人形の戯れ言
私は人形です 生まれは老舗の人形店
一週間前に生まれたばかりよ
遠い異国の地から来た旦那様が
お嬢様への贈り物として
私を買って下さったのです
お洋服は肌ざわりの良いヴィロードの生地で仕立てた
ドレスを着ているわ
この人形店の職人さんは腕が良くて評判なの
日本へは何日か いえ何十日かかけてやっと着いたの
なにせ船旅だったから
えっ?船酔いはしなかったわ 人形ですもの
私がお披露目されたのは
お嬢様の誕生日の日よ
パーティーの中盤 一番盛り上がっている時ね
『きれい』 『可愛い』 『美しい』
私にとっては聞き慣れた言葉だったけど
なんど聞いても嬉しいものね
お嬢様は私をとても可愛がって下さったわ
シルク生地のドレスを何着かとそれに合わせて
リボンも仕立ててくれたから
毎日着替えさせてもらったわ
お嬢様は私をどこへでも連れて行った
お勉強をする時も お稽古ごとの時も お食事の時もよ
でも私は見てるだけ ただ 見てるの
ずっと 繰り返し 繰り返し
最近ね 思うのよ 人形って退屈
座ってるだけだもの
すごく贅沢な悩みよね 人形なのに
わかってる わかってはいるんだけど
お嬢様を妬んでも 仕方がないわね
こんなこと思っているからかしら
お嬢様は私に飽きてきたみたい
今は新しいテディベアに夢中だから
バチが当たったのね きっと
ある日私はお屋敷のメイドに
大きな蔵へ連れて行かれたわ
そこにいた着物を着たこの国のお人形
名前は確かユキコ
そのユキコが疲れた顔を私に向けて言ったの
「あなたも終わりね」って
後日 その意味がわかったわ
冬の特別に寒い日 静かに雪も降っていた
私とユキコと あとテディが何体かと
それから陶器や壺や掛け軸というものが たくさん
車に乗せられて 古い佇まいのお店に
連れて行かれたわ
アンティークのものばかりあって
そこの店主に拡大鏡でジロジロ見られて
ホントに怖くて嫌だった
私は棚の一番上に置かれたわ
ユキコは2段目の棚よ
テディはどこだったかしら 知らない
あれから何十年か過ぎたけれど
私はまだ ここにいる
ユキコは老夫婦に貰われて行った
元気にしてるかしら
時々 思い出すのよ
私が生まれた人形店のこと
ああ もう一度だけ帰りたいな 仏蘭西に
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