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インド人と夫

夫は正義感の塊のような人だ。

困っている人を見かけたら助けずにはいられないし、曲がったことは大嫌い、時間は正確でないと許せない。

日本にいたときから、例えばエレベーターが健常な若者でいっぱいになってお年寄りが乗れずに困っていると「どなたか足が健康な方は降りて差し上げてください」と声を上げることを厭わないし、交通事故に出くわせば必ず自ら降りて交通整備をしてしまうような人だった。

根性ひん曲がりまくり、悪いことは見て見ぬ振りをするか自分も便乗、遅刻魔でドタキャン魔、おまけにばっくれ魔だった私と結婚したことは、きっとなにかのミスだったに違いない。

あまりに正義感が強く、曲がった事が嫌いなばかりに、根性のひん曲がった私からしたら、そんなにまっすぐだとしんどいだろうと感じることもある。

だから、インドに来てからの夫の疲弊ぶりは相当だと想像している。

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疲弊しすぎたのか、普段読まないマンガを読んで心を無にしているようだ。

誤解を恐れずにいえば、基本的に多くのインド人は良くいえばおおらか、悪く言えばいい加減で、隙あらば曲がったことをしようとするし、時間に正確だとむしろ驚く。(えっ私ってもしかしてインド人?)(もちろんそうでないと人もいる。)

以前バンコクに住んでいたときにも同じような経験をしていたので予想はしていたし心構えもできていたはずだ。しかしそれでもインド人の仕事ぶりは、想像の斜め上をいくレベルだ。日々夫はイライラを募らせて消耗していく。

たとえば同じ業者の手下Aが、〇〇の取り付けを2日後にやりにくる、と言ったのにAは2日後には現れず、4日後になぜかBがやってきて〇〇を取り付け、その翌日突然またAがやってきて、〇〇の取り付けをするという。もうBがきてやったよとなぜか私が伝える。同じ業者なのに。そして3日後に〇〇はあっけなく外れておっこちた。無意味。もう自分たちでやった方がマシなんじゃないか。

という具合にまあ、情報共有はできていないのが普通。確認もしないし測定は適当。ホウレンソウ(報告連絡相談)を教えてあげたい。

またある時は、SIMトラブルで電話が急に使えなくなったので夫が手続きをした。復旧のプロセスで業者が住所確認にきて、1時間後にアクティブになるよと言われたのに、実際使えるようになったのは1週間後、しかも番号は変わってしまった。(電話会社のミス)そしてその後1ヶ月もすることなく再び私の電話は不通になり、再び番号が変わることになる。

特に夫が頭を抱えているのが、借りている住居を管理する(いい加減な)不動産屋さんだ。10月に夫が家の契約に渡印して、入居にあたって本棚や靴箱を入れてくれるようにお願いしてあったのだが、11月の入居時にまったく何も準備されていなかったのはまだしも、せかしにせかして実際に本棚が家に運び込まれてきたのはクリスマス直前。ネットの工事では壁が壊れ、工事自体は3日以上かかり、入居後2ヶ月経った今でも未だに地下はネットが使えないままだ。ベッドの移動でも当然のように壁が剥がれ、ホワイトボードの取り付けでも壁が剥がれ、特にそれに着いてなんの報告もない。

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とまあ数え始めたらキリがないのだが、とにかくそういう日本人的にはありえないことばかりで、夫はどんどん衰弱している。(ように見える)

インド人のいい加減さで衰弱した夫は、だからインド人の業者さんが家を訪ねてくると、厳しい態度をとる。

たとえばこうだ。

通販で購入した机を業者さんが配達にきて、サインをしてほしいと言いつつ、しかしペンもなにも持っていなかった。「サインをしてほしいならペンを持ってこないとだめでしょ?それがあなたの仕事だよね?」強い口調で言う夫。業者さん、おどおどして困っている。私は苦笑いしながら背後からペンをとって渡した。

靴のままずけずけ入ってこようとする業者さんには「うぇいうぇいうぇいうぇーい!靴脱いでっていってるでしょ!」と強い調子で言う。まあ私としては文化の違いがあるのだからしかたないかな、という気もするし、「脱いでね」ぐらいのゆるい気持ちでいるのだが、、、夫は玄関も厳格に外と内を分けようとする。(1歳半のレンチビと車椅子のハルがいる我が家は厳密に分けるのは無理があるかも…)

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例の不動産屋さんの手下が、引っ越し前からお願いしているベビーゲートの設置をようやくしに来たときはこうだ。「手前にひくかどうかって?確認はこれで3回目だ。きちんとボスに確認してくれ!1ヶ月以上前から何度も確認してなぜまた現場で確認するのか!」

まあこのやっかいな不動産屋さんは、お願いしたことをまったくいつまでたっても遂行しようとせず、突如として思い出しては「今日は換気扇の修理にきた」「今日はライトを付け替えにきた」「棚をとりつけにきた」と五月雨式にやってきて、事前の確認が全くない。だから夫の言い分は最もなのだが、しかし目の前で知りたがっている人がいて、私達は依頼する側なので、「手前に引きたい」とその場でもう一度言えばいいだけの話だと私は思ってしまう。そんなときはこっそりレンチビにナマステさせて場を和ませる。

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とにかく、仕事がとてもいい加減なのは確かである。メモをとらないので一度確認したことをすぐに忘れてしまうし、いつまでに、という期限もとくに決めないし決めたところで守らない。

日本だったら即クビ、というレベルの働きぶり。というか日本だったら自分でやるだろうな、というようなことをすべて誰かに委託しなくてはならず、それがやっかいである。人がやってくれるのだからまあ、やってもらうだけいいか、という気持ちで今日もまた同じことを繰り返し催促するのである。

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新年の目標をイライラしない、とした正義の夫が、どれだけ衰弱したところで諦めてインド人に寛容になれるのか。心なしかニューデリーのPM2.5に一番敏感に反応して咳き込んでいるのもなんと夫である。日本では2年に1度しか風邪を引かなかった夫が週に1度は体調が…とこぼしている。心と体は繋がっているようだ。そんな衰弱した正義の夫を励ましにきてくれる正義の人がいらっしゃったら、ぜひ遊びにきてね!

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