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【読書ノート】『正欲』

『正欲』
朝井リヨウ著


物語は、3つの視点で進む。

1. 正義感ある検事寺井啓喜の物語:息子泰希の不登校問題と、泰希が教育問題についての動画投稿を開始する話。
2. 寝具店員桐生夏月の物語:秘密を抱えており、それを共有できる佐々木佳道との話。
3. 学祭実行委員神戸八重子の物語:ミスコンに代わる「ダイバーシティフェス」提案と、男性への恐怖心についての話。

ダイバーシティという言葉は、一人歩きしてしまっている。大多数の常識人たちは、自分たちがマイノリティに対して、寛容であると思っていながら、常識的であることが正しいと無意識に思っているもので、非常識と判断されたマイノリティは、厳しい状況に立たされる。

①「正しい」とは?
一般的に真実を指し、事実と一致する概念や命題を指す。一方で、道徳哲学の範囲では、「正しい」は行動や選択が倫理的な基準、規範、価値に従っている場合を指す。これは「善い」や「正義」の概念とも深く関連している。問題は、何が「正しい」かは哲学者や思想によって解釈が異なること。

②「多様性」とは?
いろんな人がそれぞれ違った考え方や見方、経験、価値観をもっていて、それが一緒に存在してる状態を示す。この考え方は、すべての意見や価値観が同等に大切だという考え方。

③マイノリティとは?
数的少数派や社会的・文化的にマージナル(周辺的)な位置にある集団を指す。マイノリティの議論は権力、公正、平等、多様性、対話などの概念と深く結びついており、マイノリティの権利や扱いについての倫理的な問題を提起される。

④「正欲」とは?
自分の価値観を正常と考え、主張したくなる欲求を指す。物語では、多様性を奨励しながらも異質なものを否定する現象が描かれている。人は、異質なものに対する不安から同調を求め、多数派=正常さを確認したくなってしまう。

主人公たちの内的な対立は、多様性と個々の価値観の間の葛藤を象徴し、対話の重要性が、示される。

物語の主題は何か?
多様性を理解し、受け入れるということは、なかなか困難なことだだと理解した。

『サンドイッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』というTV番組をわりと好んで見るようにしている。そこでは、子供たちが専門家顔負けの様々な知識を披露してくれる。子供たちがオタクであることは、彼らが特定の分野に特化して好奇心旺盛であり、それ故に、学校での友達は少なかったりするようだ。よく似た話で、IQって20違うと、コミュニケーションを取ることが難しくなるらしい。平均が、IQ100だとして、IQ80を切るとおそらく特殊学級送りになるのだろうけど、IQ80の子供とIQ100の子供は、会話は通じ難い。一方で、良すぎるのも悲劇だ。IQ130の子供にとって、IQ100の子供は、会話にならなかったりする。しかし、IQが高い人と低い人がそれぞれの得意分野で活躍することができるよう、多様性を認め、活かしていくことが必要になってきているのだと思う。

多様性は、人々が異なる背景や価値観を持っていることを認め、それを尊重することから始まる。
日本人は、一般ピープルは皆同じだと思っているというか、実際は思わされているのかもしれない。

高度成長期は、国をあげて、サラリーマンという金太郎飴的な企業戦士を作り出すために、大量に没個性の人間が製造されてきた歴史を見ると、SDGsとか、ダイバーシティという言葉は虚しく響いている様に思ってしまうのだけど。

IQが低い子どもは特別支援学級に入れたりするのだけど、同じ様に支援が必要なIQの高い子どもは、無視されてしまう。公教育って難しいのだなあと改めて感じてしまった。

古代ローマ時代、カエサルは、公共工事を積極的に進めて、民衆の娯楽のスタジアムの建設も積極的だったのだけど、公立の教育機関は作らなかった。教育者は優遇していたのだけどね。教育は全て私立の学校なり、家庭教師が担当した。公立の教育の限界を知っていたのかもしれないと思うと、先見の明がある人なのだなあと改めて思わされた。

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