イサム_ノグチエッセイ_Fotor

自然を自然の眼を通して見る〜『イサム・ノグチ エッセイ』

◆イサム・ノグチ著『イサム・ノグチ エッセイ』(北代美和子訳)
出版社:みすず書房
発売時期:2018年4月

イサム・ノグチはアメリカ人を母、日本人を父としてロサンジェルスに生まれ、彫刻家として活躍しました。いや活躍の場は彫刻にとどまりません。舞台芸術、陶芸、家具デザイン、庭園設計、空間設計など幅広いジャンルで創作活動を展開したことで知られています。

私がよく足を運ぶ大阪・国立国際美術館でもノグチの《黒い太陽》《雨の山》などが所蔵されていて、ノグチの作品には折りに触れて接してきましたが、彼の人となりや芸術に対する考え方をよく知悉しているわけではありませんでした。
本書はノグチのエッセイとインタビューから構成されています。訳者によれば「優れた文章を書く名文家」でもあったらしい。

冒頭に掲げられた《グッゲンハイム奨学金申請書》と題された一文にノグチの彫刻観ひいては芸術観が簡潔に表明されているように思われます。

 私は自然を自然の眼を通して見たい、そして特別な崇拝の対象としての人間を無視したい。これまでに考えられたこともない美の高みがあるにちがいなく、この態度の反転によって彫刻はその高みにまでもちあげられるだろう。(p8)

こうした考えが基本にあったからこそ庭園や空間設計の分野にまで仕事の場を広げていったのでしょうか。

ノグチがデザインした照明器具 “AKARI” は今でも日本で販売されていますが、岐阜で提灯作りを見学したことなど、その裏話を披瀝している随想も興味深く読みました。いわく「半透明で折りたたみ可能な光の彫刻!」。

また、庭園とランドスケープに関する考察や舞踏家マーサ・グレアムとのコラボレーションに関する文章など、ノグチの旺盛な知的好奇心を感じさせて興味は尽きません。

ただし本書の訳文はいささか生硬で日本語としてはこなれていない印象が残りました。「名文」の醍醐味を十全に味わうにはやはり原文に当たるべきなのでしょう。私にそれだけの英語読解能力があればの話ですが……。 

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