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【独りよがりレビュー】「Day to Day」 は、私たちがここを生き抜いた記録になる

今、読んでいる本「Day to Day」が面白い。

2020年の春から夏にかけての緊急事態宣言下に、人気作家100人が、1日1作品ずつ、日替わりでコロナにまつわる短編がネット上に公開されていたらしい。

それをまとめた本が、BOOKOFFで売られていたので買ってみた。

テーマは、もちろん「コロナ禍を生きる人」の100作品。
十人十色、いや百人百色。恋愛、ミステリー、SF、エッセイ。そのジャンルのプロ中のプロが書くと、不謹慎ながら、マスクもソーシャルディスタンスもステイホームも全部がいい舞台装置になる。

どの作品も時間を忘れるほど面白くて、すっかりお気に入りの本になったが、いいところを一つだけ挙げるとしたら、なにより、新しい作家、作品に出会えること。

好きな作家やジャンルは固定されがち。
でも、知らない作家の作品や新しいジャンルが、自分に合うものかどうかを見極めるのは、結構むずかしい。本屋で売られている本は、たいてい長編で、買って帰ってから「ダメだ、これ以上、読み進められない……」と挫折したときの悔しいこと!(そういう本が家の本棚にもいっぱいある)
なので、同じテーマで、作家やジャンルがいろいろの短編を読ませてくれる企画はとてもありがたい。ワインや日本酒の飲み比べセットみたいな感覚。

また、名前は知っているけれど読んだことのない、シリーズものキャラクターを使って書かれている作品、いわゆるスピンオフ的な短編は、特にうれしい。
物語の根底に流れるテーマがずしんと重くて、読む勇気がなかった作品でも、主人公のキャラクターの愛すべき人物像が垣間見えると、美しくて眩しすぎて高嶺の花だと思ってた人が、気さくに話しかけてくれたみたいで、「ちょっと読んでみようかな」という気持ちが芽生える。

短編といっても、100作品もあると、結構なボリューム。
4月1日の辻村深月さんの「今日から始まる物語」から、7月9日の東野圭吾さんの「みんなの顔を」まで411ページ。重い。

読み始めて5日。5月20日の今野敏さんの作品まで来た。読むのが遅い私にしては結構なハイペース。これは、やっぱり作品の面白さによるものだ。
多分、今週末には全部読んでしまうだろう。

ちなみに、私が読んでいるのは、文章のDay to Dayだけれど、マンガ版もある。次はこれを読んでみたい。


どちらも、今もまだネット上で読める。でも、紙の本を買って手元においておくつもり。だって、これは記録だから。

本の中の人々は、窮屈な世の中に順応しながら、たくましく、したたかに生きている。それは、現実の私たちも同じ。

いずれ、ワクチン接種が進んで、ウイルスをやっつける薬ができたら、コロナもインフルエンザくらいに落ち着く日がくる。また以前と同じように、旅行や人との接触が自由できるようになったら、多分私は、この窮屈な世の中を生きていたことなんか、はじめからなかったみたいに、あっさりと忘れてしまう。

だから、私たちが、目に見えないものに大騒ぎした、おかしな時代があったこと、この世界を懸命に生き抜いたこと、苦しんだ人たちのことを忘れないために、この本を手元に置いておく。

本は時代を映す鏡だと、「Day to Day」は教えてくれる。

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