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学習障害と診断された生徒さんとの高校合格までの道

前年度には学習障害(LD)と診断されてしまった生徒さんの学習コンサルタントも担当していました。
ぼくが担当した生徒さんは、勉強したことが記憶として定着するまでに時間が掛かってしまいがちで、なかなか勉強がテストの点数へと繋がりにくい傾向がある方でした。

その生徒さんも今は特別支援学校に通っている高校生です。
今回はその生徒さんと、どうやって勉強に立ち向かってきたのか、を紹介させて頂きます。

まずはお母さんの理解を

ぼくが担当していたその生徒さんは、物静かで口数は少ないものの、非常にまじめで、素直で、自分が勉強に対して他の生徒さんよりもさらに努力が必要と分かっていてもめげない、努力家で頑張り屋な方な普通の男の子でした。

その生徒さんも、以前は他の家庭教師から授業を受けていたようでしたが、どうも怖い思いをしてしまったらしく、ぼくの方に依頼が回ってきました。
そのため、ぼくとの初めての顔合わせのときは、「どんな先生が来るのか不安だった」と思っていたことを後日教えてくれました。

初回授業で、顔合わと体験授業が終わった後、その生徒さんとお母さんとの3人でお話をする時間を頂きました。
その機会に、学校のことや学習障害のこと、趣味や興味、ご家庭の事情、これからの目標や志望校などのお話しをさせて頂きました。
このときに生徒さんの本当の志望校を初めてお母さんが知ったらしく、お母さんも、そしてお母さんがそのことを知らなかったことを知ったぼくも、驚いてしまったことを覚えています 笑

その会話の中で、お母さんにひとつだけお願いしたことがありました。
それは、「勉強しなさい!」と生徒さんに絶対に言わないでください、というものでした。

この生徒さんは、勉強しなくてはならないことはわかっていて、自分なりに色々と努力してきていて、それでも結果が出なくて困っています。
勉強への姿勢や費やす時間の問題ではありません。

親からの心無い「勉強しなさい!」という言葉は、親が思っている以上にお子さんを傷つけています
そして同時にプレッシャーを与えてしまい、より勉強に立ち向かえない環境を作りかねません
学習コンサルタントとして、様々な生徒さんを担当してきましたが、親からのプレッシャーに耐えられる中学生は少なく、絶対的に良い方向には進みません。

ぼくは、初対面でこれからの雇い主である生徒のお母さんにそのような話をしてしまったことを今でも覚えています 笑
これも雇われではない、学習コンサルタントだからできる本質的な指導だったのかもしれません。

涙の志望校断念

最初の授業のときに、「今の段階での本当に行きたい、学力は考えないものとして通ってみたい高校はどこ?」という質問を生徒さんにしました。
生徒さんはものづくりに興味があり、手先の器用さにも自信があるとうで、「実は勉強ができたら工業高校に行きたいです」と教えてくれました。

正直な話、テストの点数も成績も、その生徒さんがその高校に入学するには相当な努力が必要なレベルでした。
そういった中で迎えた、第2回静岡県学力調査テスト。
このテストは、いわゆる入試の模擬テストな位置づけであり、このテストの結果次第で受験できる高校が決まってしまうという超重要なものです。
結果は、やはりその工業高校を受験するには点数が全然足りない、というものでした。

この話を聞いたとき、ぼくはすごい無力感に襲われていました。
こんなに前向きで、頑張り屋で、スピード自体は遅いかもしれないがコツコツと努力を続けられる生徒さんを志望校に合格させるどころか、入試すら受けさせてあげられない、という現実を突きつけられていました。

同時に、学力や内申点で行ける高校を決める、という高校入試のシステムそのものにも疑問を感じるようになりました。
内申点は中学校の先生の裁量で決められている部分があり、ようは先生の言うことに従い、先生に気に入られている生徒が評価されやすいからです。
静岡県での高校入試は、特に内申点に重点が置かれており、当日のテストの結果よりも重要視されています。

大学受験もそうですが、合格することに目標があり、入学してから勉強するということに重点を置けていない仕組みだと思っています。
学力でやりたことが実現できるかどうか決める受験という制度ではなく、
入学してから勉強しないと卒業できないような仕組みに変えていくほうが本質的ではないかと感じています。

その後、中学校の担任の先生との話し合いの結果、工業高校は諦めて、地域の特別支援学校を受験することになりました。
その話をぼくに報告してくれたときには、生徒さんは泣いていました。
お母さんも泣いていました。
ぼくはどうしたらいいかわかりませんでした。
それでも、自分の理想通りではなくても、一所懸命最後まで一緒に頑張ろう、という話をしていたと思います。

勉強方法と受験対策

生徒さんとの日々の学習は非常に単純なものでした。
まず最も優先するものは、学校の宿題です。
内申点に直結するものであり、定期テストに出題される可能性が高いからです。
そしてぼくの授業の時間も、基本的には教科書と学校の問題集を使って行います。

この生徒さんは、主に数学と英語を担当していました。
数学は、とりあえず計算問題をできるようにすることから始めました。
説明を受けたときはできても、1週間空いてしまうとできなくなってしまう...の繰り返しでした。
それでも、その生徒さんは頑張っていて、そしてなにより勉強に負けないで立ち向かっていたので、そこについて言及することはありませんでした。
何回でも同じ説明をするよ!任せとけ!!」と生徒さんに伝えたくらいでした。

英語は、完全に仕組み化しました。
本文を読み進めることを一緒に頑張ると決めて、毎週1文章のペースで進めました。
まずは、1文ずつノートに書いて、知らない単語は調べて意味を下に書く。
単語を調べ終わったら、まずは英語で読んでみる。
読み方が分からなかったら、すぐにググって、グーグル翻訳に読んでもらう。
そのあとは、その文の主語と動詞を探す。
....
といった様子です。
生徒さんは、納得できる方法さえ伝えてあげれば、その通りに根気よく続けてくれるし、最後には英語は嫌いじゃなくなった、とすら言ってくれました。

受験対策は『情報収集』から始まります。
まずは志望校の過去問や面接での質問内容を、生徒さんのお母さんネットワークを使って、あるいは学校が持っていることもあるので先生にお願いして、できる限り集めます。
そして、何回も何回も解いていきます。

出題傾向を確認出来たら、過去に出題されていた問題を段々と派生させていき、同じような問題もできるようにしていきます。
そして、だんだんと派生させていく問題を増やしていき、ときどき過去問に戻る、ということの繰り返しです。

受験対策では、いかに生徒さんと教師とで信頼関係ができているかで、生徒さんがどこまで頑張れるかが決まる、と思っています。
普段から強い口調を使ったり、プレッシャーをかけてしまうと、受験勉強のときには結果が出にくいネガティブな循環に陥りやすいです。
先生となら頑張れる、というのは理想すぎますが、一緒に受験勉強をしていく以上、生徒さんと先生との信頼関係は非常に重要です。

この生徒さんも、無事特別支援学校に合格してくれました。
合格発表の日には、掲示板の前で撮影した記念写真をお母さんからLINEで頂きました。
その笑顔を見せられてしまったとき、色々とあったけど、思った通りにはできなかったけど、それでも担当できてよかったと心から思うことができました。

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