おやじパンクス、恋をする。#016
この小説について
千葉市でBARを経営する40代でモヒカン頭の「俺」と、20年来のつきあいであるおっさんパンクバンドのメンバーたちが織りなす、ゆるゆるパンクス小説です。目次はコチラ。
俺はあの部屋――かつて「友達」になったあの女の子が住んでいた部屋――に自然と焦点をロックしたんだが、驚いたよ。
さっきまで確実に閉まってたはずの赤いカーテンが、ちょっとだけ開いてるんだ。
最初見たときは隙間が全くなくて、左右のカーテンが完全に重なっていたはずだから、これはつまり、あの部屋の「住人」が中から開けたって以外、考えられない。
そのとき俺の頭の中に、さっきの涼介とおばちゃんの会話が浮かんだ。
「あのマンションって、分譲?」「たぶんそうよ」ってやつだ。
俺はハッとして、視線を戻したが、そこにもう涼介はいなかった。
いつの間に移動したんだろう、既に涼介はレジのとこにいて、おばちゃんからお釣りを受け取っているところだった。ボンとタカはその隣で、本棚にあった雑誌のエロページを開いて満面の笑みを浮かべてる。店員はおばちゃん一人なんだろう、さっき入ってきた四人組に対応しなきゃいけないのに、いつまでも席でグズグズしてる俺を不安そうな表情で見ている。
俺は慌てて、ほとんど小走りってくらいの急ぎっぷりでレジに向かった。いやそれは、おばちゃんを待たせて悪いなっていう意味でもあったんだけど、それよりさ、涼介が考えてるかもしれない「恐ろしい計画」について、今すぐに問いたださなきゃいけねえって思ったからだよ。
俺の予想は的中した。
涼介の野郎、ビルを出ると早々に、道路を横断して向かい側に歩いて行きやがった。その先にあるのはもちろん、例のマンションだ。「あいつ、どこ行くんだ?」というタカの言葉を背中に聞きながら、俺は涼介を追った。
だが、そういう時に限って車が来るんだよな。まるで恋愛ドラマ。近づきかけた二人の気持ちをトラックが引き裂いた。はは、なんだそら。細い二車線のクソみてえな道路じゃねえか、さっきまで全然車通りもなかったくせに。だいたいこんなつまらねえ町に何の用事があんだよアホンダラ、と理不尽な怒りを感じながら何台かの車をやり過ごし、やっとマンションの下に到着した時には既に涼介の姿はなかった。
古いマンションならではの、よく言えば重厚、悪く言えば陰気なエントランスが口を開けていた。
昔の建物だからエレベーターなんかねえんだろう。いや、そもそも五階建てには付かないんだっけ、なんてどうでもいいことを考えながら、薄暗いエントランスを睨んだ。奥には階段が見えている。
頭の中で、マンションをレントゲン撮影したみたいに透明にして、階段を上っていく涼介の姿を想像してみる。
想像上の涼介が五階に差し掛かる前にボンとタカが到着して、「涼介は?」と聞いた。
「こん中だ」
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