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お金を使うときの頭の中

眩しすぎない曇りのない青空と、薄く水がひいてあるような澄み渡った地面がある、透明な広い空間。そこに、不自然に宙に浮いた大きな網袋にお金が入っていて、下のところに透明なチューブが伸び、先に蛇口が付いている。

コンビニやスーパーに入って買うものを決めると、その蛇口が緩んで、下にある犬の餌を入れる容器みたいなものに、お金がほろほろ落ちて溜まる。

レジでカードを切ると同時に、その容器を、近くの神妙な雰囲気のある賽銭箱まで持って行って、中身をひっくり返す。

毎月25日くらいになると、宙に浮く網袋に、どこからともなくどさどさとお金が降ってくる。労働の対価のようだ。

僕のお金をもらったり払ったりするときの感覚は、ちょうどこんな感じになってると思います。
もちろん、細かい表計算上のカウントは別にあるとして、もっと感覚的な部分です。

最近、僕にしては大きな買い物をしました。
小銭入れのない、お札とカードの入る財布。

偶然通りかかったレザークラフトのお店で、求めていたサイズらしい小ぶりな二つ折りの財布を手に取った。

触った質感で、蛇口が緩む。
開いて中の作りを見て、また緩む。
店主がオーダーメイドでポケットや幅をカスタマイズもできると口にする頃には、その財布を手にするに十分なお金が餌入れに溜まっていた。

その場でオーダーと支払いを済ませ、素敵なものに巡り会えた喜びを噛みしめながら店をあとにしたのですが、しまったことに僕は蛇口を締め忘れてしまいました。

もともと買う予定のあった日用品をネットショップで見ていたときのこと。画面の下の方に「あなたへのおすすめ」が表示されていました。僕はいつも通り素通りしかけた時、その中に靴磨きの際に使用するブラシがあるのを見つけました。そこから、何かパチっと頭の中で音を立てて繋がり、思考はちょっと欲しいなと以前思っていた革靴にたどり着きました。

そこまで高くないけれども、独特でありながらもクラシックで飽きのこなさそうな、素敵な革靴。思い出したついでにその商品ページまで足を踏み入れていました。

それが最後。気づいた頃には、すでに餌の容器には十分すぎるお金が流れ落ちていました。急いで蛇口を締めたものの、お金を賽銭箱にひっくり返すことをやめることはできませんでした。

ものを買うとき、特に、少し蛇口を大きく捻る買い物をするとき、しっかりと調節してちょうどのところで止めなければならないと思いました。

予想よりも量が少なくなった網袋を見ていると、なんだか得体のしれない不安に苛まれてしまいますから。

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