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短編小説

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2023年3月の記事一覧

【体現】

【体現】

「皮肉屋?」
「さよう。皮肉を売っております」
「ふむ、それでは頼む」

料金を払い、皮肉屋のサービスを受けた。
客にあらゆる皮肉を言うというものだったが、

「名乗るほど上手くないですね」
「名乗りだしてからキレが悪くなりまして」
「ははっ」
なるほど、身をもって体現しているとはさすが。

【計算不能】

【計算不能】

「点Pは動かないわ」
「なんで?」
「動かないって書いてるでしょ」
「いや、動くっすよ」
「え?」

「俺の心の点P、先生のとこに」

「バカ言ってないで真面目にやん――」

 ふと、胸の中に違和感を感じ、ハッとする。

「どしたんすか?」

 ありえない。私の中の点Qが、この子の点PとC地点で合流、だなんて。

【無敗の少年】

【無敗の少年】

 あるところに負けず嫌いの少年がいた。
 勝負好きな彼の前に潜水の名手が現れ、潜水で勝負することに。
 プールの中、息を止める両者。
 先に水面から上がったのは、なんと名手の方。
 少年は呼びかけても上がってこず、その後、ずっと息を止め続けることに成功した。

 それから、彼が負ける所を見た者はいない。

【はなうらない】

【はなうらない】

「きらい」
 娘が花びらを一枚むしる。
「くさい、つまらない」
 さらにむしっていく。
「花占いかな?」
 と問うと、
「おとうさんうらないだよ!」
 と自慢げに言われた。ええ……。
 失望しつつしばし眺める。

 ついに花びらは最後の一枚。結果は――
「……あいしてる」
 照れくさそうに言われた。
 娘!!

【愛してるって言って欲しい】

【愛してるって言って欲しい】

「浮気してるだろ」
 夫から突然の指摘。
「なんでそんなこと聞くの?」
 キッと睨み返す。
「これが証拠だ」
 言うと彼は、ペットのオウムを連れてきた。

「アイシテル、ナツコ!」

 押し黙る私。
「俺は、愛してるなんて言わない」
「……」

 言えない。オウムに夫役をさせるため、セリフを教え込んでいるだなんて。

【高精度】

【高精度】

 使い始めた匿名のチャットアプリ。
「会社にムカつく奴が居て」
 マッチング相手にメッセを送る。

 対して
「いますよね、そういう人」
 同意が返ってくる。
 そして、

「「でも、憎めない!笑」」

 と同じ文章を互いに送り合う。
 意気投合し、リアルで会うことに。

 そして今、互いのその憎めない相手と対面している。

【借り物だけど、偽物じゃない。】

【借り物だけど、偽物じゃない。】

 卒業の日。

「いつか再会できたら」

 彼と交わした別れ際の約束。

 また会う日まで立派な彼女になっていたくて、練習としてレンタル彼女を始めた。
 しかし最初は客が来ない。
 経験のため彼氏をレンタルすると、待ち合わせ場所に見慣れた顔。

「立派な彼氏になっていたくて」

 以来、彼の予約は私で埋まっている。

【ログインボーナス】

【ログインボーナス】

『生きる意味が分からん』
 昔の俺の口ぐせ。
『小難しい。いいから遊ぼ』
 ゲーム相手は快活に言った。

 そして幾年。
「生きる意味、やっぱ分からん」
「まだ言うじゃん」
 隣り合い、コントローラを握る。
「いや、だけど生きていたい」
 今の俺の口ぐせ。
「ふふっ」
 彼女が笑うから、明日も多分、生きたいと思う。

【夢の形】

【夢の形】

「父さんはな、ヒーローになりたかったんだ」

息子に語るのは昔の夢。

「特撮の、戦隊ものみたいな?」

「そうだ。でも、今はしがないサラリーマンだよ」

憧れの姿にはほど遠い。

「そうかな」

息子は疑問符を浮かべる。

「スーツを着て毎日戦ってる。立派なヒーローだと思う……ちょ、父さん、泣いてる!?」

【魔法がとけるまで】

【魔法がとけるまで】

「みらくる、ちぇーんじ!」

 アニメキャラの真似をする娘。魔法少女の変身シーンだ。

「この子の声、聞いてると安心するの」
「不思議ね」

 理由には心当たりがあるけど。

「私、魔法少女になりたい」

 瞳をきらめかせる娘。

「なれるわ。お母さんも、魔法少女だから」

 あどけない瞳はまだ、その真意を知らない。

【超高齢社会】

【超高齢社会】

「親父さん元気?」
「ぼちぼちだよ。そっちは?」
「ウチの父はちょっとボケてきてるかも」
「え、まだ若いのに!」
「まあ、あくまでも今の世の中じゃ若い部類ってだけだから」
「そっか。俺たちも今年で還暦だもんな」
「80代で若いって言われる世の中になるなんて、子どもの頃は考えもしなかったよな」

【限界オタクマン】

【限界オタクマン】

「限界オタクって、かっこいい響きだよな」
「もうね、それ言ってる時点でお前に限界を感じるのよ」
「なんつーか、今月の食費が底を突くまで推しに費やしてそう」「限界違いだな」
「だけどな」

 そして彼は、懐から消費者金融のカードを取り出し、

「俺は、限界を超えるよ」

「も、もはやかっこいい……!」

【口だけは上手い】

【口だけは上手い】

 夫は人気の芸人だ。話術の巧さを評価されている。
 でも実生活はだらしない。片付けると宣言したのに、気付けば私がやっている。

「本当、口だけね」
 と悪態をつくと、
「口だけで充分生きていけるよ」
 と。

「でも君がいないと生きてる意味は無いかも」
 と調子良いこと言うので、晩御飯は焼肉にしようと思う。

【人間と人形】

【人間と人形】

 知人の館で一晩を過ごすことになった。
 食事中、知人は少年の人形を傍らに置いていた。自慢の品だという。やけにリアルだ。

 夜中、寝室で眠っていると。
「タスケテ……」
 声の主はあの人形。
 なんだ、やけに人っぽいと思ったら、人形のフリしたただの人間だったのだ。

 がっかりした俺は再びまぶたを閉じた。