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【課題解決・問題解決】03 日本型・業務要件定義からの脱却のすすめ


はじめに

アールツリー・イノベーション 辻隆盛です。業務要件定義を推進する日本企業の皆様へのメッセージを記します。

私の認識では、日本で業務要件定義を実施することがはじまりましたのは、1990年代中期です。その後、日本企業が業務要件定義を推進する際に迷走することが見受けられます。さらに業務要件定義において実現すべき姿を定めないまま、システム要件定義あるいはパッケージソフトウェア適合分析に着手することも見受けられます。迷走する業務要件定義における共通点を抽出しました。


迷走する業務要件定義における共通点

方法論・技法を有していないコンサルティング会社、SI会社に推進を依存する

欧米の先進企業では、業務要件定義を自組織が主体的に推進することが主流になっています。日本企業では、業務要件定義の推進をコンサルティング会社、SI会社に依存することが主流になっています。その結果、業務要件定義を推進するノウハウを組織内に蓄積していません。
 
一方、日本では業務要件定義に関する方法論・技法を有していないコンサルティング会社、SI会社が多数派です。方法論・技法を有していないため、属人的なアプローチに陥っています。業務要件定義と称してシステム要件定義あるいはパッケージソフトウェア適合分析を推進していることも少なくありません。

業務要件定義を主体的に推進できない日本企業が、業務要件定義に関する方法論・技法を有していないコンサルティング会社、SI会社と共に業務要件定義を推進してしまい、迷走することが少なくありません。

ビジネスイベント(ビジネス活動の始まり)を定めない

業務要件定義では、ビジネスファンクションを分析します。ビジネスファンクションを分析するために、最初にビジネスイベント(ビジネス活動の始まり)に関する情報を収集します。ビジネスイベントを把握することにより、対象範囲を定めること、分析粒度を整えることが可能になります。また、ビジネスイベントを分析することにより、変革機会を抽出すること、変革ポイントを定めることが可能になります。

迷走する業務要件定義では、ビジネスイベントを把握することなく、収集した情報に抜け漏れが発生し、さらには収集した情報の粒度が整わないことにより、分析をすることができない状況に陥ります。

現行ビジネス・アクティビティを詳細に調査しない

日本企業では業務管理者の方が現行ビジネス・アクティビティを掌握していないことが多いことから、現場担当者の方へ現行ビジネス・アクティビティをヒアリングすることになり、ヒアリングの回数が倍増し時間を要します。さらに現場担当者の方が多忙で時間を確保することが難しいことから、現行ビジネス・アクティビティの調査を端折ることが見受けられます。
 
現行ビジネス・アクティビティを詳細に調査しなければ、ビジネス・アクティビティを分析することはできません。実現すべき姿を定めるには、ビジネスイベントおよびビジネス・アクティビティを抜け漏れなく調査し、分析することが第一歩になります。

ビジネスファンクション/ビジネスプロセスを分解する

1980年代後期以降におけるシステム要件定義では、ビジネスファンクション/ビジネスプロセスを分解し、次にシステムファンクションを分解するアプローチでした。ビジネスファンクション/ビジネスプロセスの分解にはビジネスファンクションチャート(BFC)を作成し、システムファンクションの分解にはシステムファンクションチャート(SFC)を作成していました。

ビジネスファンクション/ビジネスプロセスを分解する目的は、システムファンクションを使用するアクティビティ(入力する、更新する、削除する、出力する、照会する)を抽出することでした。分解を担当する方々によってビジネスファンクション/ビジネスプロセスの粒度が異なっていても、最終的にシステムファンクションを使用するアクティビティを抽出できれば良いという考え方に基づいていました。
 
1990年代中期以降にビジネスプロセス・リエンジニアリングの考え方が提唱された後、ビジネスイベントおよびビジネス・アクティビティを分析することが主流になりました。従来のビジネスファンクション/ビジネスプロセスを分解する技法ではビジネスイベントおよびビジネス・アクティビティを分析することができないため、ビジネスファンクション/ビジネスプロセスを分解すること、BFCを作成することが廃止になったことを覚えています。
 
迷走する業務要件定義では、いまでもビジネスファンクション/ビジネスプロセスを分解していることが少なくありません。ビジネスイベントおよびビジネス・アクティビティを分析するのであれば、ビジネスファンクション/ビジネスプロセスを分解し、BFCを作成する必要は全くありません。

業務フロー図を作成する

日本では、業務要件定義に関する研修プログラムにおいて、業務フロー図を作成することが推奨されています。しかしながら業務フロー図は、アクティビティを可視化することはできますが、アクティビティを分析することはできません。

業務フロー図の主な用途は、新たな業務におけるデータフローを可視化すること、システム要件としてプロセスオートメーションツールへの入力情報とすること、新たな業務に関する研修プログラム用資料として用いることなどです。いずれも実現すべき姿を定めた後に用いるものです。

業務要件定義においては、情報収集および分析の対象範囲が広がり、分析の難度が高まる中、所要時間が足りなくなることが少なくありません。業務フロー図を作成するには労力と時間を要します。業務フロー図を作成するのであれば、システム要件定義の着手後で良いと考えます。また、業務フロー図(As-is)は、用途が限られていますので作成することを回避すべきです。


日本型・業務要件定義 vs ビジネスデザイン

現在、ビジネスファンクションにおける実現すべき姿を定義する方法には、異なる2つのアプローチがあります。一方は「日本型・業務要件定義アプローチ」、他方は「ビジネスデザインアプローチ」です。
 
日本型・業務要件定義アプローチは、「システム要件定義」を基点とする現行立脚型アプローチです。システム要件定義あるいはパッケージソフトウェア適合分析に着手する前に、課題および要件を整理するアプローチです。業務管理者および業務担当者の方へ課題および要件に関するヒアリングを実施した上で整理します。現在、日本で活動するコンサルティング会社およびSI会社において主流になっているアプローチです。
 
一方、ビジネスデザインアプローチは、「ビジネス構想策定」を基点とする変革型アプローチです。ビジネス構想策定において課題を分析した上で抽出した施策に基づき、ビジネスデザインにおいて変革ポイントを定めるアプローチです。

以下に各々の特徴を記します。


日本型・業務要件定義アプローチの特徴

方法論・技法の源流は、1980年代後期に提唱されたシステム構造化分析技法です。用いる主な技法は、「ビジネスファンクション分解技法/BFC」、「システムファンクション分解技法/SFC」、「データフロー分析/データフロー図」などです。

業務管理者および業務担当者の方へヒアリングする内容は、課題および要件であり、ヒアリングした結果を整理することになります。課題整理と呼ばれています。業務管理者および業務担当者の方が、課題および要件を分かっていることが大前提になっています。
 
定義アプローチ概要は、以下のとおりです。
 
 現行業務に関するヒアリングを実施する
 ヒアリング結果をまとめる
 課題および要件に関するヒアリングを実施する
 ヒアリング結果をまとめる
 業務用語を定義する
 ビジネスファンクションを分解し、BFCを作成する
 アクティビティを定義する
 業務フロー図を作成する
 システムファンクションを分解し、SFCを作成する


ビジネスデザインアプローチの特徴

方法論・技法の源流は、1990年代中期に提唱されたビジネスプロセス リエンジニアリングです。用いる主な技法は、「ビジネスイベント分析」「ビジネスイベント増減予測」「ビジネス・アクティビティ価値分析」などです。

業務管理者および業務担当者の方へヒアリングする内容は、あくまでもビジネスイベント(As-is)およびビジネス・アクティビティ(As-is)です。課題および変革ポイントは、分析チームが分析することにより抽出し定めます。
 
定義アプローチ概要は、以下のとおりです。
 
 ビジネスイベントに関するヒアリングを実施する
 ビジネスイベントを分析する
 ビジネス・アクティビティに関するヒアリングを実施する
 ビジネス・アクティビティを分析する
 変革ポイントを定める
 業務用語を定義する
 ビジネスイベント(To-be)を定義する
 ビジネス・アクティビティ(To-be)を定義する


日本型・業務要件定義からの脱却のすすめ

企業における課題解決において、ビジネスファンクション、ビジネス情報、情報システムを変革する取り組みの難度が高まっています。

変革する取り組みにおいては、「システム要件定義」を基点とする現行立脚型アプローチから、「ビジネス構想策定」を基点とする変革型アプローチへの視座の転換が必要であると考えます。業務管理者および業務担当者の方へ課題をヒアリングし、課題を整理するのではなく、業務管理者および業務担当者の方へAs-isをヒアリングし、課題を分析することが肝要になります。

課題解決においてビジネスファンクション、ビジネス情報、情報システムを変革する取り組みを立ち上げる際には、ビジネスデザインアプローチを適用することをおすすめします。そしてビジネスデザインを推進するノウハウを組織内に蓄積することにより、主体的に推進できる組織能力を高めることもおすすめします。



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