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こばなし
2023年3月31日 20:07
「皮肉屋?」「さよう。皮肉を売っております」「ふむ、それでは頼む」料金を払い、皮肉屋のサービスを受けた。客にあらゆる皮肉を言うというものだったが、「名乗るほど上手くないですね」「名乗りだしてからキレが悪くなりまして」「ははっ」なるほど、身をもって体現しているとはさすが。
2023年3月30日 19:57
「点Pは動かないわ」「なんで?」「動かないって書いてるでしょ」「いや、動くっすよ」「え?」「俺の心の点P、先生のとこに」「バカ言ってないで真面目にやん――」 ふと、胸の中に違和感を感じ、ハッとする。「どしたんすか?」 ありえない。私の中の点Qが、この子の点PとC地点で合流、だなんて。
2023年3月29日 22:48
あるところに負けず嫌いの少年がいた。 勝負好きな彼の前に潜水の名手が現れ、潜水で勝負することに。 プールの中、息を止める両者。 先に水面から上がったのは、なんと名手の方。 少年は呼びかけても上がってこず、その後、ずっと息を止め続けることに成功した。 それから、彼が負ける所を見た者はいない。
2023年3月28日 19:29
「きらい」 娘が花びらを一枚むしる。「くさい、つまらない」 さらにむしっていく。「花占いかな?」 と問うと、「おとうさんうらないだよ!」 と自慢げに言われた。ええ……。 失望しつつしばし眺める。 ついに花びらは最後の一枚。結果は――「……あいしてる」 照れくさそうに言われた。 娘!!
2023年3月27日 20:16
「浮気してるだろ」 夫から突然の指摘。「なんでそんなこと聞くの?」 キッと睨み返す。「これが証拠だ」 言うと彼は、ペットのオウムを連れてきた。「アイシテル、ナツコ!」 押し黙る私。「俺は、愛してるなんて言わない」「……」 言えない。オウムに夫役をさせるため、セリフを教え込んでいるだなんて。
2023年3月26日 20:48
使い始めた匿名のチャットアプリ。「会社にムカつく奴が居て」 マッチング相手にメッセを送る。 対して「いますよね、そういう人」 同意が返ってくる。 そして、「「でも、憎めない!笑」」 と同じ文章を互いに送り合う。 意気投合し、リアルで会うことに。 そして今、互いのその憎めない相手と対面している。
2023年3月25日 20:20
卒業の日。「いつか再会できたら」 彼と交わした別れ際の約束。 また会う日まで立派な彼女になっていたくて、練習としてレンタル彼女を始めた。 しかし最初は客が来ない。 経験のため彼氏をレンタルすると、待ち合わせ場所に見慣れた顔。「立派な彼氏になっていたくて」 以来、彼の予約は私で埋まっている。
2023年3月24日 20:19
『生きる意味が分からん』 昔の俺の口ぐせ。『小難しい。いいから遊ぼ』 ゲーム相手は快活に言った。 そして幾年。「生きる意味、やっぱ分からん」「まだ言うじゃん」 隣り合い、コントローラを握る。「いや、だけど生きていたい」 今の俺の口ぐせ。「ふふっ」 彼女が笑うから、明日も多分、生きたいと思う。
2023年3月23日 19:27
「父さんはな、ヒーローになりたかったんだ」息子に語るのは昔の夢。「特撮の、戦隊ものみたいな?」「そうだ。でも、今はしがないサラリーマンだよ」憧れの姿にはほど遠い。「そうかな」息子は疑問符を浮かべる。「スーツを着て毎日戦ってる。立派なヒーローだと思う……ちょ、父さん、泣いてる!?」
2023年3月22日 19:13
「みらくる、ちぇーんじ!」 アニメキャラの真似をする娘。魔法少女の変身シーンだ。「この子の声、聞いてると安心するの」「不思議ね」 理由には心当たりがあるけど。「私、魔法少女になりたい」 瞳をきらめかせる娘。「なれるわ。お母さんも、魔法少女だから」 あどけない瞳はまだ、その真意を知らない。
2023年3月21日 20:38
「親父さん元気?」「ぼちぼちだよ。そっちは?」「ウチの父はちょっとボケてきてるかも」「え、まだ若いのに!」「まあ、あくまでも今の世の中じゃ若い部類ってだけだから」「そっか。俺たちも今年で還暦だもんな」「80代で若いって言われる世の中になるなんて、子どもの頃は考えもしなかったよな」
2023年3月20日 21:42
「限界オタクって、かっこいい響きだよな」「もうね、それ言ってる時点でお前に限界を感じるのよ」「なんつーか、今月の食費が底を突くまで推しに費やしてそう」「限界違いだな」「だけどな」 そして彼は、懐から消費者金融のカードを取り出し、「俺は、限界を超えるよ」「も、もはやかっこいい……!」
2023年3月19日 22:12
夫は人気の芸人だ。話術の巧さを評価されている。 でも実生活はだらしない。片付けると宣言したのに、気付けば私がやっている。「本当、口だけね」 と悪態をつくと、「口だけで充分生きていけるよ」 と。「でも君がいないと生きてる意味は無いかも」 と調子良いこと言うので、晩御飯は焼肉にしようと思う。
2023年3月18日 19:48
知人の館で一晩を過ごすことになった。 食事中、知人は少年の人形を傍らに置いていた。自慢の品だという。やけにリアルだ。 夜中、寝室で眠っていると。「タスケテ……」 声の主はあの人形。 なんだ、やけに人っぽいと思ったら、人形のフリしたただの人間だったのだ。 がっかりした俺は再びまぶたを閉じた。