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息子と日本旅 : 南佐久編 息子のこたえ

さて、今回の日本滞在で、息子が最も熱望していたこと。それは、かつて通っていた小学校のたった6人の同級生の仲間たちに会うこと。「ああ~日本に帰りたい、南牧村に帰りたい」と言っていた彼の言葉は、そのまま「あの6人の仲間の中に戻りたい」ということだったようだ。

小学校へ

スーパーのお惣菜やごはんで急ごしらえのお弁当を詰め、朝早く中込駅を出発した息子と私。車ではなかな拝むことのなかった小海線からの美しい景色に舌を巻きつつ、佐久海ノ口駅に到着。

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駅から出ると、さっそく駐車場で知った顔の女性が駆け寄ってきた。「あ〜やっぱりそうだ!お母さん、元気だった??」声をかけてくれたのは我が家の子供達が4人共お世話になった村の保育園の先生で、ハルやレンチビの担任もしてくれたことのある、我が家にとっては第二の母のような存在の人。嬉しくなった私も思わず先生の手を取り、最近の子供達の様子などもお話する。ただ歩いているだけで知った顔にすぐに会えるから、村に帰ってきただけでもうほとんど家に帰ってきたみたいな気持ちになるのだ。

息子は勝手知ったる通学路を意気揚々と歩いていき、嬉しそうに校門をくぐった。

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雲の上のトマト

息子を見送った後は、前々からまたお話したいと思っていた方の畑へ。標高1350mの、まさに雲の上の高地で、素晴らしく味の濃いトマトを生産する高見澤憲一さんだ。今回日本に来るにあたって、どうしてもまた憲一さんの話を聞いてみたいと思っていた。

憲一さんと話をするのが好きなのは、いつも憲一さんが今と未来を見ているからかもしれない。ご自身の人生のこと、トマトづくりのこと、農業のこと、国のこと、そしてこれからのこと。

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農機具の廃材で創作活動も行う彼にとって、トマトは一つの作品であり、トマトづくりは究極のクリエイト活動でもあるようだ。

アートってなんだと思いますか、と憲一さんに尋ねると、「継承」ということじゃないですか、と憲一さんは言った。未来につながること、過去からつながっているもの。

悩める息子の答え

約束の時間に学校に行くと、息子は晴れ晴れした顔をしていた。どうだった?と尋ねると、「やっぱり北小の仲間はみんな頭が良くて優しくて最高だ」と上気しながら話をしてくれた。

実はわたしは、ちょっぴり心配していた。いくら仲が良かった仲間とはいえ、長い時間離れていると、それなりに新しい秩序が出来上がったりするものだ。6人の仲間は息子を除いたいた6人で新しい空気を築いているだろうし、息子はきっと無意識のうちにインドの空気をまとっているだろうと思ったから、もしかしたら「あれっ」と思うこともあるのかもしれない、と思っていた。

けれどもそんな見えない壁はまったく感じることもなく、離れていた時間をまるで感じさせない仲間との交流は、悩める息子にとって、深く心に響くものだったようだ。仲間たちにかけてもらった言葉を噛みしめるように、学校を後にした。

南佐久最後の夜

旅の終焉が近づいていた。実家にたどり着く前の最後の夜は、息子にとって40歳以上年が離れた“お友達”のお宅に泊めてもらえることになった。もともとは夫の上司だった人だけれど、息子にとってはいつ会っても楽しく遊んでくれる“お友達”らしい。

晩ごはんを食べてそのまま眠ってしまった代わりに、早朝から二人でなにやらお風呂につかって長いことおしゃべりをしていた。“お友達”が出勤前にプレゼントしてくれた本は、朝ごはんの後こたつに足をつっこんでじっくりと読んでいた。私がススメても読まなかったその本、お友達にプレゼントされると読むんだね。

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あとから「ね、お風呂で二人で何話してたの?」と聞いても「男同士の秘密!」と言って教えてくれない。

苦手だった犬を抱っこすることにも成功して、晴れ晴れした顔で旅の終わりを迎えた息子。彼なりに結論も出したらしい。

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かけがえのない6人のクラスメイトと話したこと、そして40歳以上年の離れたお友達と朝風呂しながら話したこと、いずれも詳細は私にはわからないけれど、彼なりに旅をしながら悩み、相談し、結論を出したことを親としては尊重したいし、一人の人間として、息子の悩みに対する向き合い方を尊敬する。

故郷のような場所、そこにいる、かけがえのない人たち。大人にとってもそういう存在はときにとても大事だろう。自分の原点を確認しながら、結論を導き出すという方法は、好感が持てる。

この旅で、帰るべき場所がまた増えた息子よ。

また何回でも悩むが良い。そして何回でも立ち止まれば良い。間違えたらやり直せばいい。いまだ、と思ったらいつだって全力を注げるように、そのための根っこを張り巡らしておくこと。根っこがあれば、ときには折れても、時には曲がっても大丈夫。いつかきっとまたまっすぐと、伸びていける。


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