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思うこと322

 かれこれ古本屋で購入してから一年、いやそれ以上かかっていたかもしれないバルガス=リョサの『ラ・カテドラルでの対話』(ラテンアメリカの文学/集英社/1984年)をやっと読み終わった。はるばる(?)平成から令和を跨いだ読書であった。

 主人公のサンティアーゴが昔彼の父の運転手をしていたアンブローシオに何年か振りに出会い、「ラ・カテドラル」という食堂で会話する、というタイトルそのものの内容で、久方ぶりに会った人なら当然始まる「今までどうしてた?」的なところからスタートしているとは思うのだけれど、何にせよ本当に大変だった。読むのが。

 単に「いやいや、こういうことがありましてね」と回想が続くなら良いものの、途中で二人の視点が入れ替わるだけでなく、突然他の人の過去までしれっと混ざってくるのだからアラ大変というわけ。一応他の人と言ってもそれぞれの関係者なので急な登場に「??!?」となっても読み進めていけばだんだん分かる。分かるけど、それがまた数行のブロックごとに次から次へ別の過去話へすっ飛ばされるし、とりあえず単に二人が素直に話し合っているとは言えないわけである。単純にサンティアーゴとアンブローシオが会話してる部分なんて、全体の数%では…?とすら思う。

 そして舞台は第二次世界大戦後〜1960年代までのペルーで、当時の政治情勢も事細かく描かれている。サンティアーゴの父親は実業家で、かつ政府とも繋がりがある人だし、無論そういう父親の話もバンバン出てくるので、大統領がどうしたとかデモがどうしたとか、ちょっともう分からん!というくらい綿密。(私は内容がよく分からなくなった時、読みながらも諦めてしまうので、こうして漠然としか覚えていません爆)しかしながらその時代のペルーの歴史を知るにはとても良さそうだ。以前ボラーニョの小説を読んだ時に、70年代チリのアジェンデ政権〜ピノチェト軍事政権までの流れがぶわーっと書かれていて、映画の影響でその時代のチリに関心があった私は読みながらテンションが上がってしまったものだが、同じようにペルーの歴史も頭に入れておけば、きっと同じように盛り上がれるのかもしれない。(盛り上がっている場合か?)

 とまあとにかく長い戦をしているような感覚で、実に大変だった一冊なのだが、読み終わってみるとやっぱり無茶苦茶面白かった。あらゆる人の記憶が次々と押し寄せる構図も、慣れてしまえば実はそこまで苦戦しないし、サンティアーゴやアンブローシオなどの男たちの苦悩もさることながら、私には「一体この人の人生って何だったんだろう」、とじわじわ胸に残るアマリアが最も印象深い。他にも売春婦のケタやオルテンシアなど、女たちの生き様も見どころである。そう思うと、ある意味色んな人の人生をダイジェストで読めてお得な大容量パック的な一冊なのかもしれない。

 そんなわけで長い長いラ・カテドラルでの対話だったが、本当に素晴らしい読書体験をした。これからも読むぞ、ラテンアメリカ。


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