英語上達完全マップ 2024
円安で海外が遠のいた一方、AIのおかげで言語を学ばずとも外国語を翻訳できるようになった現在、言語を学ぶ必要性はかつてより小さくなっているかもしれません。
それでも英語を学びたい・身につけたいという人は、「絶対に英語圏で暮らしたい」「絶対に外資で働きたい」というポジティブなモチベーションを持っているかもしれないし、「英語ができない自分が許せない」「あいつにできるなら自分だって英語くらい話せなきゃおかしい」というややネガティブな動機に追い立てられているかもしれません(私は後者です)。
そういう人には、インターネットが最高の環境を提供してくれています。 ネット上の英語学習法は個人の経験のみに基づくものも多く、玉石混交ですが、中には信頼できるものもあります。『英語上達完全マップ』はその中の一つです。
英語上達完全マップは森沢洋介さんが考案した初級者向け英語トレーニング法で、これに従えば英語力0の状態からTOEIC900点レベルの英語力を身につけられます。特に重要なポイントは「日本国内で」「独学で」行える点です。詳しいトレーニング法はぜひ公式サイトをご覧ください。(Voiceroid解説もある)
強い意志とかなりの労力が要求されますが、実際にこのマップに従って英語を上達させた先人たちのブログがモチベーションを高めてくれること間違いなしです。
なりしかさんの「英語上達完全マップを10ヶ月やってみた」ではフルタイムで働きながら猛勉強を重ねてTOEIC890点獲得に至る経緯が詳細に記録されています。
のりさんの「英語上達完全マップを10ヶ月やってみたを実践してTOEIC925点&英検準1級を達成した話」には、なりしかさんのサイトを参考にしながら2年間で上述の試験結果を達成した過程がまとめられています。
吉宏さんの「『英語上達完全マップを10ヶ月やってみた』を2年やってみた」にはおそらくもっとも現実的なスケジュール感で学習過程が記録されています。
「完全マップ」は4技能をバランス良く伸ばすための体系的なロードマップとして定番となっていますが、公開されてからすでにかなりの年月が経っているため、参考書類に関してアップデートがなされていない部分があります。そのため、この記事では「完全マップ」に使用できそうな参考書をピックアップして紹介します。
音読パッケージ
音読は効果的な学習法でありながら、やり方を誤ると害にもなる諸刃の剣です。詳しい方法は公式サイトを見ていただくとして、エッセンスのみ記載しておきます。
まずはテキストを見ながらリピーティングする。英語音声を短く切りながら(できれば2秒以内)すぐに音声を真似して声に出す。これを数回繰り返します(例えば5回)。
次に音読する。英語音声の発音やイントネーションを真似するつもりで読む。初めは音にしか注意がいかないかもしれないけれど、何回も繰り返す内に文構造や意味に注意が向くようになります。15回程度繰り返します。
次にテキストを見ないリピーティング。やることは最初と同じです。ただし、誤った発音や文法を覚えてしまわないように、不安になったらテキストを確認します。5回程度繰り返します。
最後に仕上げのシャドーイング。ポーズ(一時停止)のない音声を聴きながらそれについていくように声に出していきます。これも5回程度。
こういうサイクルで徹底的に文章を自分のものにします。回数は自分で調整しても構いませんが、一つの文章につき最低でも合計30回は読みましょう。相当時間がかかりますが、こなすべき教材の量はそれほど多くありません。
中学レベル
森沢さんが出している音読パッケージ。音読のやり方の詳細な説明が載っている上、音声にポーズが入っているので、音読トレーニングに関しては最適な教材。
高校レベル
『みるみる〜』の続編で、難易度は高校レベル。音声ダウンロードが無料なので、CDをパソコンに取り込む手間がなくなりました。
その後の音読教材に関しては、各自の使っている教材や、目標によって変わってきます。大学受験生ならば、大学入試用のリスニング教材や文脈系の単語帳(『速読英単語』など)が使えます。TOEIC高得点を目指す大学生や社会人ならば、TOEIC問題集のPart 3, 4が使えます。
瞬間英作文
完全マップの山場と言っても過言ではないのが「瞬間英作文」。日本語の文を見てすぐさま英文を口に出す、という極めてシンプルな方法ながら、その威力は絶大。文法を意識してカタコトでしか口に出せなかった英文が、反射的に口をついて出てくるようになります。そのためには膨大な反復学習が必要となるのは言うまでもありません。
瞬間英作文は森沢洋介さんが出版されているものを使えば間違いありません。
中学レベル
1冊目はこちらがテッパン。簡単な文法・単語で構成された文をひたすら暗記します。何も考えずに反射的に英文が口から出てくるまで繰り返します。
2冊目はこれ。やや長くて複雑な文章になり、文法事項がランダムに出てきます。
高校レベル
基本動詞を使った表現や句動詞を学びます。グッと表現の幅が広がります。
高校英文法レベルの構文を用いた例文を採用し、より洗練された表現を学びます。会話だけでなく英作文にも活用できます。音声がダウンロード方式になりました。
文法
英語と全くことなる言語を母語としている私たちにとって、英文法を学ぶことは英語を学ぶための近道です。堅苦しく考えず、少しずつ文法を身体に染み込ませましょう。
中学レベル
最近の「学び直し」ブームも手伝ってか、書店には英文法の基本書が数多く並んでいます。内容に大きな違いはないはずなので、自分で気に入ったものを手に取ればOK。ここではいくつかピックアップして紹介します。
中学英文法の重要ポイントが過不足なく抑えられていて、レイアウトも見やすい。さすがのハマー先生クオリティ。
『中学英文法ドリル』だけ使うもよし、『中学英文法』を確認してから使うもよしです。
1冊で中学英文法総おさらいできます。学び直しにはこれ1冊で十分かも。
高校レベル
文法学習に関して、完全マップは文法書を暗記するのではなく、問題集を解くことを推奨しています。
参考書で細かい規則を暗記しようとするのはしばしば苦痛です。言語はコンピュータプログラムのように明確に秩序だっていないし、因果関係だって不明瞭です。だから、文法書を丸暗記しようとするより、問題集を解いていく方が楽しいし、自然と身に付くことも多いです。
私もなりしかさんも使った『Forest』シリーズの後継版。それなりのボリュームがありますが、レイアウトが見やすく説明もわかりやすいです。後から参照するために買っておいても損はないと思います。ささっと読み流しながら、各単元ごとに準拠問題集を進めていく方法も効果的です。『聴く・話す〜』まできっちりこなそうとするとかなり骨が折れると思うので、できる範囲で。
「読む」つまり「受信」するための英語だけでなく、書いたり話したりして「発信」するための英語にも力を入れた参考書・問題集。初心者にはやや難しい手強いですが、社会人の学び直しには適しているかもしれません。
分厚い参考書や問題集が苦手なら、薄い問題集をこなしていく手もあります。難易度がだんだん上がっていくので、無理なく進められます。
とにかく大量の問題をこなしたいならばこちらもオススメ。特に難関大を目指す高校生には役立つでしょう。社会人にはややオーバーワークかも。
TOEIC問題集
完全マップでは大学受験用問題集の次の段階としてTOEIC・TOEFL用問題集が勧められています。TOEICのPart 5の問題集は文法の復習として都合の良い難易度なので、数をこなして「反応」できるようにしましょう。
TOEICの点数を上げる必要がある大学生や社会人は、大学受験用問題集をささっと切り上げてこちらに移っても良いかもしれません。
TOEICの問題を解く際にはabceedというアプリが便利です。問題解き放題にするには有料プランが必要ですが、無料プランで問題集を都度購入することも可能です。いちいち机に向かわなくても、スマホさえあれば文法学習ができるので有意義に時間を使えます。(昨年私は実習の隙間時間にひたすらabceedで問題を解いていました…)
Part 5のパターンが網羅されており、文法・語法の確認にもなります。大学受験レベルをさらっと終わらせた人なら『はじめの400問』から、きっちりこなした人なら『でる1000』だけでOK。忙しい人はぜひabceedアプリを入れて、スマホで解きましょう。ゆっくり机に向かって解きたい人はもちろん紙書籍でどうぞ。
精読
森沢さんが受験生時代に取り組んだ『英文標準問題精講』も、なりしかさんが取り組んだ『英文解釈教室』も正直かなり難易度が高いです。旧帝大・早慶上智ICUレベルを目指す受験生には良い教材ですが、TOEIC900点レベルを目指す時点ではオーバーワークと言って良いでしょう。標準的な難易度の英文解釈の参考書ならば以下のあたりがちょうど良いと思います。
大学受験向けの定番。超入門、入門、基礎、無印の4種類。無印は難しいので、『入門』か『基礎』で大丈夫です。
『英文解釈教室』よりも易しめの英文解釈参考書。やや古い文章と独特の伊藤和夫構文に慣れれば、のちのち『英文解釈教室』を読むための橋渡しになります。
多読
精読だけでなく多読を行うことで英語を理解する速度を上げていきます。やり方についてはSSSのサイトをご覧ください。
多読ではOxford BookwormsやPenguin Readersなど、語彙レベル別の読み物シリーズ、いわゆるGraded Readers (GR)を使うのが定石です。古典文学作品のリライトものが多くを占めていますが、それよりは現代を舞台にした作品やノンフィクションの方が読みやすいでしょう。
普通に書店で手に入るものとしては、ラダーシリーズがあります。新書サイズなので紙書籍でも読みやすいですが、前述のabceedで読める電子版も便利です。
ボキャビル
音読や瞬間英作文といったトレーニングで基本的な語彙を身につけることができますが、その後の学習効率を上げるために語彙学習も並行して行っていきたいです。
最初の1冊
学校で配布された単語帳があるならそれを使っても構いませんし、上にあげたような大学受験用の単語帳を使っても大丈夫です。内容にそう大きな差はないので、好みで選べばOK。
完全マップでも紹介され、なりしかさんも使ったのがDUO 3.0。手元に単語帳がないなら、まずはこれを使えば良いでしょう。
2冊目以降
音読・瞬間英作文・文法・精読といったトレーニングで英語力を高めてきた時、その先に一歩進むために壁となるのが語彙力です。こればかりは気合でなんとかするしかない部分があります。最近ではQuizletやAnkiなどの暗記アプリも充実しているので、こうしたツールも使いながら語彙力を強化していきましょう。
市販の単語帳としては以下をおすすめします。
なりしかさんがDUOの次に取り組み、私もボロボロになるまで使いこんだシリーズです。最近改訂版がでました。DUOなどで初級の単語を完璧にしておけば、Vol. 1はやらなくても大丈夫。TOEIC900点を目指すというレベルで言えば、Vol. 2とVol. 3の2冊(計6000語)をきっちりやれば十分です(以下なりしかさんのサイトからの引用です。私の感覚とも一致します)。
熟語・句動詞
完全マップには記載がありませんが、英語の読解力をつける上で熟語や句動詞は避けて通れません。この段階では大学受験向けの熟語集で基本を押さえれば十分です。
私は熟語のブラッシュアップのために『ターゲット』を使いました。実戦問題集で問題を解きながら進められます。アプリもあるのでスマホでの学習も可能です。
高校時代には『システム英熟語』を使っていました。熟語のイメージがイラストで解説されているので、目で見て理解したい人にはオススメです。
リスニング
基本的には音読がリスニングのトレーニングを兼ねていますが、試験対策としてリスニングを取り入れても良いでしょう。受験生ならば大学受験向けリスニング問題集、大学生や社会人ならTOEICの問題集が使えます。
[番外編]和文英訳
完全マップは読む・聞く・話すを上達させるための総合的なトレーニング法ですが、「書く」トレーニングはカバーしていません。もちろん、瞬間英作文や音読によって英語を話す・書く能力を向上させることができますが、実際に「書く」練習も組み合わせれば相乗効果が見込めます。
大学受験ではしばしば英作文が課されますし、英検やTOEIC SW、TOEFL iBT、IELTSなどの資格試験でもライティングが必須となってきます。しかし、いきなり自由英作文から始めると「内容を考える」「英語で表現する」という2つのタスクに頭を悩ませることになるので、まずは日本語を英語に訳す練習から始めると負荷が小さいと思います。その後、自由英作文やパラグラフライティングに進んでいきましょう。
初級
私が最初に使ったのがこちら。瞬間英作文と高校英文法で学んだことを元に、英文を組み立てる時の考え方が身につきます。
中級
大学受験で和文英訳が要求されるならぜひこちらをやりましょう。文章を書く際に意識すべきポイントが抑えられていて、高校英文法をきちんと運用するための橋渡しになってくれます。特に「時制」や「比較」など、「読めるけれど実際に書こうとすると使い方に困る」文法事項の解説が秀逸です。ただし、著者独自の用語や理論が多いため、英語学や言語学を学んだ人は困惑してしまうかもしれません。
さいごに
モチベーション
完全マップでは「トレーニングを継続するために」と題してモチベーションの保ち方について解説されています。最後の「⑥徹底的なポジティブ思考で」に関連して、ハンガリーの伝説的通訳者ロンブ・カトーさんの言葉を少しだけ引用しておきます。
新しい軸を持つ
英語ができるようになることは、経済的・社会的な成功には必ずしも結びつかないと思います。けれど、全身全霊で英語に向き合って時間を注ぐ経験は無駄にならないし、そうして出会った「英語ができる自分」は誰にも奪われない財産です。
良くも悪くも世の中には英語があふれています。そんな世の中で、英語という新しい軸で世界を見ることができるようになる。それは間違いなく人生を変えます。何気ない英語の文章に心打たれたり、今まで雑音にしか聞こえなかった英語が意味のあるものだとわかったり、海の向こうの顔も知らない人と意見を交換したり、あるいは言葉が抱え込む文化に驚かされたり。英語を学ぶ人たちがそういう感覚を掴めることを願って、私はこの文章を書きました。それでは。
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