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書評 人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小 チャールズ・グッドハート, マノジ・プラダン

日本では、長らくデフレ脱却が政治の主要スローガンに掲げられ、物価目標も導入されたが、コロナやウクライナ侵攻を経て、資源価格の上昇も相まって、インフレへと転じている。直近の自民党総裁選や立憲民主党の代表選でも、物価高騰への対策が候補者から語られている。同書はコロナの直前にまとめられた本だが、著者たちによれば、そのコロナがインフレの到来を速めているとの見方を示す。

「デフレ、低金利の時代がついに終わる。インフレと金利上昇の時代が到来する。グローバル化のスピードはゆっくりとなり、労働分配率の向上、賃金上昇から格差は縮小に向かう。コロナ危機は、世界経済の潮流が激的な大転換を迎える分水嶺である」

そして、「世界経済の大転換をもたらす最大の要因は、高齢化、労働人口の減少による世界的な人口構造とグローバル化の大逆流」がこれから始まるという。訳者の澁谷浩によれば、過去30年の世界経済の最大の出来事が、中国の世界経済への参入で、2001年にはWTOへの加盟を果たす。これにより、世界経済全体に安く労働力が供給され、世界の労働供給量が一機に2倍に上昇したと指摘する。これは勝者と敗者を生んだ。勝者は、1つは中国の労働者で賃金上昇がもたらされ、もう1つは、中国企業と中国に生産拠点を移した先進国企業や国際資本で、巨大な利益が上げられた。敗者は先進国の非熟練労働者で、海外移転と労組弱体化、移民増加などで、賃金は停滞。富裕層との格差が拡大し、彼らの怒りは選挙を通じて、米国ではトランプ政権誕生、欧州ではいわゆる右翼政治家への支持につながった。

しかし、その中国をはじめ、世界の主要国は出生率の低下と高齢化のプロセスが明らかになりつつあり、これらがインフレ圧力の復活と金利の上昇へと大転換というのが著者たちの見方である。インドやアフリカ諸国の経済発展を見込む向きもあるが、巨大で未開発の労働資源が存在するにもかかわらず、中国の台頭を再現する能力は持っていないと、著者たちは懐疑的な見方をとっている。

同書で、興味深かったのは第4章の認知症と介護に触れた部分、ならびに9章のすでに高齢化が進んでいる日本でなぜ新しい変化が起こっていないのかについて取り上げている部分。認知症が誰もが高齢化に伴い、患うリスクがあり、この分野で治療薬の開発が進まない点も、高齢化を考えるうえで、重要なファクターであるとする。また、日本の変化が起こらない部分には、最近総裁選でも話題の労働慣行の違いを浮彫にしている。

今後、人口大逆転が不可避ななかで、我々がどのような世の中の仕組みを構築していくべきか、同書はさまざまな教示を行っており、テクニカルな部分も多いものの、読んでおくべき1冊である。

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