おやじパンクス、恋をする。#008
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
ベランダのないワンルームマンションの一室。彼女は赤いカーテンのかかった窓際から、こっちを見ていた。いや、こっちといっても、別に俺のことを見ていたわけじゃない。ただボンヤリと視線を宙に投げているだけという感じで、つまらなそうに、サッシに肘をついてさ。
彼女は肩くらいまでの髪で、肌が白かった。なんか外人みてえな目鼻立ちっていうか、クラスに居たら間違いなくかわいいランキング一位二位に食い込む顔だよ。もっとも、彼女の顔を間近で見たのはずっと後のことだ。二三十メートルも離れたこの位置からじゃ、かろうじてその目鼻立ちらしきものが伺えるくらいだ。
とにかく、俺と同い歳くらいの女の子が窓際にいる、最初はその程度の認識だった。
さっきも言った通り俺はかなりのむっつりスケベだったから、社会がどうとか野球がどうとかいう酔った親父のつまんねえ話より、その女の子の方が気になった。
この店はけっこう流行っていたのか客は多かったし、しかも土曜の夜ってこともあってか家族連ればっかで、俺と同年代の子どもは店内にだっていたんだ。中にはもちろん、女の子も。
だけどまあ、これがまた俺の気持ちの悪いところなんだけど、傍にいる現実の女の子のことは、まともに見れたもんじゃねえんだ。こんなキモ男じゃ、視線を投げただけで悲鳴をあげられるような気がしてた。
そういう意味でも、「向こう側」にいる彼女は、何かと都合がよかった。俺は緊張せず、彼女を見つめることができた。もちろん、俺が見ていることを彼女に気付かれたくはなかったし、あんまり露骨に見ていたら、両親にだって怪しまれるかもしれないから、あくまでさりげなくだけど。
次に来たときにも、彼女は窓際にいた。その次も、その次も。
彼女を見つけてから、俺はこのレストランに行くのが嫌じゃなくなった。楽しみってほどではなかったけど、嫌じゃなくなった。今日もいるかな、あ、いた、そんな些細な事で、楽しんでたわけさ。
彼女は別に何をするでもなくただ窓際にいて、ときどき立ち上がって姿を消し、すぐに戻ってくることもあったし、そのまま戻ってこないこともあった。
だけど、土曜のその時間、つまり六時から七時くらいの間だと思うけど、その一時間くらいの間は、ほとんど必ずと言っていいほど、彼女は顔を見せてくれた。
雨が降ってても、雪の日にも、彼女はそこにいた。まあ、あんまり大降りのときは俺たちの方が予約をキャンセルしていたから、彼女がどうしていたかは知らないけどさ。
彼女を見つけてから何度目だっただろうか、そんなにすぐってわけでもない、たぶん二ヶ月くらい経ってからだと思うんだけど、俺は彼女のいるその風景に、ひとつの違和感を発見したんだよ。
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