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短編小説

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2022年9月の記事一覧

ハマり過ぎ

「くっ、まだまだ……」
 課題としているダンスのステップが、どうしても踏めない。
「こんなんじゃ駄目だ」
 昼休みの空き時間で練習をしている。
 寸暇を惜しんで頑張らなければ。

「あれ、先輩なにしてるんですか?」
 通りがかりの後輩から声を掛けられた。
「ダンスの練習だ。見れば分かるだろ」
「え、なんで? なんでダンス?」
「今度のライブのために! 俺は! この振り付けを覚える!」
 それを聞い

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「あなたの青春、全部いただきます」

 推しのためなら青春を捨てたって良い。
 俺には大好きなアイドルがいる。
 彼女の名はMIKU。彗星のごとく現れた天才アイドル。
 歌やダンスはもちろんのこと、最近は女優としても活躍の幅を広げている。
 多様な役をこなす演技派なのだ。
 バラエティでは見たことが無いけれど。
 年齢は俺と同じ17歳、高校二年生。
 正直、彼女の本当の性格とかは分からない。
 芸能人だからな。
 だったらどこに惚れた

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distance

「少し距離を置いてくれないかな」
 ちょっとイイ感じの女子からそんなことを言われたら、誰だってがっくし来るだろう。
 ショックで大学を休む勢いだった。
 彼女……詠美とは入学時に知り合ってから意気投合、今に至る。
 もう少しで付き合っちゃうんじゃないの、俺たち! ……くらいの気持ちだったのに。
 メンタルが悲鳴を上げている。
 だが、俺には頼りになる女友達が居るのだ。
「うちならいつでも相談乗るよ

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悪魔のような天使

 私は《裁きの天使》。
 誰よりも清らかで、誰よりも正しい。
 そして、悪者を裁くのはたいへん気持ちが良い。
 
 私たち天使のお仕事は、人間界の幸福の総量を増やすこと。
 だから今日も、せっせと善行をこなす。

「誘ったのは君だったじゃないか」
 夜中のとある喫茶店。目の前の男が何事か喚いている。
 先日見かけた際、癒しを求めていた男だった。
「君が食事に誘い、お酒に誘ったせいで、妻から浮気を疑

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あくまでも悪魔

 俺は《未来視の悪魔》。
 未来を見通す力を使って、やりたい放題やっている。
 悪魔の仕事は、人間たちの不幸の総量を増やすことだ。

 しかし俺は「いいヤツだ!」と思われることにこだわっている。
 目指すは誰からもいいヤツ認定されることだ。
 もちろん、人間の皆からもいいヤツだと思われたい。

 ある日、人間界をうろうろしていると。
「ああ! なんでこんな時に限って!」
 都心から少し離れた道路わ

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理想的な夢

 これはどうやら夢らしい。
 告白を承諾されてからデートの約束まで取り付けた。
 しかし、時間の経過につれてだんだんと冷静になってきた。
 だって今まで百回以上もアプローチしてきたんだぞ?
 そのたびに断られてきた。
 何度も断られ、そのうえ他の男からのアプローチも一切意に介さない彼女が、俺みたいなのと付き合ってくれるわけがない。
 しかも噂によれば、各国の重要人物からも声がかかるというではないか

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