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友とコーヒーと嘘と胃袋

 「思い出の曲」というハッシュタグを見かけたので考えてみた。音楽は音楽そのものだけじゃなく様々な思い出と絡まって再生されるものだと言うことを私は知っている。
 思い出の曲というと何曲か挙げられるが、今日は高校生だったときの話をしたい。

 時は2001年、高校三年生だった私は部活も引退し大学受験に向かって勉強をしている日々。朝6時に起き名古屋駅前の河合塾の自習室が7時から開くので朝イチで行って夜8時まで勉強している毎日だった。
 もちろん高校の仲間もその自習室にいて昼ご飯を一緒に食べたり途中で休憩したりして話をする時間も大切な時間だった。
 そして思春期ならではのエネルギーもあり帰りには大きく遠回りをし、市川君という友人の家の隣の神社で語らい、夜11時に家に帰るという生活だった。

 市川君はラグビーと卓球をやりながらギターを弾いて歌うことが大好きな人間だった。ゆずやミスチルを好み、名古屋駅で路上ライブをやったりする活発なタイプの人間だった。
 その時、私は弓道をやっていて前に出ることもあったがどちらかというと大人しいタイプで、思春期の悶々とした思いを抱えており、深く考えることが好きだったため良く市川君と語った。
 多分今思えばどうでもいいことだと思うが、当時としては切実で真剣な話やくだらないジョークを言い合ったりした。
 市川君は当時複雑な恋愛をしており、うまくいかずもがき苦しみ、私は受験を控えた11月に彼女にフられもがき苦しみ、お互いにやるせなさを月に叫んだこともあった。

 そんな2人を優しく包んでくれたのがMr.Childrenだったのである。特に私は前年に出て聴き込んでいた『Q』というアルバムについて語った。市川君の家からの帰り道もMDウォークマンで『Q』を聴いていた。(当時は自転車に乗りながらイヤホンで音楽を聴いていても注意されることが無かった)

 そう、青春というものにもがき苦しんでいた自分に人生というものを少なからずとも学ばせて貰った歌がある。
 それは『Q』に所収の「友とコーヒーと嘘と胃袋」という曲である。

だから胃袋よ あぁ僕の胃袋よ
もっと強靭たれ もっと貪欲たれ
なんだって飲み込んで なんだって消化して
全部 エネルギーに変えてしまおう

という歌詞に感化され、受験勉強のキツさや青春の苦しみを飲み込んでしまおうとしたのである。
なんだって「エネルギーに変えてしまおう」としたのである。真剣に。

 ボロボロになりながら何とか受験に成功し、悲しいくらいに必死だった高校時代は終わりを告げ、京都に引っ越し大学生となりこの歌は聴かなくなってしまったが、今でも冒頭の

あぁ風の噂で君の話を聞いたんだよ
結婚はしたけれどあまり幸せでは無いらしい
僕にだってそれなりに守る生活があるから
何をしてあげられるという訳じゃないけど
友よ 友よ 友よ

「それなりに守る生活」が自分自身を含め誰にでもあって出来ることには限界があるという価値観は現在に至るまで持ち続けている。 
 そういった意味では行動規範に影響を与えた一曲でもある。思春期から今に至るまで聴き続けられる数少ない名曲だと思う。

もっと強靭たれ。もっと貪欲たれ。

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