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『稲盛和夫一日一言』 1月19日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 1月19日(金)は、「神の啓示」です。

ポイント:毎日毎日悩み苦しんでいると、ある瞬間に、神の啓示のように、アイデアが心にひらめくことがある。それは神が与えてくれる霊感(インスピレーション)のようなもの。

 2009年発刊の『働き方』(稲盛和夫著 三笠書房)の中で、神様が知恵を授けてくれたと感じた瞬間のことについて、稲盛名誉会長は次のように述べられています。

 松風工業に入社して一年ほどたったころ、24歳の私はフォルステライトと呼ばれる、新しいセラミック材料の研究開発にあたっていました。
 テレビのブラウン管に使用される絶縁材料に適しているといわれていましたが、世界で合成に成功したという報告はまだなく、まさにチャレンジングなテーマでした。

 大した設備もない中、私はもがき苦しみながらも、自分をギリギリのところまで追い込み、昼夜を問わず実験を続けました。そして、どうにかその合成を成功させることができたのです。

 材料の優れた高周波特性を生かして、最初に製品開発に取り組んだのが、松下電器産業(現パナソニック)グループでブラウン管の製造などを担当していた松下電子工業(当時)から受注した、「U字ケルシマ」という絶縁部品でした。

 その製品の開発段階で一番苦労したのは、成形方法でした。さらさらの粉末だけではうまく形をつくることができません。そこには、うどん粉やそば粉をこねるときに使う、粘り気のある「つなぎ」のようなものが必要でした。
 従来は「つなぎ」として粘土を使っていたのですが、それではどうしても不純物が混じって、磁器特性が劣化してしまいます。私はその課題をどうクリアしたものか、考えあぐねていました。

 そんなある日、思いもかけないことが起こったのです。あれこれ思案しながら実験室を歩いていると、何かに蹴躓(けつまず)いて転びそうになりました。思わず足元を見ると、実験で使うパラフィンワックスが靴にべっとりと付いていたのです。

 その瞬間、「これだ!」と閃(ひらめ)きました。早速、手製の鍋に原料粉末とパラフィンワックスを入れて加熱しながらかき混ぜ、顆粒状になった粉末を型に入れて成形すると、見事に形をつくることができました。
 しかも、つなぎのパラフィンワックスは、製品を高温で焼成する際に燃えてしまうため、不純物として残留することはありません。あれだけ悩みぬいた懸案事項が、一気に解決できたのです。

 今思い返してみても、「神の啓示」としかたとえようのない瞬間でした。もちろん、実際に解決策が閃いたのは私自身なのですが、それは一生懸命に仕事に打ち込み、苦しみ抜いている私の姿を見た神様が、私のことを憐れんで知恵を授けてくれたとしか表現できないように思うのです。

 その後同じような経験を幾度も積んできたことから、私は社員をつかまえては、ことあるごとに「神様が手を差し伸べたくなるほど一途に仕事に打ち込め。そうすれば、どんな困難な局面でも、きっと神様の助けがあって成功することができる」と説いてきました。

 この「最初の成功体験」によって、苦難の中にあっても懸命に働くことが素晴らしい運命をもたらす、ということを私は実感することができたのです。(要約)

 今日の一言では、「神の啓示とは、逆境に立ち向かい、人間として何が正しいかを問い続けながら仕事に没頭しているときに、神が与えてくれる霊感だ」と言われています。

 同著の中で、名誉会長は自身の人生を振り返って、次のように言われています。

 人間というのは、周囲から「あいつはかわいそうだ」と言われるくらい不幸な境遇に、一度は置かれたほうがいいのかもしれません。
 ちょうど冬の寒さが厳しければ厳しいほど、桜が美しい花を咲かせるのと同じように、悩みや苦しみを体験しなければ、人は大きく伸びないし、本当の幸福をつかむことはできないのでしょう。

 
 今にして思えば、私が経験してきた不運、試練こそが、私に仕事を打ち込むことを教え、そのことを通じ、人生を好転させてくれたという意味では、神様が与えてくれた最高の贈り物だったのです。
 逆境にあっても、愚直に懸命に働き続けたことが、今の私のすべてをつくる基礎となってくれたのです。
(要約)

 「艱難汝を玉にす(かんなんなんじをたまにす)」という言葉には、「人は困難や苦労を乗り越えることによって、初めて立派な人間に成長する」といった意味がありますが、一節には、「Adversity makes a man wise.(逆境は人を賢明にする)」というフランスのことわざに由来した言葉だとの説もあるようです。

 洋の東西を問わず、人生における苦難や挫折こそが、その人にとっては人生の起点であり、最大の「幸運」なのかもしれません。
 どんな逆境にあっても、愚直に懸命に働き、生き続けることで、素晴らしい人生を全うしていきたいものです。


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