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裏世界ピクニックにドハマりした話

ドーモ。マーズです。

2カ月も放置していたnoteを恥ずかしげもなく再開するぞ。最初の方に書いたとおり、雑記の類は苦手なので、書くことがないときは何もない。

この前書いた記事(https://note.com/rotten_marz_3rd/n/nc0474319545d)で、「裏世界ピクニック」漫画版の感想を書いた。その時、「原作に手を出すかどうか迷っている。でも多分買っちゃうと思う」と言ったのだが、やっぱり買っちゃった。しかも電子と物理両方(初めてのことである)。

「裏世界ピクニック」の原作は小説だ(ハヤカワ文庫)。1巻だけ買って、読み終えたら我慢できず、その場で電子で2巻を買った(夜の10時ごろ)。あとはそのまま止まらずに、夜のうちに全巻読んでしまった。しかもその翌日から3日で読み返してしまった。こんなに夢中になったのは多分10年ぐらいぶりである。ちなみに前回は茅田砂胡『デルフィニア戦記』(C☆NOVELS、中央公論社)だ。以下、夜通し読むほどドハマりした原作小説版「裏世界ピクニック」の感想をだらだら書き綴っていこう。例のごとくネタバレあり。

まず原作を買うきっかけとなったのが、ニコ動で百合作品布教動画シリーズの裏世界ピクニック回を見たことだ。漫画版では現在(漫画版4巻まで)原作2巻のはじめあたりまでしか出ていないのだが、その動画で言及されていた先の展開で興味が出たので買ってみた。

感想を書くときは書きたいことから書くのがよい。というわけで一番刺さったところを言うと、ずばり空魚と鳥子の関係性の進展、すなわち百合展開だ。これはもうマジで漫画版より先を読んで本当に良かったなと思う。というのも、漫画版4巻までは、まだ空魚→→→←鳥子という感じの感情模様だったが、その後がマジで尊い感じでよかった。しかしその後の展開を知ってから改めて読むと、原作1巻あたりで空魚が鳥子に抱く感情もまた良いものだった。特にファイル4「時間、空間、おっさん」で、鳥子が一人で裏世界に探索に行ってしまい、小桜と二人で突発的に裏世界に放り込まれたときの、空魚の独白。

 ――私は弱くなった。
 鳥子と出逢ってまだほんの少ししか経ってないのに、私は鳥子がいないとだめになってしまっていた。
 私に少しだけ境遇は似てるけど、ほかは全然似ていないあの女。
 私にないものをいっぱい持ってるくせに、私より何かが足りない女。
 綺麗で、性格がよくて、強くて、私とは全然違うタイプなのに、なぜか馬が合うあの女。
 澄ました顔で無神経なことを言う、私のことを何一つわかっていない、あの女。
 そんな女が私の人生に突然現れて、引っかき回して、勝手にいなくなったのだ。(物理板 p. 277)

それまでは天涯孤独で友達もなく未来の展望もない、何一つ持っていないからこそ無敵で、女一人で夜の廃墟を平気で探検できたような空魚が、鳥子という大事なものを得てしまったが故に弱くなった。それは人として必要な弱さであり、より地に足が近づいたことを意味している。そうでなかったら、現世とのつながりのない空魚は、後に小桜が言ったように、いずれ裏世界に消えていただろう。「引っかき回して」のあたりにめちゃくちゃ感情が出ているし、よく読むとやたら褒めているのもポイントが高い。空魚はかなり面食いの気があり、大体いつも鳥子に見惚れてるし、大体いつも鳥子の外見を褒めている。女の見た目に惚れる女いいよね。

この時点では、鳥子は冴月のために単身で裏世界に飛び込むくらいほぼ冴月のことしか考えていないが、それでもファイル2「八尺様サバイバル」で八尺様に釣られない程度には空魚のことも気にしているのである。空魚には鳥子しかいなかったので完全に騙されていた。「一人にしないで! いっちゃやだよ……!」とか最高ですよね。最高です。

そんな空魚からの執着過多な感じの二人の関係は、鳥子から空魚に抱く想いがどんどん深まっていく。この関係の深まり方が本当にめちゃくちゃ良くて、互いに助け合って危機を乗り越える度に仲良くなり、だんだん肉体的接触も増えてくる。ここポイント。いや私が好きだからというだけではなく(好きだけど)。というのも、原作3巻のラストで大きな転換点があり、4巻では鳥子が空魚に恋愛感情を抱き、それを言動に出し始めるのだ。鳥子からめちゃくちゃ好き好きオーラが出てくる。良さ。

しかしこの作品の百合はファンタジーではなく現実的なので、鳥子に対してどう応えるべきかわからず、空魚は戸惑う。そもそも人間関係自体に慣れていないところにこんな難題をぶつけられたら当然である。一方の鳥子は鳥子で距離感わからないウーマンなので、やり方がダメダメだし、態度でバレバレだし(しかし空魚は気付かない)、温泉で空魚の裸ガン見するし。「おっぱいかわいいね……空魚……」はないだろお前。そういうとこだぞお前。

そんな感じの前途多難な二人だが、4巻の最後の方ではさすがの空魚も鳥子の態度の意味に気付くし、成り行きとはいえ鳥子からキスするしで、次巻では関係が進展しそうな気配がする。しかしこの二人なのでどうせ順調にはいかないんだろうな。今から楽しみだ。

鳥子が空魚にキスしたときのことなんだけど、空魚が「赤い人」によって見せられた幻覚の中で、母親が死なず、父親と祖母もカルトにハマらなかった世界線の家庭を見せられるのだが、「赤い人」を鳥子が斧でメッタメタにした後、未だに恐怖冷めやらぬ空魚が強い衝撃で自分を落ち着かせるため、鳥子に思いっきり殴れとお願いするわけですね。そこで鳥子は殴らずにキスするわけだけど、空魚は

「私でよかった」
 この(傍点)私でよかった。
 お母さんが死んで、しばらくさんざんな目に遭ったけど、鳥子に出会うことができたというだけで、もう人生満点すぎる。
 本当に……鳥子のいない私の人生なんて、もう考えられない。

ってなるんですね。嗚呼……。この作品に出会えてよかった。(しかしこのキスのとき鳥子は舌入れてくるのだ。そういうとこだぞお前)

こんな感じでリアル寄りの百合が最高なので最高。これに関しては作者の宮澤伊織氏がインタビューで「これが俺の考える百合だ、読んでくれ」「情念を高めることで、強度の高い百合を書きたかったんです。強くなりたい」と語っているので期待してよい(「実話怪談で、現代女子版の 『ストーカー』を書きたかった。『裏世界ピクニック』宮澤伊織インタビュー完全版」より引用)。

原作小説版を読んだ結果、漫画版とは違う空魚視点の語りがとても良いと思った。空魚は実話怪談オタクの大学生なので、言い回しがtwitterめいているし、心情を会話文体で表してくれるのですっと入ってくる。そして空魚視点では鳥子の外見描写が事あるごとに入ってくるので、空魚は本当に鳥子(の顔)が好きなんだなあということが伝わってくる。あんまり口には出さないので、原作でしか味わえない尊みがある。一方で漫画版は絵がめっちゃかわいいので目が潤う。

実は「裏世界ピクニック」は百合のみではなくSFホラーでもあるのだが、ホラーのモチーフはネットの実話怪談である。私は一時期2chのオカルト板に入り浸っていたので、有名どころの怪談は知っている。一部はオカルト板住民でなくてもインターネットオタクなら大抵知っているものもある。つまり「これ○○じゃん!」となって楽しいし、先の展開を想像して恐くなって良い。特に2巻の最後の話なんか、「寄せ木細工のようにパーツが噛み合った立方体」の時点で、わかる人は「うわーーーーっ!!!!」ってなりますよね。また、これら怪談はソースが実在しているわけだが、巻末にはそれぞれの引用元が言及されているのも好感が持てるところだ。

実際に出てくる怪異は実話怪談のそれそのものではないと言うべきか、「裏世界」と呼ばれる異界がそのような形をとっているのだが、その理由についても作中で考察が進む点がSFだ。しかし「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ではないが、普通恐怖の対象は正体がわかると怖くなくなるのに対し、「裏世界ピクニック」では分析は進んでも結局怖いままであり、そこのバランスのとり方はすごい。ホラーと百合が交互に襲ってきて読者は死ぬ。願わくばこの怖さがスポイルされないまま最後までいって欲しい。

ところでややどうでもいいことではあるが、ファイル7「猫の忍者に襲われる」では、猫の忍者がアフリカ投げナイフめいた邪悪なスリケンを使うし、カラテモンスターが出てくるし、忍殺オマージュがある。

「裏世界ピクニック」はホラーではあるが、普通の怪談とは違って、人間側が銃器で武装しており、躊躇なくぶっ放す。怪談と現代兵器というちぐはぐな組み合わせにおかしみがある。とくに2巻のファイル5「きさらぎ駅米軍救出作戦」ではとんでもないモンスターマシンが出てきて、地雷除去用アームでドガーンバリバリーってやる。楽しい。男の子ってこういうのが好きなんでしょ? いやわからんが。女性に銃は似合う。なぜこんなに似合うのか。あと抜きんでて小柄な小桜さん(合法ロリ)がでかいショットガン持ってるのが王道で好き。小さい女の子にはでかい武器を持たせるべき。

小桜さんといえば小桜さんがめちゃくちゃかわいいんですよね。背が小さい。部屋着がだらしない。武器がでかい。口が悪い。怒りっぽい。怖がり。頭がいい。撫でると大人しくなる。最高か? 実はVtuberやってるという点もギャップがあってよい(漫画版にしか載ってない)。キャラ単体としては小桜さんが一番好きです。これだけは声を大にして言いたい。

小桜さんかわいい!

感想をまとめると、百合が尊く、ホラーとしての質も高く、ドンパチもある最高の作品です。アニメ化も決まっています。波が来ている作品です。「裏世界ピクニック」をよろしくお願いします。

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