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小説『樹洞より』

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人間は皆、巨樹のうろから生まれる世界。母なる木を愛する純真な少年・澪は、己が胸に棲まう幻を恐れ、ふるさとの島を旅立つ――人のさがに息づく、暗く暖かな深淵を知った者たちの群像劇。不… もっと読む
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『樹洞より』 1・船の足跡

『樹洞より』 1・船の足跡

澪 澪は生まれ育った島を出る。洋品売りの商家のもとへ、丁稚奉公へ行くのだ。

 巻砂という名の島の南西部、険しい山岳と磯からの風が通う盆地に、澪の住む集落はあった。斜面や崖の多い土地の、最も平坦な部分には田が造られ、荒れた土に初春の小さな芽吹きを許している。それ以外の細かな土地には、蕪や菜種、籾殻を被った甘薯の畑がひしめき、ところどころに藁葺きの小屋が点在している。
 それらの田園の中に、瓦屋根の

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