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書評 「追われる国」の経済学: ポスト・グローバリズムの処方箋 リチャード・クー

久々に著者の名前を目にした。著者のイメージは、麻生政権のブレーンとして、財政拡大路線推進といった印象だったが、それは小生の不勉強であり、近年のグローバル経済を広い立場からとらえ、今後の処方箋を示しており、著者の視野の広さと深い考察に畏怖の念を抱いた。今年読んだ本においても、過去数年に読んだ本においても、星五つで上位に入る内容だった。

グローバル経済の拡大により、新興国が台頭し、日本を含む先進国から追われる国=被追国になったととらえる。90年代のアジアや日本の金融危機、08年のリーマン・ショック、11年の欧州危機の各国の金融政策への教訓として、企業がバブル期に投資を行った後、一転して崩壊後は貯蓄に励むようになり、いわゆる「バランスシート不況」が生じたと指摘する。今後のグローバル経済のもと被追国では、企業の海外移転や国内の投資機会が枯渇するなかで、新たな製品やサービスの開発を行うために、それに合わせた税制や規制の緩和とともに、有望なインフラプロジェクトを進めるための公共事業を進め、財政政策が必要になると説く。もちろん、無駄な公共事業への投資への戒めも注記している。政府が最後の借り手としての役割を放棄してはならないと強調する。

一方で、自由貿易が戦争を過去のものにしたと、「危機管理」的な側面から評価したうえで、米国のトランプ政権誕生や欧州の極右政党躍進といったポピュリストの台頭に警鐘を鳴らしつつ、貿易不均衡を拡大する為替のあり方やそれをもたらす資本移動への是正策など、新たなルールづくりの必要性も指摘する。筆者が全般的に強調するのは、物価目標を盛り込んだ金融政策や、財政再建一辺倒の政策も、過去の「黄金時代」の手法に、政策担当者やエコノミストがあまりにとらわれている点だ。われわれも含めて、グローバル経済以降の時代に生きており、それに合わせた考え方や見方が、好むと好まざるとにかかわらず求められていることを強く痛感した内容だった。

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