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「グッバイ・クルエル・ワールド」日本のアクション映画の現在地を考えさせられる

2年ぶりの大森立嗣監督作品。西島秀俊をはじめ、なかなか大物キャストが揃って賑やかな感じなので期待して観に行った。結果的には、今ひとつスピード感に欠けるのと、最後まで追いかけっこするわけではないのでもう一つ観ている方に疲労感を感じさせないのが不満。あと、ただのヤクザ通しのイザコザに上映時間が長い。こういうアクション映画は、1時間40分以内でまとめないとスマートでないというのが私の持論である。まあ、削れるところはいっぱいあると思う。

最後は、主要人物が全部消えてしまう話だ。キャラクターに哲学みたいなものが皆無なのでこれでいいのだろうが、ドンパチやって、血がいっぱい流れてそれなりの痛さがある中で、カタルシスみたいなものが残らないのは、やはり映画としては弱い。シンクロできるようなキャラもなかったしね。まあ、水商売やって自堕落な生活しか送れない女子が玉城ティナにシンクロすることはあるかもしれない。彼女、ここまでできるなら、アクション映画の演技を極めてほしいとも思った。この映画の中で一番イカれていて、美しかったのは彼女だ。銃を撃つ姿も格好良かった。まあ、眼力がいいのだろうけど。

大体、こういう話の中では、チンピラの生き方が重要だったりするのだ。そこも、奥野瑛太がいい演技をしてるものの、キャラクターとしてただの狂気な人間になってしまってるのは面白みに欠ける。彼は、西島を争いに戻す導火線としてだけの役である。勿体無い。そういう、キャラクター設定の甘さみたいのを全てに感じたりするのが残念。

アクションシーンも、最初のヤクザが金勘定してるホテルを襲うまではなかなか良いのだが、そこを過ぎると一気に静かな映画になってしまう。最初に殺される斎藤工の件は、なかなかパワフルで良かったが、なぜに、最高の狂気なキャラを最初に殺してしまうのか?もう少し、生かしておいて演技が見たかった。斎藤工はこういうイカれた役の方が私は好きである。

しかし、西島秀俊以外は過去みたいなものが全く見えてこない、説明がなくても、キャラ設定の際にそういうのちゃんとやってないから、なんか空疎なものになってるのだろうな。脚本がアクション書き慣れてない感じに見えるよね。そして、演出ももう一つ切れ味悪し。常に誰かが追われてて、そこを一緒に追ってくと、違う風景が見えてくるみたいなのがいいのだけどね。逃げる舞台の伊東や山梨がこういうことやる風景ではない。あと、ガソリンスタンドで火がつく瞬間とかさ、こちらがみたいカットが無いところが多いのは、何なの?R15になってるんだから、もう少しアグレッシブに悪いことしようよ!実際はR18にして、もっとエロい場面も入れないとダメだろう。

あと、西島秀俊、三浦友和、大森南朋らは、もっと悪い奴の眼にならないと。三浦さんは、東映でアクション主役やってもそれができないままにここにいるんだよね。芝居の雰囲気は作れるけど、こういう役ふっちゃダメでしょ。大体、小間使いさせてるガキンチョたちに裏切られる親父じゃダメなのでは、その辺も設定が甘い。

まあ、アクション映画っていうよりも、コメディ調にしたかったのかもしれないよね。でも、全然そうなってもいない。映画自体の体裁がそこそこ取れてるので、これで満足できる人もいるのかもしれませんが、私は大いに不満ですよね。日活、東映を中心に築かれた日本のアクション映画のエグいDNAみたいなものは、完全に風化してしまったのでしょうか?昨年は白石和彌監督が「孤狼の血LEVEL2」で狂気だけは描けていたが、ストーリーとして何のカタルシスもなく、ただ血を流せば良い的な映画にしてしまったのに、そこそこ評価されていたが、その時に、もはや観客側も日本のアクション映画にあるべきものを忘れてしまったのか?と思った私である。同じ大森立嗣監督作品でアクション映画ではないが「タローのバカ」のめちゃくちゃな世界を見ると、もっと激しいものが撮れるのでは無いかと期待したが、彼にアクションとしてそれを望むのは無理だったという感想である。

日本のアクション映画、パワハラみたいなものが完全に無くされる方向ではもうこれが限界か?決して、昔のエグい現場が激しい映画を作っていたのでは無いとは思うが、環境として全く違うところで作られるアクションはやはり、いろんなものが濾過されて、優しさ、いや偽善的なもののみが映像として残るしか無いのか?いや、それは寂し過ぎるだろう・・・。


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