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書評 泥のカネ 森功


同書は、2000年代後半から10年代頭にかけて、ニュースになった水谷建設の社長をめぐるノンフィクションである。同書の主役である水谷功は、刑事事件の容疑者としてニュースになる前から、建設業界ではすでに知られた、世間ではいわゆる「フィクサー」として暗躍した人物である。著者の本では、以前、やはり「フィクサー」として知られた財団法人の理事長に焦点を当てた「同和と銀行」を読んだが、それまで明らかにされることのなかった、大阪の行政、メガバンクの闇の部分を、かなり細かなところまで記していた。

今回の本は、11年4月初版で、自分が読んだ本はその月に出された2刷。当時は民主党政権で、水谷が当時の小沢一郎の秘書らが立件された西松建設の事件や陸山会の事件に絡んで、小沢が強制起訴されたタイミングでもあったが、3月に東日本大震災と福島の原発事故が発生。この水谷建設が福島で原発関連の仕事をしていたことから、「東電利権」に絡んでいるということで、同書の注目が集まり緊急増刷したようだ。

同書では、水谷のインタビューも交えつつ、彼を通した建設業界の談合の実態、そのなかで出てくる小沢のほか、二階俊博など誰もが知っている政治家周辺との関わりを浮き彫りにする。いずれも水谷建設が案件を受注するために、「お金」が動くのだが、小泉訪朝で一時期、にわかに盛り上がった北朝鮮との「国交正常化」後を見据えた業界の動きが興味深かった。また、芸能人を招いてのパーティーの話も面白く、松原のぶえや北原ミレイ、千昌夫といった昭和の懐かしい歌手のタニマチになっていた話や、無名の歌手のデビューをさせる過程で、その身内の女性を亀井静香の秘書にねじ込んだ話など生々しい話が出てきて、テレビに出なくなり、ヒット曲もさほどない懐かしい歌手が長く生き延びるこができる一端も知ることができた。ただ、ところどころ事実誤認のようなところがあるのが残念。大阪府知事を強制わいせつ事件で辞職した横山ノックを逮捕としているのは在宅起訴だったし、93年に起きたゼネコン汚職事件では、新潟県知事が逮捕されたとの記述があるが実際は逮捕も立件もされていない(おそらく92年に起きた佐川急便のヤミ献金事件で当時の知事が在宅起訴と混同しているのかもしれない)。版を重ねて訂正されているのかもしれないが、ノンフィクションにはマイナス要因。

#書評 #政治 #ノンフィクション #事件