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瞑想よりポテチ

バリッ、シャクシャクシャク
バリッ、バリッ、シャクシャクシャクシャク
バリッ、バリッ、バリッ、シャクシャクシャクシャクシャク

口の中の音とリズム、一度手を伸ばすと、途中でやめることができない。
私は人生の中でどれだけこの音を立ててるだろう。

たまに1つ舌の上に置いて、上顎に押し付けてプレスするとじんわりと味わいある油が染み出してくる。
袋の中にめぼしい存在が無くなると、さらに凝縮された旨味にまみれまくったその粉をかき集め、指先にみっちりくっつけてぺろりと舐める。
そしてひと息。くーっ、旨すぎる。
この味のおしゃぶりがあったなら、私は恥ずかしげもなく真っ先に買うに違いない。

たいらげた袋を捨てようとするとき、いつも目に止まる袋裏の数字。
477 kcal。
軽く1食分のカロリーを突破する数字である。
ここでとてつもない「やっちまった感」に苛まれることになるのだ。毎回。
しかも夜中に無性に食べたくなるものだから、さらに困りものである。

医者は言う「悪魔の食べ物」と。過剰糖質、老化早める悪性物質の宝庫と。


むかしむかし、
「100円でポテトチップは買えますが、ポテトチップで100円は買えません。悪しからず。」
というCMがあった。
そのCMを見て「食べた〜い」とねだって母親に買ってもらって食べたはじめてのポテトチップは衝撃的なおいしさだった。

それからというもの、自分のお小遣いで買うお菓子はほとんどポテチだった。
土曜日の昼に学校から帰って、吉本新喜劇をテレビで見て大笑いしながらポテチを食べる
のが何よりも楽しいひとときだった。

ゲラゲラ笑いながら食べるもんだから、ポテチは口からポロポロ落ちるわ、
机の上のあちこちに砕けた粉は撒き散らすわ。
油と塩にまみれた親指と人差し指をTシャツのお腹あたりになすりつけるわ。
行儀の悪さを束の間楽しめるのもポテチを食べてる時だった。

向こうがかろうじて透けて見えない、自分では絶対切れない絶妙な薄さ。
袋の中で手のひらくらい大きいの小さく砕けて青海苔粉みたくなったの。
楕円形、まんまる、ガタガタの縁、ぐにゃぐにゃ波打ち、真ん中が膨れてたり
いろんなものが袋の中でひしめきあっている。
まさに多様性である。

ほかのお菓子でこんだけ不揃いなものは見たことがない。
これだけ大きさが違うと不揃い品でディスカウント扱いだが
ポテチはどれひとつとして揃っていないことが規格なのである。
不完全を完全としている芋の個性を最大限に尊重する懐の深さ。

今日も袋を開ける。いつものオレンジ色。

バリッ、シャクシャクシャク
バリッ、バリッ、シャクシャクシャクシャク
バリッ、バリッ、バリッ、シャクシャクシャクシャクシャク

上と下の奥歯の間で生まれる軽やかな咀嚼音
ひとつ噛むたびに起きる小さなクラッシュ。
それと同時に脳を駆け抜ける爽快感。
そして今日の嫌な出来事と思いも音と共に消えていく。

ポテチは、いつもたくさん笑っていた遠い昔の幸せな思い出の一つ。
そして嫌な思いを爽快感に変えてくれる私のマインドフルネス。

瞑想よりもポテチ。おいしいなあ。今日も幸せ。


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