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「mid90s ミッドナインティーズ」世代を越えて理解できる心象風景。でも、私が知っている映画とは違う触感。

最近、多く公開されるA24制作の映画である。そこで作られてくる映画は、どうも私が映画と定義するものとはちょっとズレている感じがするものが多い。でも、皆、それなりの客をつかんでいるようで、こういう映像体験が新時代なのかもしれないと思うようにもなってきた。

確かに1990年代というのはまだ携帯電話も普及していない時代。カセットテープとCDが一緒にある時代。デジタルはテレビゲームからというところか?そんな中で歳の離れた兄にいいように扱われる主人公スティーヴィー。街でみかけたスケートボードを楽しむ年上の男たちの仲間に入る。日本のそれとは違うが、いわゆる不良仲間みたいなものに異次元を感じて入っていく。

少し背伸びした世界、大人のとば口にいる彼らの90年代みたいな空気感を描くというのがこの映画のテーマなのだろう。スケートボードの向上とともにタバコも覚えれば、女も覚える。まさにグローインアップの日々をなかなかナイーブに捉えている。役者たちのキャラもたっているので、独特の世界が構築され、そこに重なる音楽が心地いい。道路の真ん中をスケートボードで走るシーンは何も忘れて異次元にいる感じがよく出ている。

そして、この映画、全編16mmで撮影されたものだそうで、多少フィルムの傷みたいなものも現れる。そして、画面サイズがスタンダード。少し画質の悪いところを狙っているのだろうが、デジタルで後処理したものは、程々のノスタルジックさというところ。そこに意味があるのかはわからないと思いながら見ていたが、ラストシーンのあり方で、それはとても意味を持っているように感じた。

まだまだアナログチックなものが残っていて、デジタルの未来も見えてきた90年代という感触を形に残すということには成功している感じだった。

だが、ドラマチックに物事を描くという感じの映画ではないのだ。どちらかといえばセミドキュメントのように大きな抑揚もなくことは進む。もちろん最後は事件があり、ふざけていた仲間たちの笑顔に囲まれるスティーヴィーなのであるが、どうも映画全体がプロモーションビデオを繋ぐような触感だったりするのだ。

この辺りは、A24の紡ぎ出す映画の多くに言える。この間見た「WAVES」も描くテーマよりも、いかにその心象風景を新しい形で映画として表現するか?というところにあった感じがする(そこが、私には陳腐に見えたが…)

映像表現は、デジタル化され、誰でも参加できる場になり、その中でプロのエンターテインメントが発表されるわけで、新しいことをやっていくのは当然のことである。そういう点でA24の今までのルーティンに囚われない感覚はすごいし、確実にそれが評価を受けているのだが、どうも、私にはイマイチ乗れない感じなのだ。

この映画も、描いていることはわかるし、なかなか清々しい青春映画と見ればいいのだろう。実話が元ということもあるのかもしれないが、強調したドラマ性が薄いのは何か物足りない。余韻はあるが、すぐにリピートしないと消えてしまうような感じもする。そう、環境ビデオとして流し続けるにはいいのかもしれない。

スティーヴィーが仲間になろうとしたときに、肌の色の問題で「黒人は日焼けするのか?」という話を問われて、「黒人って何?」と答える。その答えが彼を仲間にしていくのだが、A24の映画の仲間になるには、そんな受け答えが必要な気がする。

多分、日本でも、こういう映画の影響を受けた作品が徐々に出てくるだろう。あくまでも、デザインされてクールで、心の内を映像と音楽で捉えるような新しい感じの作品が…。

時代とともに変わりゆく映像体験に私も慣れようとは思わないが、理解をしようと感じる2020年である。


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