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『稲盛和夫一日一言』 11月14日

 こんにちは!『稲盛和夫一日一言』 11月14日(火)は、「撤退の決断をする」です。

ポイント:物質的な要素はともかく、情熱がなければ新しい事業や開発などできない。もし、情熱が尽きるような状態まで追求して、それでも成功しないのであれば、私は満足して撤退する。

 2011年発刊の『新版・実践経営問答 こうして会社を強くする』(稲盛和夫著 盛和塾事務所編 PHP研究所)の中で、「新規事業を展開するにあたって、進出・撤退を決断する物差しとは?」との盛和塾生からの質問に対して、稲盛名誉会長は次のように答えられています。

 ひと言で、進出・撤退の基準をお話しするのは難しいと思います。
 業種が違うので、的確なアドバイスにはならないかもしれませんが、私は以前から、新規事業をやる場合には「本業とあまりかけ離れた事業に手を出してはいけない。囲碁に例えれば、飛び石は打つな、必ずつないで打て」と言ってきました。


 それは、事業経営にはやはり深い専門知識と経験が必要だからです。自分の本業に近ければ、その専門知識が活かせますから、たとえ経験がなくても、そう大きくは間違わないからです。
 ですから、まずは「新規事業は得意技の延長線上で勝負していく」と決め、その得意技に自信が持てるようになったら、始めても良いのではないでしょうか。

 次に撤退を判断する指標についてですが、新規事業に取り組む際、私は十分にシミュレーションを尽くして始めますから、事業部にしろ子会社にしろ、うまくいかないということは本来あり得ないと思ってかかります。うまくいかないのは、そこのトップがその理由を考えていないか、課題を解決しようとしていないからであって、いずれにしてもトップに問題があると考えます。ですから、事業部長や子会社のトップとのやりとりはいつも凄まじい真剣勝負となります。

 しかし、あらゆる手立てを講じてもだめなときがあります。「我に利あらず」、客観情勢が如何ともし難い、才覚のあるリーダーが見出せない、そうしたときもあるでしょう。そのときは、勇気を持って退却します。

 攻めていくときの号令は誰でもできますが、撤退となれば、それは社長だけが行える仕事です。面子(メンツ)もあるし、先々のことが頭をよぎるでしょうが、撤退は社長自らが全部泥を被る覚悟で決断しなければなりません。特に、不況期などで本体が弱っている場合には、一瞬たりとも逡巡してはなりません。撤退することも勇気なのです。

 「撤退する」ことと「絶対に諦めない」ことは相矛盾するように聞こえるかもしれませんが、潜在意識の奥底では、絶対にうまくいくと思っていなければ新しい事業など続けられません。周りの人がもうだめだと思っていても、私の心の奥底には常に「ネバー・ギブアップ」という明るい気持ちがありました。(要約)

 今日の一言には、「『刀折れ、矢尽きた』という精神状態に至るまで、根(こん)の限り戦うことが前提だ。しかし、すべてが思い通りになるわけではない。そのときには、真の引き際が判断できなければならない」とあります。

 名誉会長はご自身の経験から、撤退について次のように述べられています。
 
 事業で一抹の不安がつきまとう、それを払拭できない場合は、早期にやめるべきだと思います。たとえどんなに条件が揃っていても、払拭できない暗雲が心にあるときは、万事を尽くしても決してうまくいかないからです。(要約)

 週刊誌『日経ビジネス』に「敗軍の将、兵を語る」という名物連載があります。果敢に挑戦したものの、道半ばで敗れた者、苦境に立ち失意の中にある者たちが、時に改悛し、時に来し方の戦術を振り返る。
 本来、「敗軍の将、兵を語らず」が破れた者の持つべき美学なのでしょうが、そこには丹念な取材に基づく実に生々しい証言が溢れています。
 多くの事例を知ることは、次に挑戦しようと者にとっては絶好の道しるべとなるのかもしれませんが、『失敗学のすすめ』(畑村 洋太郎著)と同様、もし避けて通れるならばそれに越したことはないと思えるものです。

 突き進むにしろ撤退するにしろ、いずれも勇気がなければ決断することはできません。残りの人生、己の心の中にある基軸、座標軸に従い、ブレない判断を繰り返していけたらと思っています。


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