「浅田家!」浅田政志の人生が現代の応援歌になっている。そして家族賛歌。
見終わった後にとても心地よさを感じた。このところの日本が忘れかけた、いろんなものが詰まっている。特にドラマチックなところなどないのだが、深く染み入る映画である。それは、主人公のモデル、浅田政志の人間性があってのことなのだろうと、観客はそれに納得して帰る映画であると思う。
二宮和也にとってのベストアクトといってもいいのではないか?しがらみに囚われずに、自由に生き、家族を思う主人公を実に清々しく演じていた。映画を観終って、彼が外にいたら、気軽に声をかけてしまいそうな雰囲気。素敵であった。
彼が家族写真を撮る行為は、家族の中にとことん踏み込んでいくことによって撮られる。だからこそ、奥深い画が撮れるのだろう。自分の家族の写真にしても、「何故にこれを撮る」と考えると吹き出してしまうもの。あくまでも、写っていない部分が表現されているのだ。
主人公は、写真が好きだが、なかなか撮らない。撮るものが見つかるまで待つ。父親が主夫であったことが、そういう環境を普通に成立させているというのも面白い。そして、彼の心の正直さが、観客に違和感なく彼を観させる。
そんな部分は、共演者の演技にも現れる。一番批判的な兄の妻夫木聡でさえ、応援団なわけで、最後に結婚を要求する黒木華、岩手の被災地で出会う青年、菅田将暉や渡辺真起子、そして家族写真を撮ってもらう人々も、皆、彼の周囲で心地よさを感じている空気感がとても良い。
菅田将暉など、最初は、誰かわからないくらい地味な登場であり、最後まで二宮のアシスト的な役目を見事に果たしている。まさに、役者としての技あっての姿だとも思えた。
黒木華も、いつもに比べ、セリフ少なめで、二宮を見守る、幼なじみを実に美しく演じている。浅田家に彼女が入ることで、またいろいろと家族が強くなってくような雰囲気が良い。
東北の被災地を描く映画は、時にドラマチックにしたり、時に悲惨さを強調したりするが、ここには、浅田氏が目で見て、実感し行動した姿が見事に救い取ってある。それがこの映画の心地よさなのだ。
主人公の二宮も、ただ、淡々と楽しく生き、家族が幸せならいいのだ。それを願う映画なのだろう。そんな映画を今、公開することにはとても意味があると思った。ウィルス禍の中、様々な日常が消えても、家族という集団は消えない。そして、その存在の見直しも必要な時である。みんなが、この映画を見て、少し楽しい家族に憧れれば、日本はもっと楽しい国に、そして心ある国になっていくような気がした。
見終わった後、リピートしたいと思わせる感じがいい。スタッフ、キャストの様々な思いがよく纏まっている佳作であった。