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日本史を正しく知る 百田尚樹氏『日本国紀』感想

百田尚樹氏が話題です。新たに政党を立ち上げるからです。(※2023年10月)
私は興味深く見ていたのですが、ふと思いました。そういえば百田さんの作品「日本国紀」読んでないな、と気づきました。百田さんの他の作品、「永遠の0(ゼロ)」や「海賊と呼ばれた男」は映画化もされ、たいへん面白くて興味を持っていました。本書は歴史をまとめたもので、百田さんの言いたいことが詰まっているのではないかと思ったので、急いで読んでみました。

読んだ結論としては、期待通りめちゃ面白かったです。ざっと2000年以上にわたる日本の歴史を通しで振り返っています。さすが百田さん、これを書くにはものすごい知識量が必要だろうなと思いました。例えば「世界中探してもそんな例はない」など、日本だけの知識があれば書ける内容では決してないのです。

いままでの百田先生の作品と異なり、政治思想を意識させられます。百田先生といえば、ゴリゴリの保守論客で有名です。私の知っている範囲でいうと、逆にいままでの「永遠の0」や「海賊と呼ばれた男」は政治思想が関係ないし、イデオロギーへの誘導もないのがよいところです。本作は、そもそも小説ではないのもありますが、著者が本当に言いたいことをよりストレートに表現しているものと思います。
なにより、フラットに読めば、腑に落ちます。難解な用語を避け、歴史に詳しくなくてもとても読みやすいと思われます。

この本は、百田さんの史実に対する批評や感想も差し入れられています。意見があれば完全に中立にはなりにくいのはありますが、しかしこれがないと私のような素人の読者には判断が難しいだろうと思います。教科書のような完全中立の書き方をしていると、できごとの解釈が難しくなります。説明、評価も分かりやすいです。前代未聞の事態がおこった、日本がひっくり返るほどの大騒ぎだ、などなど。
百田先生自身の感想も私にはよかったです。日本人として先祖を誇りに思う、というとか。百田さん個人の感想ではあるものの、歴史は面白いのだと感じることができた。ちなみに私自身は歴史は学校では最低限しか学習しておらず、少しばかり苦手意識もありましたが、最近は興味を持ってきました。

次に内容の話をしていきます。
ひとつわかったことは、歴史教科書はあてにならないということ。特に近現代。なぜそういうことになったかも詳述されていました。その元凶は、終戦後、日本を占領統治したGHQによる影響で、特に教育界の様々な分野に及んでいるといいます。

戦後の評価が低いことに少々意外だと思いました。GHQの功罪、悪影響には予想以上に手厳しかったです。
本の終盤になると、これからの日本の未来に不安を抱かざるを得なくなります。だからこそ百田先生は筆を執ったのかもしれません。その分、若者よ、これからの日本を託したぞ!というメッセージになっています。

出版時期はというと、この本は2018年出版です。比較的最近でありますが、2022年2月のロシア・ウクライナ侵攻は始まっていません。その後、安倍元首相暗殺事件が起こるなど、日本国内や世界情勢はますます混迷していくようです。そして2023年10月、つい最近ではイスラエル対ハマスの衝突が勃発したばかりです。
余談になりますが、だからこそ日本の将来を憂い、2023年に百田先生は政党を立ち上げるまでになったのでしょう。直接の要因はLGBT法ではありますが。

最後に、印象に残っている内容や思ったことを列挙してみます。

・平安時代の朝廷の有事の対応力のなさ。
 平和な時代が続いていれば問題は起こらなかったのですが、日本の一部が侵略の危機にさらされました。そのとき、朝廷では「戦」が極度に忌み嫌われ、朝廷では対処することができず、武士まかせだったといいます。朝廷では、なんと、「祈り」をささげることしかできなかったといいます。

・元寇へ一致団結して立ち向かう。
ときは鎌倉時代で、争いのたえない世でありましたが、国難が迫った時に団結して元をみごとに二回とも撃退できました。よくぞやってくれたと読んでいる自分も思いました。

・幕末、明治維新で内戦にならずに一致団結した日本国内。
ペリー来航を機に開国を迫られた日本。そこから強国の侵略の危機がリアルに迫ります。
倒幕へと向かう国内は混乱しますが、敵対する勢力がたくさんあるなかで、一部に戦はあったものの団結して国難を乗り越えました。内戦に陥り、疲弊・荒廃した国が強国に侵略されるという悲惨な事例を教訓とすることができたからだといいます。

・幕末→明治維新の文明の進み方のすさまじさ。
前述のことにも関連しますが、強国の侵略の危機にさらされるなか、「富国強兵」を強力なスローガンとして、江戸時代の鎖国時代の100~200年の文明の遅れをわずか15年ほどでいっきに取り戻すことになります。教科書でなんとなく知っていた「明治維新」はどれほどすさもじいものだったか実感がわきました。

・江戸時代、幕末前の無策ぶり。
開国までの江戸時代は200年ほど、過去の日本の歴史上にみないほどに平和な時代が続いたといいます。これはひとつには徳川家の功績だろうと思います。
しかしながら、外国からの侵略の危機と常に隣り合わせでもありました。鎖国といえども外国からの情報は仕入れていたといい、危機を察知していて対策を立てられたはずです。ですが、開国に至り、めちゃくちゃになりながらも泥縄的な対応で国内の体制をなんとか変えて、そして文明の遅れを取り戻していきました。
やはり、平穏なときは不都合なことからは見て見ぬふりをしてしまうのだろうかと思いました。薄々感づいているが、行動ができないということにも似てるでしょうか。これは現代においても教訓かと思いました。


ここまで、二度の世界大戦前の上記のことまででも、一致団結して国難を乗り切った先人たちには頭があがらない思いになります。一方で平安時代のときや江戸時代中期までの平穏な時代に危機を忘れるということはなんとも情けない気がします。実際、戦後80年ほど平和に暮らしていける現代のようなものかもしれないと思います。そう思うと不安がよぎりますが、健全に危機を恐れ、対策をとるというのが大事なのだと思います。言うは易しですが。

・二回にもわたる世界大戦は、第二次世界大戦では300万人という尊い命の犠牲にしました。こんなことがあってはならないと思いますが、死に物狂いで国を挙げて戦った日本は、戦後、完全ではないが主権を取り戻して、経済発展もして強い国になりました。同時に、欧米の植民地だったアジアの国々を解放しました。貧しく、占領された植民地にはならなかったのです。世界の風潮も、人種差別はよくない、奴隷支配はよくない、という流れになっていきました。日本が与えた影響とみていいと思います。

・織田信長は日本史上初めて、虐殺を命じた。。この事実は意外でした。
裏を返すと、それまで、国内では歴史上数々の戦があったけれども、どれも武士どうしの戦いであり、農民など一般市民は犠牲になっていないといいます。これは知らなくて驚きでした。日本人らしい侍魂といったものでしょうか。
これはなんと何百年も前に、戦争は戦闘員のみを標的にするという、ジュネーブ条約を実は実践していたともとれます。

・「言霊主義」。
日本人の情けないところのひとつです。言霊というのは通常はよい意味で使われ、口にする言葉には魂があって言ったとおりになるから、よい言葉を使おうということと理解しています。
ところが、危機管理の場面では、考えたくないリスクが考えないようにしようと、楽観主義になり、準備をいいかげんにしてしまいます。これにより大東亜戦争中は、作戦立案が不備で必要以上に犠牲を出してしまったことがあったといいます。
また、現代では例を挙げると、原発反対派の妨害により、原発災害対策や訓練が思うようにできなかったりします。反対派に対抗するためには、事故は起こるはずがないと主張するしかないのです。基本は安全で事故は起こらないが、万が一のとき万全な対策もとろうという考えにならないというのです。

・どうして今のリベラル派は自虐史観にたった異常ともいえる主張をするのか。
こんなのは他国にはないそうです。これはGHQによる占領政策によるといいます。
百田先生によると、GHQは日本が自国に歯向かってくるような戦争を二度としないように、日本人の精神を木っ端みじんに破壊したといいます。僕のイメージはWGIPという洗脳で静かに蝕んでいったイメージでしたが、百田先生はもっと言葉が強かったです。

上述もしましたが、この本はこれからの日本のために若者に向けたメッセージを込めた本です。あるべき日本を取り戻すために書かれたのだと思います。
ところどころ百田先生の感想もあり、その点は偏る可能性はありますが、裏付けもあるため、盲目的ではあるのですが私は肯定的に読みました。
基本は大量の史実をもとに、事実が述べられていて、知らなかった事実を知ることができます。加えて、やはり考えや行動を変えるには、知識を入れるとともに思いや気持ちの面も大いにあると私自身は思いました。著者が日本を誇りに思っているということが端々から伝わってきます。

自分たちの国の今の境遇を知るという意味で、日本人ならぜひ一読すべき一冊です。


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