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自由に生きたルネサンス期の天才〜『はじめて読むレオナルド・ダ・ヴィンチ』

◆石崎洋司著『はじめて読むレオナルド・ダ・ヴィンチ』
出版社:講談社
発売時期:2023年10月

ルネサンス期を代表する芸術家、レオナルド・ダ・ヴィンチ。『モナリザ』や『最後の晩餐』などの絵画が有名ですが、業績はそれだけにとどまりません。音楽、建築、物理学、幾何学、解剖学、植物学、動物学、博物学、軍事技術などなど、さまざまな分野に通じた「万能の天才」でした。その素顔にせまる評伝です。

著者は児童文学作家として活動してきただけあって平易な文章でレオナルドの生涯と作品を振り返っていきます。

レオナルドは、15世紀イタリア・フィレンツェ郊外のヴィンチ村に生まれました。代々公証人を務めてきた家系ですが、公証人になるための勉強よりも、生き物や自然現象を観察しスケッチすることに熱中していたといいます。メディチ家やローマ教皇の仕事も請け負っていたヴェロッキオの工房に弟子入りし、その才能を開花させました。

レオナルドが独自に磨きあげた技法は二つありました。空気遠近法とスフマートです。前者はブルネルスキがすでに開発していましたが、大きさだけでなく彩度を変えることで微妙な遠近感を表現できるようになりました。後者はイタリア語の「煙」に由来する言葉で、人や物の輪郭を描かず、色をぼかして表現する技法をいいます。

また、レオナルドの『風景素描』はヨーロッパ初の風景画ともいわれています。それまでのヨーロッパの絵画では、風景はあくまで背景にすぎなかったのですが、レオナルドは自然の風景だけを絵にしたのです。

さらにレオナルドは人間の形をしたヒューマノイドのスケッチを残しています。動物型ロボットは実際に完成させていました。彼は「人類史上初のロボットを設計、制作に取り組ん」だ人物でもあったのです。

その一方、「仕事をはじめても完成できない男」との悪しき評判もあったらしい。ヴァザーリの伝記には、そんな悪口がフィレンツェに流れていたことが記されています。実際レオナルドが独立した工房を持ってから、発注を受けてもきちんと完成させた作品は少なかった。それは「完璧を求めすぎたから」との解釈がレオナルドに最もふさわしいものに思われます。

著者はレオナルドがあらゆる分野で天才ぶりを発揮したことについて「レオナルドは自分に正直な人だったから」と述べています。現代社会ではマルチな才能があっても、それぞれの分野での縄張り意識が過剰になり、一人の人間が垣根を超えて仕事を続けることは難しいかもしれません。レオナルドは生まれた時代にも恵まれたともいえそうですが、時に悪評をも浴びながらも、自らの思うがまま信ずるがままに活動しようという気持ちが誰よりも旺盛だったのでしょう。

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