コーヒーの時間 2

俺は、のぼせそうになりながらも、風呂から上がり、部屋に戻った。――
テーブルには、綺麗な料理が、並んでいた。
「うわー!凄いね。美味しそう!」
俺は、パチパチと手を叩き、はしゃいだ。――
「さー。宴会の始まりだね。……お酒抜いておく?」
「まさか-!ビールで乾杯でしょー!」
「ビールで乾杯だね。」
チーズフォンドューが、グツグツと良い匂いを漂わせてきた。
「乾杯-!」 二人でジョッキを軽く合わせた。
程良く切られた、フランスパンに熱々のチーズを、クルクルと二人で絡める。
垂れない様に……慎重に口に運ぶ。
「あ…熱い…美味しい!…ん?何か、違う…?」
普通のチーズフォンドューと、少し違う。
「あ…熱い…日本酒で、やってみた!」
「良いねー。円やかで、美味しい。」
俺は、又、クルクルする。
「良かった。楽しいね。クルクルして。」
「うん。クルクル楽しい!」
彼女は、野菜スティックを、コリコリと、食べていた。――小動物の様な、ほっぺの動きが、可愛い!
テレビでは、――街の様子が写し出されて……
お洒落をした恋人達が、街を行く。――
どんな、お洒落をして、高級フレンチに行く人々よりも……「お揃い」で、クルクルしている、――
俺が、一番の幸せ者だと思う!
「ねぇ、初詣に行く?」
彼女が、訊く。
「行く!…初めてだ!」
「そう?私は、毎年、行く。…一応、着物を持ってきたんだ。」
「えーっ!見たい。見せて!」
「えー。振袖とか、色無地じゃないよ。普段使いの母のお古だよ。」
と、彼女は、風呂敷に包まれた着物を持ってきた。
開くと……可愛いらしい、色取り取りの梅が散りばめられた、彼女らしいアンサンブルの着物だった。
「可愛いねっ!――いいなー。……俺、浴衣しか持って無いや…着物はレンタルだから…今日、買えば良かったなー。……チェッ。」
俺は、是非とも、着物のお揃いで……
初詣に、行きたかった。――少し、すねていた……
そんな、俺を見て…彼女は――
「うーん、……少し、待っててね。」
と、立ち上がり、バックを持って玄関から、出て行った。――
俺は、綺麗なカナッペを、「美味しいなぁー。」
と、何個も頬張りながら、彼女を待った。
暫くして、彼女が風呂敷を持ち、戻ってきた。――
「父の、若い時の着物。――これなら、大丈夫だと思う…着てみる?紺無地で……お揃いだよ。」
俺の顔は、輝いた――飛び跳ね立ち上がった!
「き…着てみるっ!今、着てみる!」
と、彼女に掛け寄った。
「解った、解った。ハハハッ。」
「早くっ!――開けていい?」
「いいよー。後、服を、――脱いで。パンツ一丁になって。ハハハッ。」
「うわーっ!カッコいいっ!直ぐに、脱ぐね。」
俺は、躊躇無く、その場で、パッパッと服を脱ぎ捨てていく…
「はい。じゃあ、――着付けます。」
彼女は、裸の俺に照れる事も無く。――真剣な顔で、着付けに入った。
「うん。やっぱりね!……丈もOK。――手を上げて、後ろを向いて……」
俺は、為すがままに、クルっと、回って……
彼女は、手慣れた手つきで、進めていく。
「はい、前、向いて。――出来上がり!――うん。カッコいいっ!似合うよ。一回、軽くスクワットのカッコ、しておくと、歩きやすいよ。」
「こうかな…?――俺、鏡、見てくるっ!」
走って、玄関に行く。――
「うわー!超カッコいいっ!うわー!」
自画自賛しながら、鏡の前でクルクル回る。
「良かったね。下駄は、浴衣ので、良いよね?」
「ねぇ、茜も着て!」
俺は、早く「お揃い」を見たかった。
「駄目ー。明日のお楽しみね。――はい、脱ぐよ。」
「えー…もう?」
俺は、完全に子供になった。
それこそ…顧客には…いや、彼女以外には、見せられない――見せたくない姿だった……
「明日のお楽しみ!…でしょ?」
「うん。明日のお楽しみだ!」
「しかも、お蕎麦茹でなきゃ……年越しちゃうよ!」
「あっ!大変だ!」
「ねっ。はい、脱いでね。」
又、彼女は、手早く着物を脱がせて、ハンガーに軽く掛け、――急いで、蕎麦を茹でに行った。
俺は、―― 掛けられた着物を見て、彼女の、梅の着物を振り返り…一人、ニヤニヤ笑う…
こんなにも……明日が楽しみなのは、いつぶりだろうか?――
別世界で過ごすお正月は、なんて楽しいんだっ!
一生、この世界で暮らしたい。――なんて、考えてしまう……
「間に合った!」
彼女が、年越し蕎麦を持ってきた。――
「手伝うよ!…早く、早く。」 
と、俺は、立って…二人分のかえしを運ぶ。
12時の3分前だった。――
二人で、手を合わせ……「頂きます。」
程良い堅さに茹でた、喉越しの良い蕎麦をすする。
「年越し蕎麦なんて、久しぶりに、食べたよ。――冷たくて、美味しい!」
「そう。良かった。…クルミダレも、美味しいよ。」
「うん。――コクがあって、美味しいね!」
二人で、一緒にツルツルと食べる。
テレビが、新年を知らせた。――
「明けましておめでとう。今年も宜しくね。」
彼女が、頭を下げ、微笑む。
「明けましておめでとう。今年も宜しく!」
俺も、頭を下げ…――彼女の唇に…キスをした。
「麗……ネギの味だっ!ハハハッ。」 彼女が笑う。
「――ムードねぇー!俺。ハハハッ。」俺も、笑う。
その後、俺は、コーヒーを煎れ。――彼女は、片付けをしていた。
二人で、落ち着いて、コーヒーをすする。
「うん!このチョコレート、美味しい。茜も、食べてみて……はい。あーんして。」
「あーん。――うん。美味しいね。」
又、二人に……優しい時間が流れていた。――

「明日、初詣だから、もう、寝ようか?」
彼女が、言った。
「初詣だから、寝よう!」 又、俺は、反復病だ…
パジャマに着替える。彼女はニワトリの柄の白いパジャマだった。
パジャマまで、彼女らしい!
俺は、勿論。白いパジャマを選んで着た。
「パジャマまで……お揃い君?ハハハッ。」
二人で、洗面所に並び、歯を磨いた。
彼女が、歯ブラシをコップに立てた。――
二本の歯ブラシが、昔からあった様に…寄り添う…
寝室に行き、――俺は訊く…
「右、左?」
「うーん。右!」 彼女は、答える。
二人で、ベッドに潜り込む。
「へー。広いね。」 彼女は、伸びをして言う。
「俺、寝相――悪いから…」と、俺も、伸びをする。
「…怖っ!ハハハッ。」
彼女は、笑った。
「俺、明日が凄い楽しみだ……着物、有難う。」
俺は、お礼を言う。
「良かったねー。――さぁ、寝よう。オヤスミ。」
と、彼女が俺の唇に、キスをした。――
「うん。オヤスミ。」
俺も、彼女の唇に、キスを返した。
広いベッドの中央で、寄り添って……優しい眠りに落ちていく。――幸せに包まれて…――

朝、――俺は、自然に、目が覚めた。
彼女がいない…カチャカチャと、皿の音が聞こえてくる。――彼女の居る音だ……嬉しくなった。
「うーん!」 ベッドで、伸びをしてから、起きた。
「お早う。」 キッチンに立っている彼女に言った。
「あぁ、起きた?お早う。――朝ご飯、作ったけど食べられそうかな?」
彼女が訊く。
「勿論。腹ペコだよ。――朝食は何?運ぶよ!」
彼女の後ろに行き、首に手を回す。
「お正月だからね。新巻鮭と、だし巻き卵、とろろ昆布のお吸い物。――後は、お揃い君のお節も、出して下さい。」
彼女は振り返り…言った。
「おけっ。」 俺は、彼女のほっぺにキスをして……
お節や、出来上がった物を、朝はキッチンテーブルに運んだ。
向かい合い、「頂きます。」 二人で手を合わせた。
「一応、おとそだから、少し…」 
と、――彼女が、お猪口一杯ずつのお酒を準備してあった。
二人で、改めて、
「おめでとうございます。」 お猪口を合わせた。
和食の食卓だ…以前、喫茶店で想像していた事が、今、現実になっている……
幸せな気分で、フワフワで、程良く甘い、だし巻き玉子に舌鼓を打つ。――
「美味しい……幸せを感じるよ。」
しみじみと言う。
「そう。良かった。」 彼女は又、微笑む。
俺は、テーブルで二人、並ぶのもいいが、真っ正面に彼女が見える、キッチンテーブルが好きだった。
彼女研究が、じっくり出来るから。――
「お正月は、――この朝食なの?」
俺は、研究しながらも、訊いた。
「あー。人のお宅は、解らないけど…一応、出世魚の鮭と、喜ぶの昆布とか、言うよね…?」
と、言った。
「へー。じゃあ……これで出世しちゃうかな?俺。」
感心しながら俺は、言った。――
「……これで、出世するなら、世の中、社長だらけだよ!ハハハッ。」
彼女が、愉快そうに笑う。
「そっか、ハハハッ。」 俺も笑った。
ご飯も二人でお替わりして……
「ふぅー。お節は、夜のお楽しみだね。今、食べ切れないよね…お昼は、お雑煮だよ。」
「うん。夜のお楽しみだ。――お雑煮も楽しみ!」
「そう。良かったね。――さて、ゆっくりと、コーヒー飲んだら、お楽しみの、支度しよっ。」
「しよう、しよう!」 俺が言い。
彼女は、続けて……
「コーヒー奉行さん、宜しく!――私は、片付けちゃうから。」
「何だよ、コーヒー奉行って!ハハハッ。」
「鍋奉行って、言うじゃん?しかも……お揃い君から、少し、出世した!ハハハッ。」
訳の解らない事を言って、二人で笑う。
新年だ、――笑う門には、福来たる!
俺には、昨日から…福が来っぱなしだった。
新年の、初コーヒー(?)だ。――
出来るだけ、丁寧に煎れた……「美味しくなーれ…」と。――
今度は、テーブルに移り、二人で並んで、
コーヒーをまったりとすする。
宝物の時間は…やはり、優しく流れた。――

「自分の支度やっちゃうね!その後、お揃い君のやるからね。」
言いながら、彼女は、洗面所に行った。
俺は、ソファーに寝転んで、又、考え出した。
幸せ過ぎる。――後、二日間、幸せは続くだろう。その後、現実世界に、俺は戻れるのだろうか…?
彼女の居ない生活に……
「出来たー!」 彼女の声がして、パタパタとスリッパを鳴らし、部屋に来る。
アップにした髪には、梅の可愛い簪が揺れている。
「……」
俺は、起き上がり、彼女に掛け寄った。――
「茜、可愛い過ぎるっ!――人に見せたくないな…」
およそ、独占欲とは、無縁の俺が……無意識に発していた言葉だった。
「どうしたの?突然。…お揃いで、初詣でしょ?」
「うん。行きたい!でも、見せたくない!……透明人間になれない?」
俺の精神年齢は、低下する一方だった。――
「ハハハッ。 さー、お揃いにするよ!」
「うん。お揃いにする。」
二人の支度が整い、初詣に出掛けた。
自分と彼女を見ては、締まらない顔になる。
「楽しそうだね。」
俺の方を見て、彼女が笑い掛ける。
「楽しいんだ。今までのお正月で、一番、楽しい。帰りに、プリクラ撮ろう!」
「そう。良かったね。撮ろうね。」
「茜は?普通?楽しい?」
「普通じゃないよー。楽しい。麗の楽しそうな顔を見てると、もっと、楽しくなる!」
俺達は、神社への道をカタカタと下駄を鳴らして歩いて行く。――
ポカポカと、暖かい日差しが降り注いでいる……
俺は、自然に彼女の手を取った。
別世界が、離れていかない様にしっかりと。――

神社は、晴れたせいもあり、大勢の参拝客で混雑していた。――
「うわー。こんなにも混むの……?」
「暖かいとね。」
「あー。屋台だ!楽しそうだね!」
「参拝してからね。」
「おみくじ、やろうね!」
「きちんと、お参りしてからだよー。」
「うん。お参りしてからだ。」
まるで、親子の会話だ。――
その位、俺は、はしゃいでいた。
長い列に並び、参拝を待つ。……列に来るまでに、何人か、俺の事を知っているらしい、人達とすれ違い。――「麗だ…」「麗いじゃない…」と、いった声も多々、聞こえた。が…――
俺は、彼女とずーっと、手を繫いだままで、軽く微笑み、頭を下げていた。
商店街の出店の前では、彼女に、声が掛かる。
「茜じゃん。久しぶり!……彼氏?へーっ!、超イケメンじゃない。」
女の人が言ってきた。
「でしょー。ハハハッ。」
彼女は、相変わらずの返事を返す。
俺は、笑顔で、頭を下げた。
「大丈夫?」などと、お互いに、訊きもしないで…当たり前の様に、手を繋ぎ、話しながら、――歩いて行く。
並んでいる間にお賽銭を彼女は出した。
「充分にご縁が、有りますように、15円!」
俺も、慌てて千円札をしまい。
「充分にご縁が、有りますように15円!」
と、ピカピカの五円玉と、十円を手に持った。
「又、マネだよ!ハハハッ。」
彼女は、笑い…手を広げて、お賽銭を見せ――
「麗の大好きな、お揃いだね。」 と、言う。
「うん。お揃いだ。」 と、俺も手を広げて…
二人で微笑む。
参拝を終えた人達が、横を通り過ぎて行く…と、
「あれ?麗、良く会うね!」 
又、庵達が声を掛けてきた。
「庵!本当、良く会うね!」
「へーっ。着物、可愛いね!――お揃いで。」
庵の彼女が、俺達を見て言った。
「うん!お揃いなんだっ!」
俺は、満面の笑みで自慢げに、答えた。
茜は、苦笑して……肩をすくめ手を広げてみせる。
「ブッ!…ハハハッ。麗、お前、受けるわー。」
「ハハハッ。いつもと、別人だね!」
庵達が、笑いながら帰って行った。
参拝の番がきた。――二人で並んでお参りをする。
俺は、今の幸せが一生、続く様に一生懸命!お願いをした。
「さー、次は?おみくじかな?」
彼女が、訊いた。
「うん。おみくじ引こう!二人で一回!」
俺の返事に彼女は、戸惑い……
「一回?」
「一緒に引きたい。別々は、嫌だ。」
俺は、彼女と、一緒の未来が、欲しかった。――
別々の運など、要らなかった。
「うん。解った。一回引こう!」
俺達は、二人で振って……おみくじを一回引いた。
巫女さんが、優しい笑顔で、見ていた。
「いい?開くよ!」
彼女に任せ、俺は真剣に手を合わせ、祈っていた。
「うわー!大吉だ。」 二人で同時に叫んだ。
「凄いね。麗と私は大吉だ。ハハハッ。」
「うん。茜と俺は、大吉だ。ハハハッ。」
「未来は、明るい。だってよ!」
笑いながら、彼女は読み上げる。――
「やっぱりな。そうだと思ってた!」
俺は、深く頷いた。
「ハハハッ。凄い自信。」
「だって、今、幸せいっぱいだもん。」
「ハハハッ。そう。良かったね。」
「出来るだけ、高い場所に結ぶ!早くお願いが届く様にね!」
俺は、背伸びをして、――お日様に近い枝に、しっかりと、おみくじを結ぶ。――
二人の未来を……結ぶ様な気持ちで。――

その後は、お昼のお雑煮に響くので、一つだけ、たこ焼きを買い、歩きながら、二人で食べた……
俺が持って、彼女の口に入れてあげる。
「麗、――ソースが口に付いてるよ。」
彼女は言った。
「またー。引っ掛からないよ!茜の嘘つき!」
笑い顔で、俺は言う。
「いや、本当だよ。ほらっ。こっち向いて。」
指で、俺の口を拭う。
「ほら、ねっ。」
と、指を見せる。――ソースが結構付いている……
その指を彼女はペロリとなめて、笑った。
「えー!本当だ!いつからー?」
俺は、驚いて、訊く。
「初めの一つから?……」
笑いをこらえている様に答えた。
「早く言ってよ!」 俺は、照れて怒った。
「だって、可愛いくてさぁー!ハハハッ。」
遂に笑い出しながら、彼女は言う。
「茜も、歯が青のりだらけだけどねっ!」
「嘘!」
ピタリと笑うのを止め、口を押さえる。
「うん。嘘だよー。ハハハッ。」
「……腹立つわ!ハハハッ。」
ゲーセンに寄り、着物姿のプリクラを撮った。
「慣れて無いから……顔が、緊張してるよ。」
「俺だって、初めてだから、緊張した!」
操作も解らず、――ただ緊張顔の二人が、並んで写った、スナップ写真の様な、プリクラを見て…
二人で大笑いしながら、マンションへと、入って行った。
すれ違う住人達が、つられて…苦笑していた。
別世界の俺は、良く怒り、良く喋り、良く笑う住人になっていた。――幸せいっぱいで……

家に着き、彼女が洗面所に、着替えを持って行くのを確認した。――赤だな。
俺は寝室に行き、赤を選んで着る。
戻ると……彼女は、黒を着ているではないか!――唖然としている俺を見て……
「ぷっ。下に隠して持って行ったの!ハハハッ。可笑しい!」
この人は……なんて……馬鹿なんだ!
「酷いよっ!――着替えてくるっ!」
泣きそうな顔で、寝室に戻ろとした俺に……
「嘘、嘘。ゴメンね!」
と、黒のトレーナーを脱ぎ、赤になった。――
「……もーっ!元旦から、意地悪だな!」 
俺は、すねていた。
「ハハハッ。そうだね、元旦なのに、ゴメンね。」
彼女が、ハグして、ほっぺにキスをした。
たちまち、俺に笑顔が戻った。――
「お雑煮、食べよう。お餅は…いくつ?」
彼女は、キッチンに行きながら、訊く。
「茜は?いくつ?」
「33。」
「俺32。――じゃない…餅だよ!」
「ハハハッ。三つ!お揃い?待っててねっ。」
「うん。」
俺は、キッチンテーブルに座り、彼女を眺める。
彼女は、又、独り言を言いながら……トースターにお餅を入れたり、忙しい。――
一つ、お姉さんだ…金のワラジだな!……と、古臭い事を考えた。――
お雑煮は、――白菜、椎茸、大根、ニンジンと、具沢山だった。
「この、すったクルミを入れると美味しいのよー。」
彼女は、ドカッとクルミを入れる。
「へーっ。俺も!」 又、マネして入れる。
「頂きます。」 二人で向かい合い頭を下げる。――
コクが出て、香ばしクルミが、美味しい!
「美味しいよ!いいねー。」
「そう。良かった。」
感じる間も無かったが――冷えていたらしい体を熱々のお雑煮が、ポカポカに温める。
にゅーっと、お餅を伸ばし、二人で笑い。
食べるお雑煮は、俺の心までも温めた。――

食後のコーヒーを、俺が、煎れた……マグカップを二つ持ち、テーブルに置く。――
新聞を見ていた彼女は、カーペットから、起き上がり……「有難う。」 と、言う。
二人で、寛ぎながら、コーヒーをすする。
「はぁー。美味しい…」 彼女がため息をつく。
俺は、微笑んで、「良かった。」――と、言う。
「お昼寝しよ。眠くない?」
「俺も思ってた。二人でお昼寝しよっ。」
俺は、毛布を持ってきた。――
当たり前の様に、俺は、腕を伸ばし腕枕をした。
彼女も当たり前の様に俺の唇にキスをして…
「オヤスミ。」と、言った。
「オヤスミ。茜。」と、俺もキスをした。
温かな日差しが、部屋に降り注ぎ、俺達は、ゆっくりと眠りに落ちていく。――
起きた頃には、トップリと日もくれていた。
彼女は、キッチンで、料理を作っている。
俺は、寝転んだまま、飽きずに彼女を眺めていた。
視線に気付き…「あっ、起きた?」 振り返り言う。
「うん。茜を見ていた。」
俺は、起き上がりながら、答えた。
「さっきまで、私も…麗の寝顔を見ていたよ。――さぁー、今夜は、お節と、鍋です。」
「やったー!又、乾杯だね。」
「うん。乾杯しよう。」
俺は、お節を並べて、彼女は、鍋を持ってきた。
「ジャーン!」 と、蓋を外す。
鱈、独特のいい匂いが立ち込める。――
「美味しそー!早く、乾杯!」
「うん。乾杯!」
二人でジョッキを合わせて、微笑む。
「頂きます!」 二人で頭を下げる。
彼女が、鍋をよそってくれた。
ふーふーと、冷ましながら、湯気の立ち上る鍋を食べた。
「美味しい……。あー。美味しい。鱈って…こんなに、美味しかったっけ?」
「二人で食べると、美味しくなる。幸せが、プラスされるからね!」
本当に、その通りだと、思った。――
お節を取り分けながら、彼女は……
「黒豆は、豆に生きられる様に…喉にもいい。――田作りは、五穀豊穣…それに、カルシウム豊富――
数の子は、子沢山……私には、関係ないけど……」
「…そうなの?」
「うん。子宮の摘出を手術してね。卵巣とかも、全摘出!――お腹に、20針の後が有る。子供は生めないし、ホルモンバランス崩れて13㎏も太ったよ!」
お節の皿を置きながら、話した。
俺は、自分の事を初めて話した、彼女の告白を、軽く流した。――「大変だったね。――じゃあさ、栗きんとんは?」
それは、気を遣ったのでは無く……
俺には、――今現在、彼女が俺と、居る事の方が、余程、大切な事だった。
彼女が居れば本当に、他に何も要らない。
それよりも、話しをしてくれた事の方が重要で、嬉しかった。
彼女は無言で、俺を見ていた。――そして……
「栗きんとんは、お金の象徴!色に掛けて……金運アップ?そして――美味しい!ハハハッ。」
自分だけ、――多目に栗きんとんを盛り、笑う。
「……ちょっとぉ…差があり過ぎ!俺だって、大好きなのに!」
「私はだねー。四日に、麗がボタン、ハマらない!――なんて事が無い様に。心配して、自分の体重を犠牲にしているのだよ。うん。」
もっともらしい事を言い、頷いた。
「それは…俺も心配はした。けど……大丈夫!普段とは、酒の量が違うもん。ご心配無く!」
手を伸ばし、皿に残りの栗きんとんをガッツリ取った。
「ハハハッ。出たよ。子供!」
「だろ?俺が居れば…子供が居る様なもんだ!」
「そうだね。」
「うん。そうだ!――ねえ、コーヒー飲みたくない?」
「私も、そう思ってた。」
「やっぱりね。――俺が煎れる。栗きんとんで、コーヒータイムだ。」
「うん。コーヒータイムだね。」
二人、並んで又、コーヒーをすする。
「はぁー。美味しい……」 
と、呟きながら……
「ね。優しい時間だと――思わない……?」
彼女が訊く。
「俺も、そう思ってた。」
又、彼女のマネをして言った。――本当だった。

「遅くなっちゃったね。お風呂入って、寝よう!」
「うん!――入れて来る。」
二日になっていた。――
お風呂を入れながら、アクビが出る。
「お風呂、出来たよー。泡風呂にしてみた!」
彼女は、お風呂の準備をしながら、アクビをしていた。
「俺も、今、アクビが出たよ。お揃いだ。」
「ハハハッ。変な、お揃い!――パジャマは、紺だよ!」
彼女は、あらかじめ、言ってきた。
「じゃあ、紺、持ってくる!」
俺は、急いで寝室から、紺色のパジャマを持ち、走って戻った。――走った勢いで…
「眠いからさ、一緒に入っちゃおうよ。」
言って――さすがに、自分で驚いた…
が…彼女は驚きもせず。
「そうだね。一緒に入っちゃおうか。」
普通の事の様に答えた。――
「うん!入っちゃおう!」
二人で手をつなぎ、お風呂に行った。
浴槽に、二人で入り――
「うわー!泡だらけだねー楽しい!」
「うん。楽しい!泡だらけだ。」
彼女が、泡を手ですくい、フーッと俺の方に吹く。
「ちょっとー。」
俺は、泡をすくい、彼女の頭の上に乗せる。
「ちょっとー。」
彼女は、俺のマネをして言った。
二人でひとしきり、騒いで遊んだ。――
「あのさー。結局、一人ずつ入るより、遅くなるよね?……ハハハッ。」
彼女が、真顔で言って…笑い出す。
「良いじゃん。楽しいもん。明日は――ゆっくり寝てよ。俺……出掛けたくない。二人きりで、過ごしたい!茜は?」
「お泊まり最後の日だ…二人で過ごそう!」
「――そっか…四日、朝からか…三日の夕飯まで?」
「そうだね。――お正月、凄い、楽しかった!」
自分の体をゆっくりと摩り。言う。――
「まだ!明日が有る。終わったみたいに、言わないで……嫌だよ。」
泣きそうになっていた……
「そーだね!ゴメンね、余りにも、楽しくてさ。」
「俺も、凄い楽しかった!初めての事ばっかりで、こんなに、幸せなお正月無かったよ。」
「そう。良かったね。――よし、髪、洗おう。」
「俺も!」
洗い終え、浴槽に入る。
「茜、タオル…外して。――お腹の傷、見せてよ。」
「えー。傷よりも……お肉の方が嫌なんだけどー。ハハハッ。」
彼女は…タオルを巻きお腹を隠していた。
「関係ない。茜の全部が…見たい。」
「仕方ないなぁー…この、子供は!」
彼女は、タオルを外し傷を見せた。
「へーっ。綺麗に縫ってある!」
俺は、傷口の残る下腹をそっと……撫でた。
「…くすぐったいよ!――さぁ、シャワーして、上がろう!」
「シャワーして、上がろう!」
「又、マネだよ。全く…」
お風呂から出て、お揃いのパジャマで…
並んで歯を磨く……一瞬でも離れたくなくて……ピッタリと腕をくっつけて並んだ。
磨きずらそうに、彼女はチラッと見たが…歯磨き粉だらけの口で笑う俺を見て…――首を振って、苦笑しただけだった。
歯ブラシを二人で、コップに入れる。
カランと、寄り添う様に並んだ。――
ベッドに潜り…「オヤスミ。」と、同時に言って。
微笑み合い、キスをする。
俺の腕枕で…二人で抱き合う様に、眠りについた。
お互いの温もりを感じながら……

俺は、お昼前に起きた。――目の前に彼女の顔が見えた事に、安心した。
珍しく、まだ彼女は俺の腕の中で寝ている。
寝顔を見ていた。――愛おしい……
可愛いとか、綺麗を超えた感情が溢れ出し、思った事も無い様な言葉が出る……
一緒にいても、切ない程、胸が締め付けられる……
今まで、人をここまで思う事は無かった。――
堪らず…彼女の寝顔にキスをした。――
彼女が、笑った気がした。
その笑顔に微睡み……又、眠りに落ちていく……
何かが触れた感触に、目を開ける。――
彼女が、俺の顔を見ていた。
「あっ!ゴメンね。起こしちゃった……寝顔を見てたら――思わず、キスしちゃった……」
静かな声で、彼女は囁いた。――
「いや…さっき、一度、起きたんだ……俺も。同じだよ。キスしちゃった!やっぱり、お揃いだ。」
「ハハハッ。出たな!変な、お揃いが。」
「お揃いだろ?」
「そうだね。――じゃあ…お揃い君、私は今、何を考えてる?」
「まずは、キスをして。麗には、コーヒーを煎れて貰って。私は、パスタを作ろう。……お腹空いちゃった。――でしょ?」
目を見開いて……
「大正解!100点です。ハハハッ。――怖っ!長年連れ添った夫婦みたいだね!」――彼女は驚く。
「何でも、お揃いだから、俺には、解るんだ!」
と、二人でキスをした。
伸びをして、起き上がる――
「では、パスタいきます!」
「では、コーヒーいきます!」
「ハハハッ。」
彼女は、もう一度、俺にキスをして…キッチンに、向かう。――俺も続いた。お揃いだから……
キッキンでは、彼女が、作業を始める。
少したってから、コーヒーを煎れるように、言われていた。
俺は…キッキンテーブルで、飽きる事無く彼女を見つめる。――
いつになったら……彼女を見飽きる事が俺には出来るのだろうか…?
一生かかっても……無理だと思えた。
彼女が、振り返り……「麗、コーヒー宜しくです。」
と、声を掛けてきた。
「了解!」
俺は、いそいそとキッキンに行き、コーヒーメーカーを通り越し、彼女にキスをする。
「えぇー…?」 呆れた様な声を、彼女があげる……
俺は、無言で立ち去り、コーヒーを煎れる。
今日は、黒のお揃いだ!二人でキッキンに立ち、お互いの作業を進めた。――
「出来た!」 皿を両手に持ち、彼女はキッキンテーブルに置く。
「俺も!」 マグカップを両手に持ち運ぶ。
途中、彼女に寄っていき、キスをした。
「はぁぁー…?」 又、呆れた声を出す。
俺は、無言で立ち去り、コーヒーを置いた……
「頂きます!」 二人で手を合わせ。
まずは、コーヒーを一口すする――
「はあー…」 二人で作業後の一息をつく。
ペスカトーレのパスタは、ガーリックの香りをゆらゆら漂わせ、食欲を掻き立てた。――
「美味しい……最高。」
魚介の旨味がたっぷりのソースを、アルデンテに仕上がった細目のパスタに――クルクルと絡め、せっせと口に運ぶ……
「そう。良かった。――麗、又、ソースが口に着いてるよ。」
彼女が、言う。
「えっ!」
たこ焼きの事が有る、俺は、焦って……
「嘘だよ。――ハハハッ。」
やられたっ!……俺は、文句を言おうとして、彼女を見た――ソースが…口に付いていた!
「あのさ。俺の心配より、自分の心配しなよ。ソース、付いてるよ。」
俺は、言ってやった。
「ハハハッ。」
笑って、取り合わない彼女に――椅子から立ち、口元を拭う。
「ほら。」 超ドヤ顔で、指を見せた!
その指をペロリとなめ……ニヤリと笑う。
「……うわー私…ダサっ!」
真っ赤になり、照れた彼女が、可笑しくて。――
「ハハハッ。やった!」
笑いながら、両手を上げ、俺は本気で喜んでいた。
本当に…――顧客には、見せられない……明後日から、俺は…まともな接客が、出来るのだろうか?

食べ終えて、――コーヒー担当の俺は、食後のコーヒーをもう一度、煎れる。
その前に……洗い物をしている彼女に、キスをする。
「……ハハハッ。」
呆れる事を通り越し、彼女は笑った。
俺は、コーヒーを置き…彼女も戻った。
俺達は、ゆっくりと無言でコーヒーをすする。
何年ー何十年間もそうしてきた様に……
彼女は、別世界ではない……
二人で過ごす、この時が、現実世界で……
夜の世界で働く俺が…別世界の住人だ。
俺は、そう思う様になっていた。――
カーペットに寝転がって並び、一つの雑誌を眺め、普通に時を過ごす……
普通じゃなかったのは、――俺が、約二分に一度は、彼女にキスをした事だった。
彼女は、ずーっと、笑っていた。
笑った彼女にも……俺は、キスをする。――

冬の日は、短い。――辺りはもう、日が落ちて薄暗くなってきた。
「今日は、すき焼きだよ。お腹を空かせて、一杯食べよう!」
彼女が、言った。
「やった!すき焼きだー。一杯食べよう。」
俺は、やはり…キスをした。――
「ハハハッ。――麗、〆はうどん?それとも、ご飯を一緒に食べる派?」
「ご飯を一緒に食べて、〆にうどんを食べる!」
「うわー!二股だよ…浮気者は…麗の方だね!」
彼女が、言った。
「二股なんて絶対しない!俺は…絶ー対に、浮気もしない!――」
又、彼女にキスをして……
「約束するから。――結婚しよ。」
「――突然……何?…あのねぇー、話したでしょ?私は、子供も生めないし…セックスもね…男の人が痛いらしいんだ。中が硬化するのが早いらしくて…しかも…」
彼女を遮る様に俺は、言った。
「突然じゃない。二回目…喫茶店に、寄った時から何回も、茜との生活が浮かぶんだ――そこに、子供が出て来た事は無い。」――続けて……「いつも、二人が一緒で、仲良く生活を送っている。――微笑み合いながらコーヒーを飲んで…」 俺は、言った。
「茜と、「付き合いたい」って思った事は無い。「結婚」なんだ…一生、一緒に居たいんだ…結婚しよ。――お揃いに…してよ。」
俺は、自分でも、気付かなかったが…泣いていた。
「そうだね。お揃いだ。――結婚しよ。」
彼女は、――俺の涙を手で、拭いながら言った。
「うん。結婚する。お揃いだ。」
俺は、彼女にキスをする。――
「さて、すき焼きお腹に詰めて、話しも詰めよ。」
「うん。詰めよ!後、お祝いの乾杯だ!」
「うん。お祝いの乾杯だね。」
二人ですき焼きの準備をした。――
その間も、俺は、彼女にキスをし続けた……
「乾杯!」―― 一気に、冷えたビールを飲んだ。
鍋の中ではグツグツと、すき焼きが煮え始めた。
彼女が、卵を割った器を配る。
シャカシャカと、卵を溶いた。――
俺も、マネして、シャカシャカした。
「さー、よし!食べよう。」
「よし!食べよう。」
「頂きます。」 二人で手を合わせ、食べ始める。
甘めのタレが卵に絡まり、お肉が柔らかく解ける――葱の中はトロトロだ。
「美味しい……今まで食べた中で一番!」
「そう。良かった。ご飯持ってくる?」
「うん。有難う。」
「私も、食べよ!お揃いで。ハハハッ。」
「二人で食べると、美味しいね!お揃いだ。」
熱々の炊きたてご飯に、タレと卵の絡んだお肉を乗せ、ふーふーして、二人で食べる。――
「ねえ、茜のご両親、明日、帰るよね?」
「あぁ、そうだね。」
「挨拶に行って、婚姻届だそう。」
さすがの、彼女も驚いて、ご飯を喉に詰まらせた…
胸を叩きながら……
「こ…婚姻届……明日?」
「うん。茜の気が変わったら嫌だし、誰かに取られたら、困る!一番は、もう一日でも、離れていたくない。」
「誰も取らないよ!――だって…麗のご両親には?」
「あぁ、電話するよ。普段から、結婚しろってウルサいから、問題無い。暇になったら、遊びがてら、顔、出そ。ねっ。」
「ねっ。じゃなくて!問題は…有るよ。私は…一人っ子だからさ……婿さんだよ…」
「俺は、男三人の末っ子、問題無いよ。」
「そう。問題無いか。」
「そう。問題無い。――問題は…うどんを入れないと、タレが煮詰まってきてる事。」
「ハハハッ。持ってくる!」
うどんをツルツル二人で食べる。――タレを吸ったうどんの美味い事…ご飯とは、別腹!
「うーん。お腹一杯だー!ハハハッ。」
「うーん。一杯だー!ハハハッ。」
二人でお腹をポンと叩き笑った。
「腹ごなしに…先、お風呂に入ろうよ。泡のやつ!」
俺は、提案した。
「おけっ。私は、片付け。麗は、泡風呂担当ねっ。」
「うん。」
俺はキスをする。――彼女は笑う。
「お風呂出来た!」
「私も終わった。めでたいから赤のパジャマです。」
準備をしながら、彼女は言った。
俺は、慌てて、赤を探して持って来る。
「ハハハッ。お揃い君、入ろう。」
「うん。」 彼女の手を取った。
二人で騒ぎながらお風呂を済ませる。
彼女は、もう……タオルを巻いて居なかった。
脱衣所で、体を拭く彼女を見ていた…
「綺麗だな……」 呟きが漏れる。――
「はぁ…?麗しか言わないよ。ハハハッ。」
彼女が、照れて笑う。
「ねえ、俺と……寝て。このままベッド行こ。」
「でも…処女膜再生してるから、血が出るかも…キツいだろうし……麗が、痛いかも…」
「抱きたい。――お揃いしてよ……」
俺は、裸の彼女を抱きしめキスをする。――
「うん。寝る――お揃い……」
手をつなぎベッドに行く…長いキスの後、――
俺は、彼女の胸にキスをする…お腹の傷にもキスをした……
確かに、キツい……彼女が心配になり…俺は訊く…
「痛くない?……」
「痛いのも…お揃い…でしょ?」
「うん。お揃いだ…」
俺も彼女も、少し痛かった……それよりも何百倍も気持ち良かった。――
俺は、訊く。
「茜、痛いだけ?……気持ち良かった?」
「凄く、気持ち良かった。……お揃い?」
「超お揃い!」――彼女にキスをする。
その後、俺は、もう一度、彼女を抱いた。
「さっきより、痛くない……」
「私も……」
「毎日10回しよう!痛くなくなるかもよ。」
「じゅ…無理!あー…シーツ、汚れちゃった。換えるね。」
「まずは、シャワー!」 同時に言った。
彼女がシーツを換え……俺は、コーヒーを煎れる。
「終わったよ。」 彼女が戻り、俺にキスをする。
俺は、締まらない顔をしながら……
「もう直ぐ出来るよ。ねぇ、プリン食べよっ!」
と、言った。
「あっ!麗が寝てる時…二つ食べちゃったゴメン!」
彼女が、言う――
「え…えーっ!俺のも…食べちゃったの?」
「嘘だよ。……ハハハッ。出すね!」
この人は……なんて……馬鹿なんだっ!
「茜、コーヒーの塩は?何杯?」 訊いてやった!
「腹立つわー!」
「こっちの台詞だよ!腹立つわ!」
「じゃあ…お揃いだね!」
と、言われ……突然、締まらない顔になる。――
スプーンに皿…勿論、プリンを用意した。
「これプッチンして、出されると…台無しだよねー」
「うん。プッチンは、自分でしないとね。」
二人で慎重に、皿にプッチンして……
「頂きます。」 二人で手を合わせる。
そーっと、一口食べて……
「美味しいねー!」――顔を見合わせて微笑む。
コーヒーを二人、無言ですすりながら……
優しい時間はゆっくりと過ぎていく。――
「……俺、――自分が、こんなにも…人を好きになれると思わなかった……こんなに幸せになれると、思わなかった。茜が居てくれて良かった。」
独り言の様に呟く。
「私ね手術をしてから…結婚は勿論。恋愛もやめた…そんな、私を見て、親が店を出してくれたの。」彼女は話す――「麗のペースに巻き込まれて…自分でも、楽しくて。麗と居るのはこんなに楽しい。麗と寝るのはもっと楽しいって…」――続けて「お正月が、終わるのが怖かった…麗との生活が続く事が、凄く幸せ。――有難う。」と、いった。
「こっちが、有難うだよ……」
「お揃いだね。」――「うん。お揃いだ!」
二人は、キスをした。――

「茜って言うんだ。解った…行くよ。有難う。」
俺は、実家に報告をした。――
「おめでとうってさ、遊びに来いって。」
「そう。良かった。こっちも、メール来たよ。明日、昼過ぎに…着いたら、連絡来る!」
「俺…真面目スーツ持って無い!どうしよう…」
「トレーナーで、平気だよ。」
「えぇー?トレーナーで……お嬢さんをください。って言うの?俺。」
「大丈夫。言わないし……」
「はぁ?――明日、俺……茜を貰いにいくんだよ。解ってる?」
「大丈夫。初お揃いの白にしよ!麗は、スーツ?お揃いじゃ無いんだ……」
「――お…お揃いだよ!白だよ!」
「ハハハッ。明日は、早いから、寝ようか?」
「うん。寝よう。」
二人で、歯を磨く、俺は、又、彼女にくっついて、彼女は又、呆れ顔をして。――
ベッドに二人で潜り込む。キスをして、抱き合う様に……優しい眠りにつく……

十時位に目が覚めた。――
彼女が、居ない。耳を澄ます…物音も聞こえない。――
慌てて、部屋に飛び込む…部屋やキッチンにも、居ない……
俺は、トイレや洗面所、バスルームを走り回る……居ない。――
ガシャ…――鍵の音がする。買い物袋を下げ、彼女が入って来た。
走り寄り、キツく抱きしめる……
「どーしたの!麗…?」
彼女は、驚き、訊いた。――俺は…泣いていた。
「……居ないんだもん。」
「里芋…買って来て…ゴメン…」
俺は、彼女の唇をキスで塞いだ。――
手を引っ張りベッドに、連れていく。
服を脱がせ全身にキスをする。そして、抱いた――彼女は、俺のしたい様にさせていた。――
裸でベッドに潜りながら……
「起きたら、居ないから……夢かと思って……不安になったんだ。――現実だって、確認したかった。良かった…茜が居る。」
俺は、キスをした。――
彼女は裸の胸に俺を――抱き寄せる。
「…私は世界一幸せ者。こんなにも、愛されて――ゴメンね。不安にさせて。」
俺にキスをしてくれた。
「幸せ者は俺だよ。宇宙一だ!」
「こうしていたいけど…支度して、ご飯食べないとね。」
「あーっ!早く言ってよ!何してるの?シャワー、シャワー!」
「何してるのって……ハハハッ。」
急いで、二人でシャワーを浴び……
けんちん汁に、銀ダラの西京漬け、茶碗蒸しと、急いでいるとは思えない。手の掛かった料理を彼女はつくる。
俺は、せっせと、キッチンテーブルに運んだ。
「頂きます。」 二人で手を合わせ、微笑む。
「けんちん汁も、凄く久しぶり。美味しい……」
「そう。良かった。」
ホクホクの里芋や、風味いいゴボウ…鶏の、ダシがよく効いて、崩したお豆腐がコクを出している。
体が元気になりそうだ。
運動?をした後で、お腹が空いた二人は、ハフハフ言って食べていた。
「銀ダラ、美味しいね!」
「私も、大好き!」
二人で、お替わりして食べた。
「茶碗蒸って、家で作れるんだね…とっても、美味しいよ。」
「そう。良かった。プリンより楽だよ。」
「凄いね。茜は!俺は、幸せ者だ。」
「ハハハッ。美味しそうに食べて貰って、私も幸せ者だよ。」
彼女は、片付けを……俺は、彼女にキスをして…
コーヒーを煎れる。――
二人で、コーヒーをすする……
「はぁー……美味しい。間に合ったね!」 
「うん。良かったー。後は、ゆっくり……」
プルプルッ。彼女の電話が鳴る。
俺は一気に緊張した。――

「緊張しなくて大丈夫だよ。」
「き…緊張するよ…お揃いで、本当にいいのかな…今更だけど……」
彼女が30階を押すのを見て、俺は…益々、緊張感が高まった。
ペントハウスの階かよ……
「茜…話した後、家に来るよね?婚姻届出しに行くよね?は…反対されたら…俺に、着いて来てくれる?」
俺は、普段の冷静さを欠き、浪花節になった…
「ハハハッ。大丈夫。心配無い!」
「何で…そんなに、強気なの?俺は、一流企業のエリートでも、無いよ。」
「まぁまぁ。大丈夫。」
自分の仕事を卑下するつもりは無いが、普通の御家庭に、受け入れ易いとは言えない……
彼女は、俺の仕事を知っているのか…?
訊かれた事さえ無いが……
おいっ!彼女の苗字さえ…知らない事に、気が付いた……俺も言って無い!
結婚を前に考えられないが…遅い。――
チンッ。音をたて扉が開く。――
「ただいまー。ママー!」
彼女が、家に入っていく。
「おかえりー茜ちゃん。まぁ……いらっしゃい!茜ちゃん彼氏?」
小太りの可愛い感じのママが、訊いた。
「お邪魔します……」
言い……彼女に、耳打ちする。
「結婚…言って無いの?」
「うん。これから、言うよ!」
エェェッ!冗談にも程が有るよー!
「まぁー!ね、入って、入って!」
ママは、テンション上げ上げだ……
嬉しそうに、俺の手を引っ張る。
「パパー!素敵な事が有るわよー!」
大きな声で奥に声を掛ける。――
「ママ。麗が、驚いてるよ!ハハハッ。」
「まぁ!麗君?素敵なお名前ね!」
奥から父親らしき声がした…「何の騒ぎだい。花ちゃん。――」
彼女は、俺達よりも先に部屋に入って……
「ただいまー!パパ。」と、声を掛けている。
ママに連れられ…俺は、部屋へと入った。――
「パパ。私、麗と結婚するね!」
彼女が言った…けど…
俺もパパも、――唖然として……声も出ない。
先にパパが、声を出す。――「麗…?」
続いて、俺も……「オーナー…?」
「ハハハッ。二人の顔!ハハハッ!可笑しいーっ!」
彼女が、腹を抱えて大笑い。――
この人は……なんて……大馬鹿なんだっ!
「俺…知らなくて……」
俺は、言葉に詰まる。――
「だろうな……茜らしいよ。――で、茜、なんて言ったんだい?」
「私、麗と、結婚するよ。」
彼女が、もう一度、あっさりと言った。
「…まぁっ素敵っ!茜ちゃん…おめでとう!パパ、乾杯よっ!」
「ふー。茜…パパの心臓を止める気かい?」
「あら?パパ……まさか反対なの?そんな事したら……私、パパと離婚しますよ。」
「は…花ちゃん!反対じゃないさー俺も、乾杯だな!って、思った。」
オーナーが、慌てて言う。――
「あら、じゃあ、お揃いだわね!」
「そうさ、花ちゃん、お揃いだよ!」
口をあんぐり開けているだけで…――
俺は、成り行きに、ついて行けてなかった……
「私はね、玄関から、解ってたわ。だって、お揃いだもの!服が。」 ママさんが頷く。
「パパと同じ!お揃い君で困ってる。ハハハッ。」
見ると……同じ色のセーターをオーナー達が、着ているではないか!
親しみを感じ……
「解ります。お揃いは…――幸せです。」
俺は、少し…落ち着いてきた。
「花ちゃん、良くー聞きなさい。お揃いは幸せだよなー麗。」
俺は、頷いた。そして…
「幸せで…自慢したくなります。でも…彼女を余り見せたくない…難しい。――」
「実に解る!透明人間になってくれと、頼んだ事がある。」
「ハハハッ。初詣の時、麗も言った!」
彼女が、大笑いする。
「あら!パパと麗君も、お揃いね!」
…俺とオーナーが同時に言った。
「余り、嬉しくない…」
全員で、大笑いとなった。――
「コーヒーでも、飲みましょうよ!美味しいケーキが有るの。あー…。モンブランは、三つだから、パパだけは…チーズケーキになるわね…」
ママさんが、言う。
「え……俺だけ違うケーキ…」
と、寂しそうに呟く。――
俺は、慌てて、自分が…と、言おうとした……
「嘘よ。ハハハッ。パパの顔!可笑しいわねー!」
この親子は……親子だなっ!
「酷いよ!花ちゃん。」
オーナーの言い方が余りにも、自分に似ていて……
「ハハハッ。ハハハッ。」
俺は、大笑いしてしまった。――
「そんなに、可笑しいか?麗。」
オーナーが、むくれて、訊く。
「いや!俺も茜に騙されて、意地悪されてるから…ハハハッ。」
「えー。意地悪じゃないよ。――愛情表現だよねーママ?」
「あら、そうよー。知らなかったの…?」
「知らなかった……」 
又、同時に言い。――二人で締まらない顔になる。
「店と雰囲気が、違うなー…お前。」
オーナーが、言う。――貴方もね…
「茜ちゃん、愛されててるのねー。男の人は、愛してる人の前でしか見せない顔が、有るのよ。」
「うん。凄く愛されてるよ。」
彼女が、俺を見て微笑む。
「茜…体の事は……」
オーナーが、言い掛ける。――
「麗がね、言ったの……俺が居れば子供居るみたいなもんだろって…――本当…ちょっと、買い物に出ただけで、居ないって泣き出すしね!」
「関係ない。俺、茜が居れば…何も要らない。」
ママさんが、――突然、泣いた……
「茜ちゃんが、こんなにも素敵な人と、巡り会えて……本当に良かった。――結婚しない!って言ってたから…愛する人と、一緒に居る幸せを知って欲しかったの…」
「花ちゃん、……うん。良かったね…」
オーナーも、肩を抱きしめ…涙ぐむ。――
俺も、涙ぐんでいた……
なんて、素敵な夫婦なんだろう。――
「嫌だー。皆でー!」
見ると、彼女も、涙ぐんでいた……
「麗――お前が…泣き出すって…?――それと……一人娘なんだが…」
「お婿さんになれるって!良かったね。」
彼女が、言った。
「いやー良かった!……仕事は、やめて貰うぞ。」
「えっ…」――「パパ……」 二人は言い……
「まぁ、待て。――花ちゃん、あの話し…決まりだな!」
「まぁ!パパ、調度良かったわねー。素敵!」
「パパ…どーゆう事?」
「実は、旅行した信州が良い所でなー。畑を借りて…住みたいと、花ちゃんが言うんだよ。でも……茜を一人にしたくないと、話していたんだ。」
「とても、素敵な所なの!」
「でだ…――麗、お前が、「sweetdoor」をやれ。前から、お前に任せようかと…考えていたしな。」
「えっ…えっ?俺が…」――「オーナーだ。」
「そうよね。遅かれ早かれそうなるじゃない?早いだけの事だわ。」
ママさんは、簡単に言った。――
「良かった!パパ達が私の為に、人生決めるの…嫌だもん。――麗!鮭パワーが、出た!ハハハッ。」
…笑い事じゃないよ!
「あら、何のお話し?」 ママが、訊く。
「お正月、出世魚の話しをしながら、食べたの!」
「まぁー、凄い、御利益ね!ハハハッ。」
いや…笑い事じゃないって!
「正月は家で休む…って言ったよな?……麗君。」 と、オーナーが、――横目で睨む。
「ええ、たっぷり休みましたよ。家で、茜と。」
俺は、目をそらしながら、しれっと、言った。
そして、焦った様に、続けた……
「ちょっと…待って下さい!俺、経営の事も解らないし……」
「マネージャーに、任せておけ。奴が居れば、大丈夫。経理はプロに任せれば良い。――何でも、自分で、やろうとするな。店の皆で、盛り上げれば良いんだ。――お客様の為、従業員の為を思って、動くのだけが、お前の仕事だ。――茜…何もウチのNo.1を……」
「あら……?パパ、言ってたわ。No.1が居なくて潰れる店なら、長くは続かないって…茜ちゃんは、お目が、高いのよ。No.1を選ぶなんてね!」
「パパ…私ね。――こんなにも幸せなお正月、初めてだった!」
ママさんは言う…
「顔を見れば解るわよ!ねぇ、パパ。」 
「いや…俺の方が幸せでした……一生、続いて欲しいと心から願った…――だから…プロポーズしたんです。――改めて言わせて下さい。――娘さんを俺にください。」
俺は、立って頭を下げる。
「――有難う。……娘を宜しく頼む。」
オーナーも、立って頭を下げる。
「それと……俺の実家は信州です。」
「えぇー!」
全員が、俺を見る。
驚かせ。満足だった!――やられっぱなしじゃ堪らない!
「信州は…何処ですか?」
「あぁ、長野だが…」 オーナーが、答える。
「俺の家、長野です。」
「素敵なご縁ねっ!まるで、話しの様だわ!」
ママさんは益々、ハイテンション……
「リンゴ農家で…畑もやってます。」
「ほー。勉強させて貰えそうだな!」
話しが盛り上がり、――
例のプリクラを、見せた…――オーナー達も…その昔、この着物で、「お揃い初詣」に行ったと…話しを聞いた。――俺は、堪らなく嬉しかった……
かなり遅い時間に、――婚姻届を出した。
俺は、髙池から、藤堂麗になった。
彼女の店に寄り、明日の仕込みをする。
久しぶりに自分の席に座り。――飽きもせず…又、彼女を眺めていた。
ブツブツと……独り言を言い、仕込みをしながら、彼女は、コーヒーを煎れる。
二人で……コーヒーをすする。
宝物の時間は、夫婦に…優しい時を刻んだ。――

家に着き、朝が早い彼女の為に、直ぐにお風呂を入れ、いつものルーティンだ。――新婚初夜などと、特別感は、要らなかった。――
何十年も、繰り返して来た生活の様に過ごすのが、俺達らしいと、感じた。――
ベッドに、二人で、潜り込む……彼女が、――
「これからも、末永くお揃いで、宜しくねっ。」
と、俺に優しくキスをする。――
「うん。末永ーく、お揃いだっ。」
と、俺も彼女を抱きしめキスをする。――
二人で、抱き合いながら……優しい眠りに、落ちていく。――

翌日、彼女は、朝早くに家を出た。
目を開けた俺に…
「行くね。寝てて、二時位にねっ。」
と、キスをした。――
「うん。二時に行くね。」 と、キスを返す。
昨日、オーナー…パパさんに、――
「朝と、昼のご飯は、茜の店で、必ず一緒に取りなさい。――この商売は、家族と逆の生活だ。そうでもしないと、飯も一緒に食えんぞ。」
と、言われていた。――
俺は、お昼頃に、起き出し…身支度を整えた。
店に着き、キッチンに入り、素早く、キスをする。
向かい合って昼ご飯だ。
「会いたかった!お正月ずーっと、一緒に居たからさー…寂しい。」
俺は、Yシャツの色をお揃いにした!
「ハハハッ。そんな事じゃ困りますよ。オーナー!」
彼女が、笑って言う。
「えーっ。茜、寂しくないんだ…」
哀しそうな、俺を見て、彼女が微笑む。
「寂しかった…けど、お昼が楽しみだった!麗が、来るってね!」
「うん。俺も楽しみだった!お揃いだ。」
「ハハハッ。お揃い君、オーナー初出勤だから、勝負飯のカツ丼だよ!さー、食べよう。」
「うわー。美味しそう!」
「頂きます。」 二人で、手を合わせる。
揚げたてのカツをキラキラ卵でとじたカツ丼は、甘辛く仕上げたタレがご飯に染みて……熱々のトロトロで、一口食べる度にふわーっと良い匂いの湯気が、立ちのぼる。――
「美味しいねっ。ソースカツ丼も良いけど……冬は、こっちだよねー、温まる。」
「そう。良かった。お揃いだ。私も、冬はこっち!」
「やっぱり、お揃いだ。」
二人で、微笑み合い、ふーふーしながら、食べる。
食後のコーヒーは、店なので彼女が、煎れる。
「休みの日は、俺が、コーヒー担当だ!」
「うん。麗の煎れるコーヒー、美味しい!」
「えーっ。茜の方が美味しいよー。」
「そりゃー、プロですから。――でも、私にとって麗の煎れるコーヒーは……幸せな味!」
ドヤ顔をした後、優しい顔で彼女が言った…
その顔に、見入ってしまった俺は……
「あぁー!家に帰りたい!茜とベッドに行くっ!仕事嫌だ!」
仕事が好きな俺にしたら…初めて、仕事に行きたくないっ!と、思った瞬間だった。――
余り性欲の無い俺が…初めて、今すぐに…抱きたい!と、思った瞬間でもあった。――
こんなに…彼女を好きな状態では……
この先、身が持たない。――
「お楽しみでしょ?――お揃いのトレーナーやパジャマ…ベッドも、休日のお楽しみ。お楽しみは、多いと楽しいでしょ?ねっ!」
彼女が、微笑む。
「うん。お楽しみだ!」 彼女に、キスをして…
「いってらっしゃい。」
と、カウンターから手を振り…見送られた。
俺は、少しの緊張感と、お楽しみを胸に…店に向かう。――



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