで、自分の小ささみたいなものを悟るということなのかもしれない。なかなかおしゃれなラストである。

横浜監督は、それほど意識していないかもしれないが、女性視線の思春期の女子高生像をみずみずしくここに提示している。色々な人が映画を撮れる時代である。もっともっとパーソナライズされた映像が出てくる時代なのだろう。観終わって「心地よい」というのは、映画ファンとしての至福であった。


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