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翻訳者とは幽霊のようなもの!?〜『8歳から80歳までの世界文学入門』

◆沼野充義編著『8歳から80歳までの世界文学入門』
出版社:光文社
発売時期:2016年8月

ロシア・ポーランド文学の研究者・沼野充義がホスト役をつとめる「対話で学ぶ〈世界文学〉連続講義」シリーズの第4弾。『世界は文学でできている』『やっぱり世界は文学でできている』『それでも世界は文学でできている』につづくものです。

今回のゲストは、池澤夏樹、小川洋子、青山南、岸本佐知子、マイケル・エメリックの5人。

私にはいささか退屈な対話がつづいたなかで、最後に収められているマイケル・エメリックの発言が私的にはもっとも含蓄の感じられる内容でした。エメリックは吉本ばななや川上弘美など日本の現代文学の翻訳や源氏物語の研究で知られるジャパノロジストです。

米国の大学では「日本文学を専攻するのなら日本語だけではダメ」という認識が広まっていることをエメリックは指摘します。古代中国語や現代中国語、韓国語なども同時に学ぶことが珍しくないらしい。そのような研究者は私たちが予想する以上に複眼的な視点を獲得することでしょう。

そうした認識にも関連することかもしれませんが、「翻訳者というのは二つの世界に属しながら、どちらにも完全には属していない幽霊のようなもの」とエメリックは言います。それは「異文化間の架け橋」というありふれた認識とは一線を画します。
ところが、沼野は「足がついていないとちょっと困る」という陳腐な自説に拘泥してしまって、それ以上議論を深めることなく別の話題にうつってしまったのは残念な気がしました。

マイケル・エメリックには日本語の著作は少ないようですが、何はともあれ彼の存在に関心をもつ契機を与えてくれただけでも本書を手にとった甲斐があったというべきなのでしょう。

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