立憲君主制の現在_Fotor

民主主義の欠点を補完する制度!?〜『立憲君主制の現在』

◆君塚直隆著『立憲君主制の現在 日本人は「象徴天皇」を維持できるか』
出版社:新潮社
発売時期:2018年2月

21世紀の世界では「時代遅れ」とみなされることの多い君主制。それでも日本や英国をはじめ、北欧、ベネルクス諸国など世界43ヵ国で維持されています。君主制はかつての絶対君主制から立憲君主制にバージョンアップすることによって今日まで生き延びてきました。本書ではその歴史を検証しています。その作業は日本の象徴天皇制を再考するうえで多くの示唆を与えてくれるに違いありません。

英国の君主制は日本の象徴天皇制のモデルとなりました。憲法学者の高柳賢三は、戦後の日本国憲法で天皇を「象徴」と表現する際に、GHQの高官たちが念頭に置いたのが、「英国王は英コモンウェルズの成員の自由な結合の象徴(Symbol of the free association of the members of the British Commonwealth of Nations)」であると規定した、1931年の「ウェストミンスタ憲章」の前文であったと指摘しています。

英国における立憲君主制は時代や状況に柔軟に対応し、その時々の国民の要求にも応えてきました。そのことで国民の支持を得てきたといえます。その意味においても日本の天皇制の始まりから今日までつねに良きモデルとなってきました。

本書では、英国のほか、デンマーク・スウェーデン・ノルウェーの北欧諸国、オランダ・ベルギー・ルクセンブルクのベネルクス三国、さらにはタイやブルネイ、中東諸国における君主制の歴史を概観しています。憲法学者のカール・レーヴェンシュタインや思想家のウォルター・バジョットらの著作を参照した考察は、欧州の君主制理解をベースにしたものといえるでしょう。

北欧では、質実剛健な君主たちが歴史を彩ってきました。女性参政権や多党制の実現など「最先端をいく君主制」を確立してきた歴史からは日本にとっても学ぶ点が多いかもしれません。

ベネルクス三国では、さまざまな歴史的背景もあって政党政治の調整役として君主が実質的な役割を果たしてきました。そして注目すべきは「生前退位」が慣例化していることです。

アジアに残る君主制は、欧州のそれに比べるとかなり見劣りします。とりわけ中東の湾岸諸国における君主制は「王朝君主制」と呼ばれる寡頭政で、石油輸出による潤沢な予算があってこそ成立するもの。政体としてはかなり危ういものと感じます。

海外の君主制を振り返った後に、日本の象徴天皇制が検討に付されます。戦後70年以上に及ぶ象徴天皇制は「国事行為」「公的行為」「私的行為」を三本柱として「国民生活に安定をもたらしてきた」と総括しているのですが、もっぱら天皇制のポジティブな面にのみ光をあてた記述には違和感も残ります。「日本が、太平洋戦争の敗戦という未曾有の困難を乗り越えて、立憲君主制の下で安定した繁栄を遂げてこられたのは、昭和天皇の『カリスマ性』に拠るところが大きかった」というのは本当でしょうか。

たとえば、憲法施行直後、昭和天皇は米国に沖縄を基地として使用するようメッセージを発したことはよく知られています。そのメッセージ内容もひどいものであるうえに、明らかに「国事行為」の矩をこえた政治行為でありました。沖縄の半永久的な軍事基地化の決定的な契機になったともいえるわけで、そうした史実をまったく無視して、天皇の「カリスマ性」を強調し君主制日本の「安定した繁栄」を寿ぐのはいくらなんでも研究者としては偏向した態度ではないでしょうか。

ことほどさように、全体をとおして君主制に対する著者のシンパシーが前面に出た記述で、君主制擁護の演説ならともかくも、一般読者に向けた政治学の書物としてはいささかバランスを欠いているとの読後感を拭えませんでした。

この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?