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「さくら」人生に投げられる変化球に動じないという強さを感じるラストに笑顔

矢崎仁司監督作品。ということで、出てくる人々がとても丁寧に描かれている。家族とは?兄弟とは?恋愛とは?人生とは?青春とは?そんな、映画で描きたいことがいっぱいつまっている話だ。誰にでも、琴線を動かされるようなシーンがあるのではないか?全体として愛らしい映画に仕上がっている。

原作は読んでいないので、比較はできないが、監督が小説に出てくる人々を丁寧に具現化しようとしている感じはよくわかる。それに、役者たちが応える。寺島しのぶと永瀬正敏の夫婦から、それが魔術としても吉沢亮や北村匠海や小松菜奈が生まれるとは思えないが、この配役で撮ったことでこの映画は成立しているという力強さはある。

大きなドラマはそれほどないのだ。もちろん、長男が自殺するという話は大きなドラマだが、それは、語りにもあるように、変化球が飛んでくるという感覚でこの話は成り立っている。その家族の色々な日常にいるのが、このタイトルにもなっている、犬のサクラだ。昔から、動物を出せば間違いはないと言われるように、ここでも、最後はサクラが家族をまとめてしまう。最後に、「みんな、しっぽ振って生きようよ」という、メッセージもあるのか?

だから、子供たちが親のSEXの声を聴いてしまった話。長男の恋人の話。次男の童貞喪失の話。長女の女友達が好きだという話。父の友人がオカマバーにいる話。そんな、非日常な感じさえする話が、ただの変化球として描かれることが、とてもここでは大切なことであり。そこに、さまざまな自分を重ねている観客がいるのがわかる気がする。

長男が死に、父が家出するショットは、かなり危険なショットだ。一見、気が狂ったようにしか見えないが、この画がこの映画の世界である感じもした。そう、心を正直に狂わせて、変化球を掴むみたいな…。

そんな中で、もっともさまざまに心揺さぶられるのが、長女役の小松菜奈である。本当に、作品ごとに、演技に磨きがかかる娘だと思う。今、24歳。もうそろそろ、高校生役は無理な感じもするが、セーラー服がまだまだ、めちゃ似合っている。長男の恋人に嫉妬する感じや。同級生の女の子に恋される感じ。その娘とスケバン退治をするところも面白かった。そして、長男の葬式で狂うシーン。芝居の幅がとても広い。幼い顔から、娼婦のような顔までできる人である。この娘に増村保造監督作品の若尾文子的な役をやらせたい感じもする。夜の世界でNO1になるような役も似合う気がする。今年も、私を満足させてくれた小松菜奈であった。

この映画も、家族の映画だ。前にも書いたが、パンデミックな今年には、こういう映画がとても心をうつ。家族という組織が当たり前に存在する形態であり、そこからやり直さなくてはいけないということだからだろうと思う。特に派手さはないが、今年を代表する1本という感じもした佳作だ。


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