色が奪われた世界 ショートショート31

今年で五十歳になった。
半世紀を生きて、突然世界から色が消えた。
何かを患ってもおかしくないとは思っていたが、色覚異常を起こすとは思わなかった。
突然の出来事だったが、生活する上で困ることはあまりなかった。
信号機も三ヵ所の光の点灯を頼りに車の運転をすればいい。普段通りに通勤し、仕事にも支障はでていない。
しかし、地味に困ったのは、焼肉の時に肉が焼けているのか分からなかったときだ。
危うく半生の肉を食べて、腹を下すところだった。
そんな私に再度、色のある世界を与えてくれたものがあった。
漫画だった。
白黒の世界のはずだが、私には色が見えた。
主人公達が駆ける、森も草原も、陸の果ての海にも色があった。
思い出が色をつけてくれた。

どうか視力だけは奪わないでほしい。
まだ見ぬ孫の顔を一目見たい。
まだ見ていないものは、色を補間ができない。
半世紀生きようと無力な自分、否、年を取ったからこそ、抵抗が難しい老いを敵視した。

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