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Web会議の功罪

コロナ時代を経てすっかり定着した、リモートワークスタイル。そして、同時に当たり前となった、Web会議で仕事を進めるビジネスの現場。

確かに、仕事の効率性やWork Life Balanceの観点から、多くのビジネスパーソン、特に、エンジニアやカスタマーサクセスや、バックオフィスの法務部門や経理部門など、場所を選ばず業務にあたれるような職種では受け入れられています。

一方で、営業やビジネス開発などの職種の世界では、賛否が分かれています。コロナが流行して、ほとんどの企業が在宅を強いられるようになった頃から、”共感が生まれない”、”難しい交渉ができなくなった”、”取引先やパートナー企業との関係が浅くなった”、という声が増えました。

GenZeeは、古い世代であることと、また心理戦を多用するビジネス開発という仕事に長年従事していたため、(お相手が許す限りですが)初回や交渉ピーク時のような重要な商談や、重要な社内ミーティングの際は、なるべく対面のコミュニケーションを設定するよう心掛けました。経験的に、その方が相手の懐に入れる、仲良くなれる(共感が得られる)、その結果成果が高くなる、と感じていたからです。

少し古いのですが、22年の夏に出版された書籍で、「オンライン脳」という本があります。東北大学医学研究所の川島隆太所長の、実験に基づいた論文的な本です。その超要約ポイントを挙げると、

  • コミュニケーションには、人と人が直に顔を合わせて会話する「対面コミュニケーション」 と、直に顔を合わせることなく会話する「オンラインコミュニケーション」がある。2つのコミュニケーションにおける「脳の活動」の違いを実験で調べたところ、対面の会話では、参加者の間で脳の活動がお互いにシンクロする”脳の同期”が観察された。一方、オンラインの会話では、脳の同期は生じなかった。

  • 脳の活動が同期することは「共感が生まれ、協調や協力ができること」を意味する。言い換えれば、脳の同期が起こらないオンラインコミュニケーションでは、脳は特に活動せず、まともなコミュニケーションになっていないということが言える。

  • オンラインコミュニケーションが共感や協調に結びつかない原因は、主に次の2つ。

    • コミュニケーションの基本である「相手の目を見る」ことがうまくできない。(画面の相手の目の位置と話手側のカメラの位置が一致しないため)

    • 脳にとって、オンラインの動画は滑らかではなく、音声も映像と微妙にずれているため、不自然なものと感じる。

GenZeeは、この本を読んで、とても納得できました。確かに、Zoom会議での最も大きな問題は、目を合わせられないこと。そして、首から上しか見えていないため、胸から下も含めた、体全体から発せられるメッセージを読み取れません。その結果、正しく意図が伝わらないこともあります。

以前の記事で紹介したような、心理学をフル活用した交渉術も、あまり役に立たなくなってしまいます。

逆な見方をすると、オンラインでのコミュニケーションでは、対面恐怖症の人、交渉されるのが苦手な人、詐欺師、何かを断る時、都合が悪いことは聞きたくない時、などの人やケースには向いているのではと思います。

しかし、いつまでもこのような環境が続くものではありません。徐々に世の中は正常化していくことでしょう。対面のコミュニケーションをいつまでも避けていたら、対人能力、交渉力、共感力、などが次第に弱まっていき、ビジネスパーソンとしての基本スキルが欠如してしまいます。

街を歩いている人々を観察すると、特にビジネス街では、ようやくマスクをしていない人の方が増えてきて、表情を読み取れるような世の中にはなってきました。しかし、都市部のオフィスの空室率が高いままであるとか、広いオフィスを構えている企業なのに、出社している社員は半数以下であるとか、という話を見聞きします。コロナを機に、すっかりリモートワーク、ウェブ会議による商談の進め方が浸透してしまったようです。

効率だけを追い求めているうちに、コミュニケーション力の弱いビジネスパーソンになってしまわないためにも、徐々にオフィスワーク、顧客訪問を増やしていくことをお勧めします。

単純な作業や一方向的な会議、形式的な会議はリモートワーク、会議を活用して効率的に作業を行い、重要な交渉のテーブルや会議や話し合いは、対面のコミュニケーションをして、共感力、協調性を高める習慣を続けましょう。


以上、お読みいただき、ありがとうございました。
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