【創作】ドラゴンズ・ウォー #1
椿と画家
薄汚い石畳みを踏みしめて、坂道を登っていた。見上げると目的の店が見える。曇天模様の空が、怪しげなその店をさらに怪しく魅せた。
僕は小さくため息をつき、これから出会う店主になんと言おうかと考えた。
ここのところ仕事が思うように行かず、今月払えるツケはこのくらいだ…とか、頑張って明日までには工面するから待ってほしい、とか。
大体、学生でもないのに、必要以上に本を買いすぎるのが良くない。しかも、一冊が一万も二万円もすることだってある。そんなものをねだって買ってみたところで、まともに見やしないのに、僕もバカだバカだと思いながら買ってしまう。こんな浪費癖があるから、嫁のきてもない。
「いっそ、先生も店を開いたらどうだい?」
店に着いたらついたで、店主はそんなことを言って茶化すのだ。
「僕は画業に専念したいんだ。店なんか、やってる場合じゃあないよ。」
店主(名前は椿さんと言った)はけたけたと笑う。
「画業ったって、先生の絵は年に一回売れるか売れないかだろう。それでも貧乏暮らしなのに、それこそ言ってる場合かね?」
「他にもバイトはしているよ。」
僕は苦し紛れにこう答えた。
「兎に角、支払いはもちっと待って欲しいんだ。明日には持ってこれると思うから…。」
「まあまあ、先生。そんなら、こういうのはどうだろか?」
椿さんは、宥めるように僕に言う。
「いいバイトがあるんだ。もちろん、先生にピッタリさ。絵を描く仕事なんだ。どうだい、先生は興味ないかい。」
不敵な笑みの向こうに、何か企んでいるのがわかった。だが、その時の僕は気の迷いからか、首を縦に振っていた。
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