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『稲盛和夫一日一言』 9月29日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 9月29日(金)は、「買収・合併の心得」です。

ポイント:買収や合併とは、全く文化の違う企業が一緒になることであり、企業間の結婚のようなもの。最大限、相手を思いやることが必要。

 2015年発刊の『稲盛和夫経営講演選集 第3巻 成長発展の経営戦略』(稲盛和夫著 ダイヤモンド社)の中で、「M&Aの要諦は、『思いやり』『優しさ』を判断基準にすること」として、稲盛名誉会長は次のように述べられています。

 合併や買収を行う場合、経営者の皆さんはスタッフの方々を総動員して、適切な交換比率などを必死で調べられるのが普通だと思います。
 大きな取引になればなるほど、損はできない、失敗もできないと考えて、弁護士なども集めて一生懸命調査されるでしょう。同様に、売る側は売る側で同じような行動を取っているはずです。

 買う側、売る側のどちらにとってもたいへん重要な案件ですから、自分のメリット、デメリットをギリギリまで考えて、激烈なシミュレーションを行っていくわけです。そうした場合、得てして双方の利害が衝突してなかなか交渉は進まず、短くても半年、長ければそれ以上かかってしまいます。

 例えば、「相手の会社には、本当に提示されただけの資産があるのか」と疑い出すと、海外にある資産まで細かく調べて回ったり、相手の会社の技術やノウハウが本当に使えるものなのかどうか、といったところまで精査しなければならなくなります。つまり、きりがなくなるわけです。
 どこかでお互いが許容できるところを見つけて妥結させなければならないのですが、その結果、必ず感情的なしこりが残ってしまいます。

 そうすると、合併した後に共同作業で素晴らしい成績を上げていくことが真の目的であるはずなのに、合併が成立した時点ですでにどちらも疲れ果てていて、お互いの人間関係も壊れかけていますから、その後うまくいかなくなる。これが、一般的によくあるケースではないでしょうか。

 皆さんにも経験があるように、利害を前面に押し出して行った仕事で、うまくいったためしは絶対にないはずです。「お客様に喜んでもらって、自分ももうけさせてもらう」「三方よし」といった商人の信条にみられるように、相手が喜ばなくては絶対に商売はうまくいかないはずです。

 こうした鉄則は、大企業であろうと中小企業であろうと、まったく変わりません。相手が喜ぶことは、実はこちら側の喜びにつながるのです。(要約)

 私は、買収や合併に関する業務に直接携わったことはありませんが、京セラ在籍40年の間、買収や合併を通じて京セラグループ入りした別企業の方々と接する機会はたくさんありました。

 中には、京セラよりも歴史の長い企業もありました。京セラでは創業記念日を祝う式典で、勤続5年区切りで永年勤続者を表彰するという制度が実施されています。(勤続年数に応じて、表彰状と記念品が授与されます)

 1983年、カメラメーカーの(株)ヤシカを吸収合併した際、旧ヤシカの社員の勤続年数は継続カウントされることになりました。ヤシカの創業は1949年、京都セラミツク(現京セラ)の創業は1959年で、10年ほどの違いがありるのですが、旧ヤシカから継続して勤務する社員は、京セラの創業年数以上の勤続年数で表彰対象となったわけです。

 現在、京セラは一般的な光学カメラ事業からは完全撤退していますが、その事業によって培われた光学精密機器製造の技術やノウハウは、車載用カメラ部品や様々な応用機器商品の製造販売に生かされています。

 永年勤続表彰制度はほんの一例に過ぎませんが、買収や合併した後、異なる企業文化を持った人たちといかに一体感を持って業務を進めていくことができるかどうかで、その後得られる成果も異なってくるはずです。

 「買収・合併とは、企業間の結婚のようなもの」
 人同士であれ、企業同士であれ、最大限相手のことを思いやり、優しさを持って大切にしようとする、そうした気持ちが大切なのではないでしょうか。


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