僕らの社会主義

ディーセントな暮らし、フェアな社会〜『僕らの社会主義』

◆國分功一郎、山崎亮著『僕らの社会主義』
出版社:筑摩書房
発売時期:2017年7月

気鋭の哲学者とコミュニティデザインを生業としている二人による異色の対談集です。ジョン・ラスキン、ウィリアム・モリス、ロバート・オウエンらの名前で知られるイギリスの初期社会主義がメインテーマ。

「今さら社会主義かよ」という外野からのツッコミにあらかじめ答えるかのように、山崎は「社会主義をスパイスのように」取り扱うことを明言しています。社会主義が提示してきた理念や構想を真っ向から吟味する、という姿勢は最初から斥けられているのです。

当然、話される内容も初期社会主義的な考え方を取っ掛かりとして、そこから地方創生や社会福祉、民主主義活性化のための方策などなど、多方面に展開していきます。

二人が初期社会主義から導出する標語としては「誰しもがディーセントな暮らしのできるフェアな社会」という英国労働党のジェレミー・コービンの言葉に集約されるでしょうか。國分がその言葉を引用しつつ、社会主義が人々の心に強く訴えかけていた時代、そこにどのような魅力があったのか、ディーセンシーやフェアネスといった言葉で表現できるかもしれない、と指摘しているのです。

それにしても二人が現代的に解釈し直そうと試みる「社会主義」にはさほどの魅力を感じることはできませんでした。それは資本主義の枠組を前提しつつ、その綻びを補正していく社民主義と似たようなものといえば失礼になるでしょうか。

ただし「社会主義」とは直接関係のない部分では随所に示唆的な発言がでてきます。たとえば國分はイギリスの小学校では「明確なかたちで自分たちの権利について教わる」ことを指摘しています。
「自分たちには権利があり、大事にされている。そう思えば当然、他の人のことを大事にしようと思いますよね」。

山崎が実践しているという公共建築をめぐるワークショップなども今風の用語でいえば熟議民主主義の試みともいえそうで興味深く読みました。それだけにそのあたりの話はもう少し具体的に聞いてみたかったところです。

いずれにせよ「社会主義」というテーマに拘泥しなければ、二人の多様な対話のなかから個々の読者の関心にそくした学びのヒントを引き出すことができるでしょう。対談集だけに國分の話題作『中動態の世界』に比べれば格段に読みやすい本です。

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