好きと嫌いは紙一重

『うわぁ、嫌いなタイプだ。ほんと無理。』


これが私が感じた彼の第一印象だ。

この時は思いもしなかった。

この出会いによって私が救われることになるとは。



数年前の4月、高校3年生になった私は、出席日数を稼ぐためだけに学校に登校した。

この日は始業式だった。

日差しがうざく感じるくらい天気のいい日だった。


当時の私は、いわゆる不登校で学校にほとんど通ってなかった。

そのため、友達がおらず、みんながクラス替えやらで楽しそうにはしゃいでる中、ひとり気が乗らないでいた。


そんな中、どこからか「イケメンの新任の先生がいる」という話が聞こえた。


正直、どうでもよかった。

そんなことより、はやくこの空間から抜け出したい。

当たり前のように友達がいて、楽しそうに話している人がほとんどなこの空間に存在することが苦痛で仕方なかった。

先生方は穏やかで優しい人ばっかりだったから、担任は誰でもよかった。

強いて言うなら、最後だから無難な先生が担任が良いって思った。

何事もなく卒業したい。

思い出なんてできなくていいし、友達も望まないから、

もう何も起きないでほしかった

始業式が始まり、担任が発表された。


まさかの例のイケメン先生だった。


周りにいる子たちが喜んでいる中
私だけが絶望していた。

そもそも好みの顔じゃない。

イケメンであることには間違いないが、

顔だけで言ったら、中学のときの坂口健太郎系イケメンの先生の方が私の好みに近かった。

対して、担任になった先生はジャニーズ系のイケメンで犬顔である。

タイプじゃない。

個人的に人を顔だけで判断するのはなんか嫌だったので、総合的な判定は自己紹介を聞いてからにすることにした。

担任が自己紹介をした。

内容は覚えてない。


うわぁ、大学生気分抜けてないなぁ。だっる

こういうタイプ嫌いだな

人間関係を上手く築けない”こちら側”の気持ちなんてわからないんだろうな。

この人とは絶対分かり合えないっていうのが感想だった。

家に帰って、ひたすら母親に愚痴った。


始業式から数週間が経った頃、
どうしても参加しなければいけない行事があったので参加した。

現地集合だったのだが、集合時間より早く着いたのでぼーっとしてた。

すると、

突然、話しかけられた。

誰かわからなくて脳がフリーズした

どうやら担任だった。

話した内容は全く覚えていないが、

この人と話すの楽しいかも

こんな風に思ったのは、いつぶりだろう。

あるときから家族以外の人との会話で心の底から楽しいと感じられなくなっていた。

自分が発言することによって、相手から嫌われるのが怖くて、

気づいたら、ごく普通の自然な会話ができなくなっていた。

このときから私の先生に対する印象がいい方向に変わっていった。


それから1ヶ月経った頃には個人面談があり、

そこで気づいた

私、先生と話すときは素の自分で話してる。

それどころか、この人の前だと猫を被れない。

可愛くない本当の自分が出てきちゃう

先生が私に話しかけにくると「うわっ」って漏らしちゃったり、

「体育祭まじで嫌なんで、出たくないです」って反抗したり、

他にも色々あったと思うが忘れてしまった。

まさか自分がここまで心を許せる相手がいるとは。

人と話すことができなかった私。

いちばん酷かったとき、

「はい」か「いいえ」で答えられることしか話せなくて、

答えが無いもの

例えば、好きなことはなに?など聞かれると、
どう返していいかわからずに黙ってしまった。

日常生活に支障をきたしていたので、人と話す練習をした。

同級生、親友、別室登校の子

まったく上手くいかなかった。

学校の相談員、スクールカウンセラー、臨床心理士

専門家を相手にしても駄目だった。

流石にこのときほど酷くは無かったが、

誰かと話すときは常に細心の注意を払って、

当たり障りのない会話を心掛けていた。

おかげで特に問題は無かったが、疲れた。

もう一生このままなら誰とも関わりたくないと思ってた。

なのに、なんでこの人はさも簡単に、

私の心の壁を壊した

何年かけても何回挑戦しても

誰も壊せなかったのに。


球技大会

何故か教師陣も参加していたのだが、

無意識に担任を目で追っていた

頭の中で思い描いていた青春とは違ったけど、

すっごく幸せだった。

ただ、幸せだと感じれば感じるほど、終わりがあることを意識してしまい苦しかった。

だから、ずっと自分の気持ちに気づかないふりをした。

自覚はあった。

先生のことが、、、



そして迎えた最後の日

この日も晴れで、空がとても透き通っていた記憶がある。

いまいち、卒業に対して前向きな気持ちでいられない私に代わって、

空が私の卒業を祝福してくれるようで嬉しかった。

今日で最後だから手紙を書いた。

本人を前にしたら素直になれないだろうから。

遠回しに自分の気持ちを表現したのだが、
どこか違和感のある文章になってしまった。

本当に伝えたかった感謝の言葉を入れなかったことを今でも少しだけ後悔している。

ストレートに表現することも考えたが、
困らせたくなかったからやめた。

式が終わり、手紙を渡して帰った。

最後まで、はっきりと気持ちを伝えることはしなかったものの、

おそらく、私の気持ちに気付いてるだろう。

私、わかりやすいし。


あれから数年経った現在。

私は最高の友人に恵まれ、

満たされた日々を送っている

ありのままの自分を受け入れてくれる友達。

先生と出会って変わった私だからこそ友達になれたんだと思う。

私を救ってくれた大切な人。

卒業してから今日までずっと忘れたことがない。

きっとこれからも忘れることはないんだろうな。


もし会うことがあったら、伝えられなかった感謝の気持ちを伝えるのはもちろん、たくさん話したい。

高校の時は自分の話ばかりしてたから、先生の話が聞きたい。

なんてね。


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